新馬車の乗り心地は快適方面でした
揺れ自体は当然あるけど、整備されていない悪路でも激しい衝撃はいつもの馬車よりは少ないと感じる。
当然ながら、石などに当たって馬車自体が多少跳ねる事くらいはあるし、いつもの馬車でもそうだけどそれも大きく跳ねないようになっている気もする。
子供達……リーザやティルラちゃんはそれすら、アトラクションのように感じて喜ぶけど、ずっと乗っているとお尻が痛い。
「そういえば、使っている木材に柔軟性があるって言ってましたっけ?」
柔軟性があるという事は、柔らかいという意味でもあるから……それで衝撃を吸収しているとかだろうか?
「木材の柔軟性で揺れを和らげている、というのもあるとは思います。ですがどちらかというと、新たな仕組みの方が作用している気がしますな」
「新たな仕組みですか?」
「はい。なんといいますか、こう……金属を巻くかのように円を描くようにした物と言えば良いのでしょうか……」
もしかして、コイルばねとか巻ばねの事だろうか?
だとしたらつまり、新しいスプリングが組み込まれたサスペンションってわけかな。
ばねの衝撃吸収は優秀だからな……詳しくないけど、なんとなくそういうイメージだ。
「詳細は省きますが、その新しい仕組みの発案により衝撃を抑えて、馬車の耐久性を上げると共に乗っている人への負担も減らす優れもの。という触れ込みでしたな」
「成る程……」
説明好きなセバスチャンさんが詳細を省くという事は、セバスチャンさん自身もまだあまりよく知らない仕組みなのかもしれない。
知っていたら、喜々として説明しただろうから。
ともかく、やっぱり新しく使っている仕組みというのは、衝撃吸収用のサスペンションを作ったとかだと思われる。
馬車の細部に、金属が使われてより耐久性を高めてあるのもあって、性能を向上させた馬車になっているって事か。
一瞬ユートさんがばねに関して発案したというか、伝えたのかなと思ったが……それだともっと早く実用化されていてもおかしくないので、多分違うか。
まぁ地球の知識をこちらで広めようとしても、定着しなかった場合もあると言っていた事もあるから、絶対ないとは言えないけど。
「うぉっと! ふぅ……」
「きゃふ! あはははは!」
「きゃ……!」
馬車の車輪が大きめの石を踏んで跳ねて思わず声を出してしまう。
リーザは楽しそうにしているが、クレアも俺と同じく驚いて声を上げていた……揺れが大きい時や跳ねる時に喋っていると、舌を噛みそうでちょっと怖いな。
レオはただ馬車を曳いて走っているだけだから、石とかはあまり気にしていないようだけど。
「結構跳ねましたね。でも、今のも他の馬車だったらもっと大きく跳ねてしまっているかも、と考えるとこの新しい馬車は画期的なのかもしれません」
「確かにね。衝撃が乗っている人に伝わらないよう吸収されて、大きく跳ねすぎないってだけでも、耐久性は上がるだろうし」
衝撃というのはそれだけで故障の原因になるからな。
それが抑えられるってだけでも、相対的にこれまでの馬車よりも耐久性は上がっていると言えると思う。
まぁその分、重量は増えているんだろうけど……新しい木材の重さは知らないけど、取り付けられた金属が増えているからな。
重さというのはそれだけで衝撃を吸収する役目があったり、跳ねる動きを抑えたりもできる。
ただまぁ、馬が曳くという性質上重くし過ぎればその分、安定性は増しても速度が落ちたり、馬が疲れやすくなったりという弊害もある。
要は、馬力に対して重さやバランスがってわけだけど……レオやフェリー達は馬車を曳いているというのを感じさせないくらい、軽やかに駆けているから少々重くなった程度では問題ないようだ。
この場合、馬力ではなく狼力とでも呼んだ方がいいのだろうか? 馬車の呼称と同じく、こちらも要検討だな。
どうでもいい事かもしれないが。
「リーザはどうだ? この馬車の乗り心地とか……」
一応、リーザの方にも意見として聞いてみる。
いつもは馬車ではなくレオの背中に乗るから、馬車は乗った回数自体が少ないけど、子供の意見というのも大事だしな。
まぁリーザの場合は馬車の乗り心地というより、俺の膝の乗り心地になってしまうかもしれないが。
「うーん、もうちょっと飛んだり跳ねたりする方が、リーザは楽しいの」
「ははは、それをしないための仕組みとか新しい木材なんだけど、リーザにとってはそうなのかもな」
「長時間乗っていると、また違う意見なのかもしれませんけどね、ふふ」
少し考えてから、俺を見上げてそう言うリーザは確かに物足りなさそうで、耳は楽しい気持ちからかせわしなく動いているけど、尻尾の方はレオとは違ってあまり動いていなかった。
完全にアトラクション化してしまっているけどまぁ、乗り慣れないとそんなものかもしれない。
クレアの言う通り、長く乗って比べると遊びとは別の違った意見が出て来るかもだが……主に、お尻の痛みとか乗り物酔いとか。
「エッケンハルトさん達はどうだろう……? って聞くまでもないみたいだね」
「そうですね。楽しんでいるようです」
呟いて、エッケンハルトさん達の方を見てみると、俺達の乗っている馬車とは別の荷台の馬車、その御者台にいる人達ははしゃいでいるようにすら見えた。
ティルラちゃんはフェリーをしきりに褒めているような、そんな声が聞こえてくるし、手綱を握っているエッケンハルトさんの笑い声も聞こえる。
見える表情もそのまま笑顔で楽しそうだ。
ちなみに、馬車を曳くレオやフェンリル達はハーネスと一緒に手綱が繋げられているが、あくまで形だけ。
一応手綱を引いてレオ達に意思を伝える事はできるが、基本的には言葉で指示を出す。
というかレオのは俺が握っているけど、馬車どころか馬にも一人で乗れない俺に手綱で制御する能力はないからな。
最初はいらないと思って付けなくていいだろうと、セバスチャンさん達と話していたんだけど、レオがむしろ付けて欲しいと願ったから、こうして握っていたりする。
以前、マルチーズだった頃お散歩へ行く際にリードを付けていたのを思い出したかららしい。
お散歩気分と言う意味では、確かにリードならぬ手綱があった方がレオにとっては楽しい事に繋がるのかもな。
さらにフェンリル達がそれに追随して、結局皆手綱を繋げて御者台に乗る人が握る事になったってわけだ――。
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