新しい馬車で走り始めました
少しだけ新木材も含めての値段の話になったが……この馬車、試作が成功したとして活用されるのは、レオやフェンリル達と一緒にいる俺達の所。
それ以外は少し簡素な物を用意して、駅馬で使われるわけだけど……さすがに試作品に対する費用は、俺も出す事になっている。
俺が使う物にもなるわけだし、そこは当然だな。
だから、お金に余裕はあるとしても高いと思うと物怖じしてしまうのは、以前からの小市民的な部分が関係しているのだろうか。
「お金を贅沢に使ってこそ、という考えもありますが私達はそれを好みません。ですから、安めの誰でも買えるような小さな馬車なども所有しているんです」
「あぁ、そういえば。こちらに来てすぐ、ラクトスに行くときにも乗ったっけ」
二人から三人くらいが乗れるくらいの馬車などもあった……馬が一頭で曳けるくらいのやつだな。
今乗っている物は、本来馬二頭で四人から六人乗りといった大きめの物だけど。
節約、と言うわけではないけど必要がなければ高い物でなくてもいい、という考えを公爵家は有しているようだ。
とはいっても、本当にクレアの言う通り誰でも買える物、というわけじゃないんだろうけどなぁ……公爵家のご令嬢として、金銭感覚は一般とかけ離れている部分はやっぱりあるだろうし。
初めてラクトスに行った時に、服は全てオーダーメイド、仕立てる物だと思っていたのもその一つか。
「何か、変な事を考えられている気がします……」
「い、いや何も……」
俺の考えている事が伝わったのか、クレアがこちらをジト目で見ている。
レオだけでなく、クレアにまでジト目されるようになったか……それだけ、気安い仲というかお互い遠慮なく接する事ができている証のようにも思えるけど。
「そ、それじゃ準備ができたようだから……お散歩に出発だ!」
ともあれ、話しを逸らすためにササッと周囲を確認して、レオに声をかけてお散歩……というか新馬車のお試しに出発するよう促す。
今更だし、前にも考えたけどレオやフェンリル達が曳くのに、呼称は馬車のままでいいのかな? まぁ、誰も気にしていないし、今のところはなんでもいいか。
「出発ー!」
「ワフー!」
「こちらも出発するぞ!」
「出発ですー!」
「グルゥ!」
俺の言葉にリーザが手を挙げ、レオが楽しそうに鳴いて走り始めるのに合わせ、別の馬車でエッケンハルトさんも声を上げてフェリーが駆け出した。
別の馬車、もう二つあるうちの一つには御者台にエッケンハルトさんとティルラちゃん、キャビンにセバスチャンさんと同じく確認のための使用人さんで、曳くのはフェリーだ。
もう一つは、夫婦のため手綱で操らなくても息を合わせて走る事ができそうな、フェンとリルルが曳いている方には、御者台にユートさんとルグレッタさん。
キャビンにはエルケリッヒさんとマリエッタさん、それにこちらも同じく使用人さん……マリエッタさんが連れて来た、ハイディさんが乗っている。
こういう時、俺はレオの曳く馬車だから人の事は言えないかもしれないが、必ずと言っていい程参加したがる公爵家の面々、プラスユートさん。
まぁ、危険な事があるわけじゃないからいいんだけど……遊びじゃないが、楽しそうな事には全力参加なのはさすがの行動力と言ったところか。
……ある程度どうなったかの報告は受けているけど、周辺の兵士さんを集めるとか、ユートさんの全貴族への報せとかは大丈夫なんだろうか?
いや、さすがに大丈夫じゃなかったら、こんな事に参加していないか……エッケンハルトさんとユートさんは、大丈夫じゃなくても参加しそうという考えは、とりあえず頭の隅に追いやった。
「おっと。レオ、まずはゆっくりだぞー!」
「ゆっくり―!」
「ワフ!」
駆け出したレオに引っ張られて、新馬車が動き出したのはいいんだけど、ちょっと勢いが付き過ぎていたのでレオに言って速度を落としてもらう。
レオにとって楽しい楽しい散歩の代わりとはいえ、馬車を試すためでもあるからまずは緩めの速度からだ。
徐々に速度を上げて、耐久性などを確かめて行かないとな。
「フェンリル達も、子供達が乗っているんだからはしゃぎすぎずに、ゆっくりなー!」
「ガァゥ!」
「ガフ!」
レオの曳く馬車、フェリーやフェンが曳く馬車の周囲では、子供達を乗せたフェンリル達も走り始めたので、そちらにも声をかけておく。
走るのが好きなフェンリルと、そんなフェンリル達と遊びたい子供達もついでだからと一緒にいる。
それぞれのフェンリルには、一体につき二人の子供を乗せているが、余裕があるので三人はと思ったが安全のために一応大人を一人乗せるためだ。
同乗しているのは使用人さんだったり従業員さんだったり、あとランジ村の人だったりだな。
「曲がる時には注意も必要だぞー、準備中に教わったようになー!」
「ワッフ!」
ランジ村から道のない東へと少し進んだ辺りで、今度は方向を変えるためにレオが曲がる。
ただし、車でも速度を出していると曲がりにくいのは当然だが、車と違って馬車の方の車輪は角度が変わらない。
車だとハンドルを回して角度を変えるけど、レオやフェンリル、馬が曳く馬車でそれは難しいからな……。
そのため、曲がる際には前進しつつゆっくりと角度を変えていくしかないわけだ。
急な方角変更は馬車に負担がかかるだけならまだしも、壊れてしまう可能性が高いからな。
そうしてさらにしばらく、ランジ村東から南の辺りを回るように走り続ける。
「ふむ、街道のように整備されていない道ですので、もっと揺れるのを覚悟しておりましたが……それほどでもありませんね」
徐々にスピードアップして、通常の馬が曳く馬車より少し遅いくらいになった辺りで、キャビンに乗っているセバスチャンさんからの声。
「御者台に座っていても、それは実感できます」
「確かにそうですね。普段なら、少し痛くなる事もありますから……」
クレアははっきりと言わなかったけど、痛くなるというのはそういう事だろう。
まだ試作段階で、馬車も到着してすぐだから人が乗る場所に手が加えられておらず、クッションみたいなのもないため、木材へ直に座っているのと変わらないのにも関わらず、だ。
……一応、座っている場所には布などが敷かれてはいるけども。
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