レオにとって楽しい時間が来ました
「別に、エラーも失敗もないんだけど……」
俺のギフト、『雑草栽培』だけ他のギフトとは違って、本来ない物すら作れるというのなら、ある意味エラーが起こっているとも言えるのかもしれないけど。
ともかく、真面目な話をしたかと思ったら、結局普段の周囲に溜め息を吐かせても気にしないユートさんに戻り、催促された通りに疲労回復薬草などの新種をもう少しだけ作る事になった。
レオやリーザも見たがったからと言うのもあるんだけど……レオ達は何度も間近で見ているだろうに。
リーザの「パパの凄い所、見たーい!」とか言われて、レオにも同意されたら弱いなぁ俺……。
そんな俺を見たユートさんが、ほくそ笑んでいたから嫌な予感しかしないし。
リーザに見せない所で、少しだけお酒を飲めるように用意しておいた方がいいかもしれない。
お酒なら、ランジ村で作っているのもあって困る事はないだろうしな。
なんて考えながら、何度目かの新種作りに勤しんだ……けど、結局さっき話した内容以外には特にわかった事なんてなかったので徒労感が凄かったのは溜め息とともに空気に混ぜて、体内には溜め込まないようにした――。
「よーしレオ、お散歩の時間だぞー!」
「ワフ、ワッフワフ!」
「ふふ、レオ様嬉しそうですね」
「お散歩って言葉自体が好きだからね」
ユートさんのおねだりにより、『雑草栽培』で新種が判明したしばらく後、レオや数体のフェンリル達を連れてランジ村の外に出て声をかける。
クレアは尻尾をはちきれんばかりに振っているレオを見て笑っているけど、昔から「お散歩」という言葉にとにかくいい反応をしていたレオだからなぁ。
今もそうだけど、マルチーズだった頃はまだ外に出る前なのに、その場でクルクル回ったり興奮を隠せないくらいだった。
散歩好きの犬というのは多いと思うけど、レオもその例に漏れずだ。
散歩という言葉が聞こえるか、俺がマルチーズだった頃のレオが使っていたリードやお散歩グッズに触るだけで、期待して反応していたっけ。
尻尾を振り過ぎてお尻まで左右に動いていたのは、見ていて面白かった。
今も同じだけど……大きな尻尾が触れるたび、結構な風がこちらに来るからもう少し落ち着いて欲しい。
そう、俺達は今レオの隣や前ではなく真後ろにいる……。
「レオ、何か嫌な感覚とかはないか?」
「ワウ? ワッフワウ!」
「……お散歩が楽しみで、それどころじゃないみたいだな」
レオの体には、馬に付けるようなハーネスが取り付けられている。
ティルラちゃんがラーレに乗るときとりつけるような、特注の鞍は嫌がったのに……走れる事やお散歩が嬉しくて気にならないみたいで良かった。
「細部はともかく、パッと見はほとんど変わらないみたいですね」
「そうですな。特注で作らせましたが、外観などは新しくするより既存の物を流用した方が短縮できますから」
「でも、座り心地は少し硬いかしら? 御者台に乗るのは初めてだからわからないけれど……」
新しく試作された馬車が昨日のうちに届き、その試験をこれからするためにレオと馬車がハーネスで繋がれている。
俺はレオに指示を出すために御者台に座り、膝の上にはリーザ。
隣にはクレアがいて、何故かキャビンと言うのだろうか? 普段はクレアや俺が乗っている方にセバスチャンさんが乗っている。
乗り心地や、実際にレオが曳いて走った時にどうなるかを試すためらしいが……。
フェンリルならまだしも、レオが曳いている馬車の御者台に座るのは畏れ多い、とも言っていたっけ。
ならキャビン部分に乗るのもと思ったけど、そこは直に指示を出す……形だけとはいえ手綱を握らなくていいからとか。
ちなみに馬車は三台あり、一つはレオが、もう二つはそれぞれフェンリル一体と二体で曳くよう準備されている。
馬車は少人数で乗るタイプではなく、以前にもクレアと乗った事のある公爵家の権威を誇る意味も兼ねている、豪奢な物。
見た目としては特に変わりはなく、他の馬車と同じように木造だが、よーく見てみると細部の繋ぎ部分なども含めて少し金具が多くなった印象だ。
パッと見は、特に変わった感じは見られないが。
「新しく丈夫に、というのもありますが……この馬車ではこれまでとは別の木材を使っております。柔軟性があり、さらに丈夫なのでレオ様やフェンリルが曳いても壊れない事を期待してです」
「新素材、というわけですか?」
レオに声をかけたり、楽しそうにしているリーザを撫でたりしつつも、馬車を見ていた俺に気付いたからだろう。
御者台の後ろのキャビンからセバスチャンさんが説明してくれた。
さすが、説明できる場面は見逃さない……。
「完全に新しい物と言うわけではありませんな。元々あった物なのですが、少々数が少なく、希少と言う程ではありませんが値段が高くなってしまうのです。そのため、これまで馬車には使われておりませんでした。建材として一部で、というところですかな」
「そういう事ですか」
「その新しい木材も、ブレイユ村近くなどを含めたフェンリルの森の物らしいですよ、タクミさん」
「へぇ~、そうなんだ。近くに森があるし、色んな木材があるんだなぁ」
セバスチャンさんの説明のフォローをするクレアに、感心の声を出す俺。
ランジ村北の森もそうだけど、ブレイユ村の近くや西に広がっている、俺が初めてこの世界に来た時にいたフェンリルの森は、単一の樹木で形成されているわけじゃないからな。
希少ではないとセバスチャンさんが言っていたから、森に入った時に俺も見かけた事はあるかもしれない。
数が少ないだけでなく、もしかしたら加工がしづらいとかもあって、価格が高めなのかもしれないが……。
「という事は、この馬車は結構高いのでは……?」
「体面を保つため、という意味合いも含みますから貴族の使う馬車は、往々にして値段が高くなってしまいますし、そう作らせますな。この馬車は特に、試作というのもあってそれらよりもさらに……とはなっております。詳しくは後で、アルフレットやキースに」
「……はい、わかりました」
新素材と言うわけではなくても、お高い木材をふんだんに使っている以上値段も相応に……と思ったら、試作だからというのもあって、さらに高い様子。
セバスチャンさんがここで言及しないのも、ちょっと怖い。
お金の話をしている状況じゃないからかもしれないが――。
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