ワインが原因になっていたようでした
「ワインが危ないとは……理由はわかりませんが、他ならぬタクミ様のお願いです。わかりました、すぐに人を集めて樽を持って来ましょう」
「すみません、お願いします」
「タクミ様、どういう事ですか? ワインがどうかしたのでしょうか?」
ハンネスさんにとっては村自慢のワインだ、危険だと言われて良い気はしないだろう。
それでも、俺の頼みだからと樽を持って来てくれるようだ、ありがたい。
フィリップさんは、ワインの入ったカップを片手に持ったまま、どういう事かわからずポカンとしている。
「フィリップさん。ここ最近、ラクトスの街で悪質な店がある事は知っていると思います」
「ええ。セバスチャンさんから聞いています……それと何か関係が?」
「もしかしたら、その店と病気が繋がっていて、さらにその原因が判明したかもしれません」
「本当ですか!?」
「レオのおかげですよ。人間には気付けなかった事かもしれません」
気配だけなのか、においも関係しているのか……レオがガラス球に反応して、ワインにも反応した。
おかげでさっきまで考えていた事を、ある程度つなげる事が出来た。
ハンネスさんがワインを持って来てくれれば、確証を持てるだろうと思う。
シルバーフェンリル様々……いや、レオ様々だな。
ハンネスさん達が、ワイン樽を用意して持って来てもらう間、考えをまとめる意味も含めて、フィリップさんにガラス球の事や病の事の説明を始めた。
「お待たせ致しました」
フィリップさんに俺の考えを説明したり、レオを褒めたりしている間に、ハンネスさんが数人の村人を連れて戻って来た。
ワインの入った樽は5個、それぞれ2、3人がかりで横にして転がすようにして運んでいる。
人の腰から胸くらいの高さがある樽だから、中にワインが詰まっているとしたら数百キロはあるだろうと思う。
持ち上げて運ぶのは大変だから、転がして運ぶのが一番簡単なんだろうな。
「ありがとうございます、ハンネスさん」
「それで、タクミ様。樽を運んできましたが、一体どうなさるのですか?」
「ええと、レオに匂いを嗅いでもらいます」
「匂いを……それで何かわかるのですか?」
「レオは嫌な臭いや気配に敏感ですからね。何かがあればすぐに反応してくれるでしょう」
ハンネスさんに説明をしながら、レオを連れて運ばれて来た樽に向かう。
「では、ワインを注ぐ物を……」
「ちょっと待って下さい。まずはこの状態でレオに頼みます。レオ、よろしくな」
「ワフ」
樽からカップにワインを移そうとしたハンネスさんを止めて、レオに頼む。
木で作られた樽だから、レオに判別できるかどうかはわからないが、とりあえずだな。
レオの体の大きさから考えると、こっちの方が匂いを嗅ぎやすいだろう。
もしこれでわからなければ、カップに注いだワインを嗅いでもらう事にしよう。
「ワウ……ワフワフ。ワフ……ワフワフ」
俺が頼むと、レオはゆっくりとワインに近付き、顔を近づけて匂いを嗅ぎ始めた。
樽を運んできてくれた村人達は、大きなレオの体を邪魔しないように離れて見守ってくれている。
「ガウ!」
1つ目、2つ目と匂いを嗅ぎ、3つ目の樽に顔を近づけたレオが一度吠えた。
どうやら、当たりかもしれない。
「レオ、その樽以外はどうだ?」
「ワフ……ワウー。ガウ!」
4つ目の樽には何も無く、5つ目の樽でまた吠えた。
3つ目の樽と5つ目の樽が怪しいわけか。
「ワフワフ。ワーウガウガウ」
「ふむふむ」
「レオ様はなんと?」
樽を嗅ぎ終えたレオから、どう感じたかを聞く。
様子を見守っていたフィリップさんは、レオが何て言ったのか気になるみたいだ。
「ええと、3つ目と5つ目の樽から、球やフィリップさんの持っているワインと同じ嫌な臭いと気配がしたようです。……つまり」
「街で広がっている疫病と同じ気配……と?」
「そういう事です。ハンネスさん、この樽は何か違いはあるんですか?」
レオがしっかり嗅ぎ取ってくれた事をフィリップさんに伝える。
どうやら俺の考えてた事が当たったらしく、樽のワインから病の嫌な気配がするとの事だ。
5つある樽から、嫌な気配がするのは2つ……この違いはなんだろうか……?
「3つ目と5つ目は、ワインとしての熟成が若い物となります。それ以外の樽は、蔵の奥にある熟成されたワインです。昨夜の宴で出した物と同じ物です」
昨夜の宴で俺が飲んだのは、蔵の奥にあるワインだったようだ。
だからレオは昨日何も反応しなかったんだな。
「熟成が若い物……その樽は、何処に置かれていましたか?」
「蔵の入り口近くです。蔵では、熟成される期間が長い物程奥に置くようにしております。熟成期間によって味も香りも変わりますから……それぞれ別物としてラクトスに卸しているのです」
「成る程……その球は入り口近くに置かれていたんですね?」
「はい、そうです」
ハンネスさんに樽の置かれていた場所を聞いて、推測が確信に変わる。
未だにガラス球を持っているハンネスさんの手を示しながら聞くと、ガラス球は入り口付近に置いてあるという事で間違いないようだ。
「レオ、ありがとうな。おかげで色々わかって来たぞ」
「ワフワフ」
「結局、どういう事ですか?」
「そろそろ詳しく説明してもらえますか?」
レオにお礼を言いながら、その体を撫でていると、説明を聞きたいハンネスさんとフィリップさんから声が掛かった。
色々俺の頭の中でだけ考えてる部分もあるから、説明しないと他の人達がわからないのも当然だな。
「ええとですね、推測も混じるのですが……まず、事は病の原因から始まります」
俺はレオから手を離し、ハンネスさんとフィリップさんに向き直って説明を始めた。
「フィリップさんはよく知っていると思いますが、今ラクトスの街では効果を薄めた薬や薬草を売る店があります」
「はい」
「私も危うく買わされそうになった店ですね」
「そうです。その店は、今から1カ月と少し前からラクトスで商売を始めました」
「1カ月と少し……」
ハンネスさんは、例の店が商売を開始した時期と、ガラス球を商人が持って来た時期が重なる事に気付いたようだ。
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