とりあえず内密にする事で決まりました
「カナンビスとはまた違うが、これもここだけにしておいた方が良いだろうな……できるだけ、他の者には知られない方がいい」
「タクミさんを狙って来るような何者かは、歓迎できませんからね、お父様」
「そういう事だ。まぁ、この屋敷にいる限りはレオ様だけでなくフェンリル達もいるから、易々と手出しはできんだろうが……念には念を入れて、警戒しておくに越した事はない」
「僕なんかより、よっぽどタクミさんの方が重要人物と言えそうですね……この国としても」
エッケンハルトさんやクレアの言葉よりも、ボソっと呟いたテオ君の言葉が一番深く心に刻まれた気がする。
まだ子供と言えるテオ君の言葉だからかもしれないが。
「えーっと、フェンリル達には使っちゃいましたし、結構な人が見ていましたけど……そちらは?」
大丈夫だとは思うけど、あの時俺がゼンマイ作ってフェンリル達の治療に当たったのは、使用人さんはもとより従業員さんも見ている。
屋敷の外壁の外だったのもあって、ランジ村の人も少しくらいはいたし子供達もいたからなぁ。
深刻そうに話す公爵家の人達を見ていると、その人達にも口止めをした方がいいのかもなんて思えてしまった。
「いや、あえて口外しないようにいうのは悪手だろう。つまり、隠さなければいけない事がある、と言っているようなものだ。まぁ、不心得者が近くにいたわけではないだろうし、皆タクミ殿や我々も含めてお互いに信用できる者達ばかりだ」
ラクトスの街中、とかではなくランジ村だった事が幸いしたってところかな。
ランジ村の人達は多くないし、信用できる人達ばかりだ。
それに、使用人さんや従業員さんの中でエッケンハルトさんの言う不心得者というのは、俺としてはいないと信じたい。
とはいえ、口止め以外の方法は念のため考えておかないといけない、というのもあるかな。
「では、こういうのはどうでしょう? カナンビスというのは既に多くに伝わっていますが、あまり口には出さない事と決まりましたが……その治療薬だったというだけで、他の効能があるような薬草ではなかったと」
「ふむ……」
「でもそれだと、サニターティムもあるのに……」
クレアが思いついたように言う内容に、エッケンハルトさんが考え込む。
だけどサニターティムもあるのに、カナンビスに対処できる薬草が二種類あるというのは、不自然にならないかな?
対カナンビスの植物自体ほとんど知られていないのに……それなら、ゼンマイの方は別の効能もあると誤魔化した方がいいような……。
いや、それだとそちらの効能は? という興味を持つ人が出てきたりしてもおかしくないか。
「サニターティムの丸薬は、カナンビスに強く効果を示す物として。ゼンマイ、でしたか。そちらはカナンビスに少しだけ効果、中和する効能があるという事にすればどうでしょう? 二種類あるという不自然さは取り除けませんが、効果が弱いとする事で存在自体が知られていないとすれば……」
「サニターティムの方が確かな効果があるため、そちらはセバスチャン達が調べたように、書物に記述があってもおかしくないが、ゼンマイの方は効能が弱いため記述されていない……と説得力を持たせる事ができるか」
「実際、フェンリル達がタクミさんの作ったゼンマイの薬で、回復していくのを周囲の者達は見ているわ。何かしらの効果がある事は隠せなくても、全部が嘘ではない効果とする事で納得はさせられそうね」
「カナンビスの毒性に対しても、効果があるのは間違いないわけだからな」
クレアの言葉に、エッケンハルトさん、マリエッタさん、エルケリッヒさんがそれぞれ納得していく。
テオ君も、頷いているようだしその方向で決まりになりそうだな。
「それじゃあ、ゼンマイはカナンビスに少しだけ効果はあるけど、それ以上のサニターティムの丸薬効果を確かめられて、確実に対処できるようになったから必要ない。というとこでしょうか?」
「えぇ、そうですね。タクミさん、間違えて作らないように気を付けてくださいね?」
頷き、片目を閉じて上目遣いでありながらもいたずらっぽくそういうクレア。
皆もそうだけど、俺も深刻な表情になっていたのかもしれない……重くなった空気を変えようというクレアの配慮だろう。
「ははは、もちろん。サニターティムとゼンマイは見た目が全くの別物だし、作ろうと考えないと作れないし間違う事はないはずだよ」
クレアの誘いみたいなものに乗って、俺もことさら明るい声を意識しつつそう言った。
結局、とんでもない物を作ってしまったのは確かだけど、別に誰かを騙して悪い事をするわけでもなし、作ってしまわなければいい話でもあるからな。
そこまで深刻になる話でもない……とも思う。
「ふーむ……」
「ん、まだ何かあるのかなユートさん?」
とりあえずゼンマイの事はこの場だけで、俺が作らないように気を付ける方向で詳細は口外しない事で決まったんだけど……なぜかユートさんは考えるようにしながら、ジッと俺を見ている。
話に加わらなかったフェヤリネッテは、カナンビスとサニターティムの丸薬を食べて満腹になったからか、テーブルの上で仰向けになってウトウトしているようだけど。
……あれは、半分以上寝ているっぽいな。
まぁ頑張ってくれたみたいだから、おとなしく休ませておこう。
「いやね、タクミ君。ちょっと聞きたいんだけど……」
「ん?」
「タクミ君は以前にも、シェリーを助けるために瀕死の怪我を治す薬草も作ったんでしょ?」
「……まぁ」
ロエではできない、瀕死の重傷すらも治す薬草。
呼び名とかも決めていないし、あれ以来過剰使用で倒れる事を警戒して一度も作っていないけど。
「ゼンマイもそうなんだけどさ、そのシェリーを助けた薬草も、多分この世界に……いや、他の世界。少なくとも地球も含めて、そんなの存在しない物だと思うんだ」
「存在しない物……まぁ便利過ぎるし、都合がいい物でもあるからなぁ」
俺からすると、ロエとかも結構都合のいい薬草なんだけど……地球の価値観とは違う、こちらの世界の物だからというので納得していた。
それはともかく、さらに都合のいい瀕死すらも治療できる、または不治の病すら快癒させられる、それらの薬草なんてゲームや漫画、いわゆる物語の世界での物のような気もする。
確かに、この世界にも存在しないと言われて不自然はないように感じるな。
まぁ『雑草栽培』のおかげでもあるし、そういうギフトだから……と俺は軽く考えているんだけどどうやらユートさんは違うようで、何やら訝し気に俺を見ていた――。
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