他にも新種の薬草があるかもしれないようでした
「はいはい、今ので打ち止めって事で」
「ぶぅ……でもタクミ君、疲労回復の薬草だっけ。もしかしたらそれも新種なんじゃない?」
「え……?」
一瞬だけ頬を膨らませたユートさんだけど、何やら思わぬ言葉を……。
「確かに、薬草が載っている本には書かれていなかったし、他では見ない薬草かもしれないけど……」
疲労回復薬草……筋肉回復薬草や感覚強化薬草もそうだけど、これまで見た本のどれにも書かれていなかった。
セバスチャンさんやヴォルターさんといった、多くの本を読んだ人達も知らない物でもある。
ただロエのような薬草もあるから、もしかしたらこんな魔法的な効果の植物がどこかにあってもおかしくないかなぁ、という程度に考えていたんだけど。
「明るいからはっきりとは見えなかったけど、なんとなくタクミ君の指の隙間が光っていたように見えたよ。抜かりなく、タクミ君が作る動作に入ってからしっかり視るモードにしたから」
「視るモードって……またあの魔力視ってやつ?」
魔法の一種ではあるようだけど、魔眼とも呼ばれていて人間にはない能力らしい魔力視。
魔力を視覚で捉えられる効果みたいだが、『魔導制御』というギフトを持つユートさんだから使える魔法でもある。
でも、ギフトは魔力や魔法ではないからいくら魔力視でも見る事なんて……。
「ううん、違うよ。魔力視とはまた別のもの。まぁとにかく、サニターティムの発光丸薬とかよりよっぽど仄かな光だったし、夜でも周囲に明りがあればほとんど見えないくらいだと思う。けど確かに光っていたよ。そして僕は、今のルグレッタのように簡単に蓄積された疲労を取るような植物を知らない。疲労が取れたような錯覚でなければね」
「それってつまり、疲労回復薬草も新種の植物っていう事……なのか……?」
ユートさんの言葉が正しければ、実際に作っている俺ですらわからないくらい仄かな光が発せられていて、ゼンマイなどと同じように本来はないはずの植物って事になるのか……?
新種というのは、実際に根付いて数を増やす事はできないが、とりあえず便宜上ゼンマイやシェリーの怪我を治した薬草など、俺が『雑草栽培』で作り出した一部の薬草をそう呼ぶと、カナンビスを作った場でエッケンハルトさん達とそう決めた。
新しい植物を創造している、なんて言葉にしていたら誰に聞かれるかわかったもんじゃないし、新種を発見したという事にしようってわけだな。
ただ、これまで何度も作って来ていた疲労回復薬草が、その新種だった可能性がある、と。
危険な薬物みたいに、疲労を忘れるとか取れたように錯覚させるわけではなく、本当に疲労が取れる上に副作用もない。
よくよく考えれば、そんな効果の薬草ってかなり特別で強力な物なんじゃ……。
「てっきり俺は、魔法もあるこの世界だからそういう物もあるのかなって程度に考えていたけど……ロエとか、地球じゃ考えられないとんでもない物だし」
「ちっちっち、それは違うよタクミ君。怪我というのはわかりやすいだろう? それとは違って、疲労というのは目に見えないし、他人にはわかりづらいものだ。うん、まぁそう言うのはいいとして、魔法だからって万能なわけじゃない。人間が使える魔法というのも限られているからね。そして、当然ながら人が感じる疲労なんかを回復させる魔法なんてのもない」
人差し指を左右に振るユートさんに、少しだけイラッとしたけど……ルグレッタさんに抱えられたままなので全く格好がついていないから気にしない事にして。
魔法だからって当然なんでもできるわけじゃない。
翻って、植物にだってなんでもできるわけじゃないってところか。
「じゃあ疲労回復薬草がそうだとして、もしかしたらこれまで作った薬草も、もしかしたら新種の可能性もあるのか……」
「そうだよ。だからほらほら、ちょっと作って試してみようよ。今まで作った薬草を」
「うーん、なんというかユートさんに言われてはいわかりましたって作るのはなぁ」
「なんで!? 僕、タクミ君に何か悪い事した!?」
大袈裟に驚いているユートさん。
悪い事はしていない……けど、割と面倒だと感じる事がここ数日で色々とあったからなぁ。
先にこの世界に来ているのもあって、色々と教えてもらっている恩とかはあるから、頼みを聞くのはやぶさかじゃないがなんというか、どうしてもぞんざいな扱いになってしまう。
それも計算に入れて、ユートさんが行動しているなら驚きだけど……。
「閣下、私に抱えられながら暴れないで下さい。あ、こら! 変な所に触らないで下さいっ!!」
ジタバタと、ルグレッタさんに抱えられたままで暴れるもんだから、鎧越しにどこか触れてはいけない場所に触れてしまったんだろう、手を握り締めたルグレッタさんが叫びと共に強くユートさんの頭を叩いた。
まぁルグレッタさんも女性だしな……護衛さん達との訓練に参加していたのか、きっちり鎧を着こんで勇ましい姿とは言え。
「てっ!! つぅ……拳骨は酷いんじゃないかなぁ。頭の中で火花が飛んだ気がするよ……でもそれもまた……」
「うわぁ……」
痛がっていながらも「ぐへへ……」と口に出しそうなだらしない表情になるユートさんに、思わず声が漏れた。
うん、ユートさんが全て計算ずくで行動しているなんて事は、こんな姿を見たらないよな。
俺の考えすぎだ。
「はぁ……仕方ない。えーと、ここじゃ畑を使う事になっちゃうから、移動してからにするかな」
一つくらいならともかく、複数作るなら薬草を栽培するための畑の土を使うのはいただけない。
栄養などもその分取られるだろうし……と考えて、別の場所へと移動するよう考える。
「さすがタクミ君、素直じゃない態度でもちゃんと頼みを聞いてくれる! そこに痺れる憧れるぅ!」
「一生痺れていてもいいんだけど……」
痺れなくてもいいし憧れなくてもいいんだけど。
いや、痺れてくれていれば余計な事を言われたりしなくなるかな? と思ったけど、とりあえず助かっている事もあるので、ボソッと突っ込むだけにしておいた。
何か日本で聞いた言葉な気がするから、突っ込まずにはいられなかったというのもあるけど――。
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