ユートさんから気を付けるよう言われました
「でも本当に不思議だよね。あり得ない、存在しない物を作り出すギフト……やっぱり解明してみたい……」
「解明どころか、解剖しそうな表情でこちらを見ないで欲しいんだけど」
「さすがに解剖なんて意味ないから、そんな事はしないよー」
そう言って、ひらひらと手を振るユートさんに、小さくホッと息を吐く。
興味深々、どころかマッドサイエンティストっぽい目になっていたからなぁ……マッドサイエンティストと解剖を結びつけたのは、俺の勝手なイメージだけど。
マッドだからって、絶対解剖をするとは限らない……かも?
「まぁでもね、長く生きていると人への興味とか、何かの事象への興味は大事なんだって思うんだよ」
「興味?」
「そう、興味。知的探求心と言い換えてもいい。それがあるから、生きる気力が湧いてくる気がするんだよね。僕にとっては、ゲームみたいにと考える事でその探求心とかを満たしつつ、絶望しないでいられるってわけ。この世界に来た当初、本当にゲームに入り込んだようだって喜んだのもあるけど」
だからこそ、少年のように目を輝かせて妖精への興味から、フェヤリネッテを追いかけまわしていたのかもな。
……最初は完全に変質者のような追いかけ方だったから、あれはもうやめて欲しいと思うけど。
どのようにしてユートさんがこの世界に来たのかはわからないし、俺自身がどうしてなのかもわからないが、ゲームに入り込んだ……かぁ。
ゲーム好きなら、剣があって魔法もある世界なんて聞くと、そう感じてもおかしくないのかもしれない。
ともあれ、気が遠くなる程の年月を生きていると興味を持つかどうか、というのはそういう意味を持つことだってあるのかもしれない……二十年程度しか生きていない俺には、わからない境地だけど。
ご老人とか、趣味などを持つと生き生きとして若々しい人がいたりもするからなぁ。
セバスチャンさんとか、年齢的には高齢で間違いないんだけど、時折エッケンハルトさんよりよっぽど若く見える事もある。
「まぁともかくさ、解明とかは僕が勝手にやるからいいとして……」
「勝手にやられても、困る気がするけど」
べったり張り付かれたら、視線やらなにやらが気になって他の事に集中できそうにないからな。
「迷惑……はかけないとは言えないけど」
「言えないんだ……」
「まぁまぁ。とりあえず好奇心は満たされたから、もう少し自重するように気を付けるよ」
興味から好奇心に変わったのは、突っ込んだ方がいいのだろうか?
似たようなものと言われればそれまでだが。
「とりあえずタクミ君は、もう少し……ほんのちょっとだけでいいから、気を付けた方がいいかもね?」
「気を付ける?」
「うん。本来はあり得ない植物、薬草。広く知らしめる気はないようだから、僕としても安心しているけど」
まぁ、疲労回復薬草や筋肉回復薬草などはそのまま市場で売る、なんて事は考えていないからな。
詳しい人ならもしかすると、新種だとバレるかもしれないし、そうすると俺のギフトに関しても多くの人に知られてしまう恐れもある。
だから、新しい薬として原材料は誤魔化しつつ、ミリナちゃんに調合してもらっているわけだし。
あぁそういえば、そろそろミリナちゃんの方にも作ってあげないと……よくある薬の調合とかも始めているみたいだし、目玉商品にするつもりだから量産もしないといけないし。
単純作業で、危険じゃない事は子供達にもある程度手伝ってもらっているみたいだけど。
「タクミ君のギフト、その謎な部分だけじゃなくてギフトってだけで敵視する人っていうのもいるからね。できるだけ知られない方がいいと思うよ」
「ギフトを敵視……?」
便利な能力だとは思うけど、それを敵視するような人もいるのか。
「一応、この国にはいない……ようにはしているよ。だからほんの少しだけ気を付けてってね」
「この国にはいないって事は、他の国に?」
「そう。この国ってね、大陸の中心って程でもないけど、その近くにあるんだ。で、他の国に囲まれてる。海関係の物は別の代替えと言うか、方法があってなんとかなっているけど……海とは隣接していない」
「内陸部の国って事だから、海は遠いんだなぁ」
海、広くて青い海は島国出身者としては少し恋しくも感じるけど、海その物に深い思い入れがあるわけじゃなから、どうしても見に行きたいと思う程じゃない。
魚介類とか、海産物は食べたいけど……わかめが欲しいなぁ。
「んでね、その中の国にはギフトを嫌っている国があったりするんだ。なんというか、本来ある世界が正しいんだって」
「本来ある……って事は、その国はギフトの由来とかも知っているんだ」
「まぁ国単位でなら、上層部というか国王とかそれに近い人達は色々知っているはずだよ。昔、僕が色々やらかしたからなぁ」
「やらかしたって……」
やった、ではなくやらかしたという部分になんというか、嫌な感じを受ける。
何をやらかしてしまったのかまでは怖いから聞かないが。
「長年生きていると色々あったんだよ。ほら、この国でもジョセフィーヌさんの話をした時に、ちょっとタクミ君に話したと思うけど」
「ジョセフィーヌさん……あぁ、そういえば。戦争とかもあったって」
リーベルト公爵家、初代当主様でありクレアやエッケンハルトさん達のご先祖様だけど、シルバーフェンリルに関係する話やギフトの事が多かったけど、その中に他国との戦争という話があったと思い当たる。
日本みたいに島国で他国とは物理的に離れているうえ、現代では戦争をしない方向で一応のかじ取りがなされていると馴染みがないけど、地続きだとそういう事もあるよなぁ、という感覚。
世界的に調停をするような組織とかもなさそうだし。
「戦争をする理由は様々だし、それ一つじゃないけどさ。でもその中の一つにね、そういう思想もあったんだよ。僕がギフトを持っているのは知れ渡っていたし、ギフトを持っている人を保護したりもしていたから」
確か、元々この国のある場所は魔境と呼ばれていて、魑魅魍魎ならぬ大量の魔物がいて手出しできなかった状態だったとか。
さすがに一人ではないはずだけど、その魔境を平定したのがユートさんで、そこに建国したのもユートさんだ。
ギフトを持っている事くらいは、他に知られていてもおかしくないか――。
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