興味の対象がこちらに移り変わりました
「ねぇねぇタクミくーん。特殊な薬草、作ってみなーい?」
「特殊な薬草って……あれとか、シェリーを治した薬草の事? 予定はないし、むやみに作ったらいけない気がするからなぁ……」
カナンビスを作って色々と試した二日後、俺はずっとユートさんにまとわりつかれていた。
正確には、俺のギフトが他のとは違うようだ……という予想を元に、興味というか探求心みたいなものが刺激された結果らしい。
つい数日前までのユートさんの興味はフェヤリネッテに向いていたのに。
暇さえあれば俺に作る時光るような薬草を求め、実際にギフトを使って作る所を見せて欲しいとせがみ続けては、ルグレッタさんに引きずられて行く、という繰り返しだ。
いい加減、ちょっと面倒に思って扱いがぞんざいというか逃げたくなってしまう。
……魔力球を出すまでのフェヤリネッテって、こんな気持ちだったのかもしれないな。
ちなみにそのフェヤリネッテは、サニターティムの丸薬による予防効果を試して成果を上げていた。
サニターティムの花弁一つでできた丸薬では約一時間程度なのに対し、二つで二時間。
これで加算方式に効果が伸びるのかと思えば、三つの場合四時間、四つで八時間と、法則性のある間隔で効果が伸びるようだ。
発光時間なども同じく、俺の『雑草栽培』による状態変化や人間以外の誰かが作った時に、花弁の数が増えれば増える程大きくなるのは当然として、発光時間も伸びるようだ。
遊びのような感覚で楽しくなったのか、リーザが喜んでこねてくれるからありがたい。
……レオは割と早い段階で飽きたのか興味をなくしたけど、リーザにせがまれて一緒に作っていたりする。
ただ、発光時間に関してはどれだけ伸びようと一時間程度で、それ以上は作る誰かや組み合わせ、花弁の関わらず伸びる事はなかった。
発光しなくなった丸薬の方はまだ上限がなく、今は五つの十六時間を調べ終えて六つで三十二時間になるかを調べている最中だ。
とりあえず、予防効果が残る発光しなくなった丸薬はそれはそれで使い道があるとしても、カナンビスの影響を受けてしまった場合に備えて、根と一緒に乾燥させて保管しておく事になっている。
そして保管用なども合わせて、サニターティムを量産すると共に薬草畑の最初の栽培物にするため、用意されていた畑で作り終わった辺りで、ユートさんが絡んできたってわけだ。
それと、向こうの準備も終わっただろうから、カレスさんの店で販売するミリナちゃんの作った薬と、いつも卸している薬草も作った。
そろそろ、ニックが取りに来る頃だと思われる……今日来なかったら、明日か明後日くらいかな?
「ラクトスへの薬草も作ったし、今日はこれで打ち止めって事で」
「お酒を飲めば、もっと作れるでしょ? ほらほら~」
「いやだから、用途もないのに作ったりしないって……あれは量産するべき物じゃない気がするし」
くっ付いて来るユートさんに、嫌そうな口調を隠す事もできずそう言う。
実はこっそり、シェリーの時に作った薬草を昨日作ってみたんだけど、ごっそりとギフトの力を取られた気がするため、できれば作りたくないというのもある。
ゼンマイはサニターティムの劣化版みたいな薬草としたから、できるだけ作らず人目に触れないようにしたいし……両方共、あまり作って広めちゃ色々と危険でヤヴァイ気がするんだよなぁ。
世界的なバランスというか……俺が考える事じゃないと思うけど。
「タクミ様、申し訳ありません遅れました」
そうこうしている間に、俺にまとわりつくユートさんをルグレッタさんが迎えに来た……正確には、仕事をさせるために引き摺りに来た、かな?
仕事というのは、基本的に自由人というか行動を制限するような事はないんだけど、森での異変やカナンビスに関して、各地の貴族へ連絡を取ったりとか色々あるらしい。
ただ報せを送る、というだけでは済まないらしくかなりやる事があって忙しいらしい。
忙しいのに、当の本人は俺にくっついて離れないとか……全ての貴族を調べるなんて息巻いていた会議の時は、やる気しか見えなかったのになぁ。
「ほら、お迎えが来ましたよ……ルグレッタさん、少し疲れていますか?」
「ぶーぶー、僕は興味を満たしたいだけなのになぁ……」
「わかりますか。隠そうとはしているのですが、こうなったユートさんを探して仕事をさせるのは、結構体力を使うのですよ……はぁ」
口を尖らせて「ぶーぶー」なんて言う人、初めて見た……。
ユートさんはとりあえず無視して、大変なルグレッタさんは目の下の隈が隠せておらず、顔色もあまり良くない。
多分だけど、ユートさんに関してだけでなく最近は護衛兵さんや近衛護衛さん達と一緒に、エッケンハルトさんによる訓練に参加しているからかもしれない。
まぁ、いつも気が付けば逃げ出しているらしいユートさんを探して、連れて行くというのもかなり疲れそうだけど。
「あまり疲れを溜めておくのもいけませんね。ちょっと待っていて下さい」
そう言って、ルグレッタさんに無理矢理くっ付いていたユートさんを引き剥がしてもらい、地面にしゃがみ込む。
あまりくっ付いていると、一部のとある趣味を持った女性達にパプティストさんがされたような想像をさせてしまいそうだから自重して欲しいんだけど。
「ん……と。どうぞ、ルグレッタさん」
「これは、疲労回復の薬草でしたか。ありがとうございます、頂きます」
疲れているけど、眠れないとかじゃないだろうから素直に疲労回復薬草を作って、ルグレッタさんに渡す。
ユートさんにはもう色んな薬草を作ったからと言ったけど、これくらいは問題ない。
実際には割と余裕があったりするからな……どうしてもの時はお酒で解決できるけど、できるだけ頼りたくないし倒れないために余裕を持つのは、クレアと約束しているから。
ただまぁ、目の前で作って見せるとうるさくなるのが……。
「ちょっとタクミ君! やっぱりまだ作れるんじゃん!」
ジタバタと、ルグレッタさんに片手で抱えられて荷物のようになっているユートさんからの抗議。
悪い事をして捕まった人みたいだ。
ルグレッタさんの方は、空いている方の手で疲労回復薬草を食べてスッキリとした様子。
うん、効果はしっかりと、疲れも取れたみたいだな――。
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