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カナンビスを作ってみました



「さて、タクミ殿。改めて問うが……今回の提案、受けてくれるのだな?」

「よろしいのでしょうか、タクミさん?」

「はい、受けさせていただきます。他に手があるかもしれないとはいえ、俺にだけしかできないのならなおさらです。あと、レオからも頼まれましたから」


 真っ直ぐ俺を見つめるエッケンハルトさんや、他の人達。

 クレアは心配そうな表情だけど……俺の事だけでなく、こんな提案をしてやらせて悪く思われないだろうか? という感じかな。

 そんな皆に力強く頷く。


「そうか、レオ様にもというのは聞いたが……すまないな」

「いえ、手っ取り早いのがこの方法だというのはよくわかりますから。――安心してクレア。クレアもそうだけど、エッケンハルトさんや他の皆を嫌う事はないし悪く思う事もないから」

「そ、そうですか……ですが、こんなことをタクミさんにお願いしてしまって、申し訳ありません」


 少しでも安心したのか、クレアの表情が柔らかくなったようだけど、それでもやっぱり負い目のように感じるのか、頭を下げられる。

 それと共に、エッケンハルトさんだけでなくリーベルト家の皆が、俺に向かって頭を下げた。

 無理なお願いをしている、と考えているからだろうか。


「まぁまぁ、タクミ君も気にしていないようだし、ハルト達は気にしすぎじゃないかな? ともあれ、早速作ってもらおうよ」

「……気にしすぎというのには同意するけど、ユートさんはもう少し気にした方がいいと思う」


 発案者はユートさんらしいし、結構悩んだのになぁ。

 レオに頼まれなかったら、断っていた可能性もあるし。

 でもまぁ、このままエッケンハルトさん達が頭を下げたままだと話が進まないので、気にしていないとは言えないけど謝罪は謝罪として受け取っておいて、実際にカナンビスを作る準備を始めた。

 準備と言っても、見た目などを絵にした物を見てイメージを固めるくらいだけど。


「うーん、酩酊状態かぁ」

「似ている、というだけなんだけどね。それで最初は気分が良くなって、疲労とか色々と全て忘れる。さすがの僕でも、服用した事がないからはっきりとは言えないけど……魔力が乱れる初期段階の副作用みたいなものかなー」

「それが、お酒で酔っているのと似ているってわけなんだ」


 人間に対するカナンビスの効果……もしかしたら、フェンリル達もかもしれないが。

 とにかく、魔力が乱されて以前のフェンリル達のように戻したり、体調が悪くなるより前、初期の段階で酩酊状態に近い感覚に似ている状態になるらしい。

 俺も詳しくないからわからないけど、地球にあったのも同じような物なのかな? あっちも疲労感を忘れられるとか色々あるみたいだし。


「でも結局、忘れても実際体は疲労しているままだからね。タクミ君が作る疲労回復薬草とは違うんだ」

「あれは本当に疲労が取れる、というかなくなるからなぁ……」


 初めて作った時は、『雑草栽培』でできる事は何か? を探って研究しようとしてすぐだったか。

 シェリーと出会う以前、森に行く前に色々と作ってみた結果だったけど、最初は俺も怪しんで近い物なのかとか、疲労がなくなったような気がするだけかも? なんて考えていたんだ。

 けど、忘れるとか感じなくなるのではなく実際に疲労が取れていたし、副作用のように支障が出るような事はなかった。

 安全性という部分では、レオが興味を示して止める間もなく食べても大丈夫だったから、自分でも試せたんだけども。


 今考えると、レオが大丈夫でも人間が大丈夫って保証はないよなぁとは思ったりする。

 ……結果オーライって事で。

 おかげで、他の身体強化薬草や安眠薬草なども作れたんだから、良かったんだ、うん。


「えーと、見た目はやっぱりこれかぁ……あまり、頭に思い浮かべたくないけど仕方ない」


 絵になっているのは、話に聞いていた通りの物。

 日本では、大麻、けしなどと呼ばれているあれだ。

 名称を考えないようにしていたけど、この際避けられないからいいか

 完全に同一ではないけど、マリファナとして象った物などがグッズというかインテリア的に使われていたりもするから、見た事がないわけではない……車の芳香剤とか。


 まぁ大麻自体は、その実が七味に入っていて珍しい物でもなんでもなかったりするんだけど。

 ちなみに、粉末と言うにはちょっと大きめの粒で、噛むと確かな歯ごたえと共に香りが口の中に広がる……んだけど、俺はあれが結構苦手だったりする。

 完全に余談だな。


「それじゃ、やります……」

「うむ」


 その場にいる皆の顔を見渡しながら言う俺の言葉を受けて、皆が頷く。

 ユートさんとフェヤリネッテ以外は、緊張した面持ちだ……鏡がないからわからないが、多分俺もそうなんだろう。

 緊張感漂う中、誰かが喉を鳴らす音に鼓膜を震わせ、テーブルにある植木鉢の一つに手を伸ばす。


「……」


 植木鉢に入れられている柔らかい土に触れ、カナンビスの効果や見た目を思い浮かべて『雑草栽培』を発動。

 数秒程して、芽が出て茎が伸び、葉っぱが形作られて完成した。


「できました……」


 カナンビスは想像した通り、絵にも描かれていて日本での大麻などと同じ形の物、少なくとも大きな差異はない物だ。

 予想外だったのは、その葉が真っ青だった事くらいか……毒々しい色合いの葉や花は見た事があるが、真っ青な葉というのはカナンビスが初めてだ。

 確か青って、食欲を減衰させる色だっけ? 青いカレーとか一時期話題になったけど、カレーが好きでも全く食欲がわかなかったもんなぁ。


「これが、カナンビスですか」

「実物を見るのは初めてだが、こうしてみると他の植物とあまり変わらないな……」

「だが、他の植物にはない異様さをなんとなくではあるが感じる気がするぞ」

「触れてはいけない物、というのはこの世に絶対的な存在感を持っているけど、これもそのうちの一つに見えるわね」

「これは、駄目な感じがします」

「うんうん、さすがタクミ君。カナンビスで間違いないね」

「懐かしいのよう。この色、この形がカナンビスなのよう」


 青々としたカナンビスを見て、この場の人がそれぞれ感想を漏らす。

 クレア、エッケンハルトさん、エルケリッヒさん、マリエッタさん、それからテオ君もカナンビスの実物を前にして固唾をのんでいる様子なのに対し、気楽な雰囲気のユートさんとフェヤリネッテ。

 フェヤリネッテは妖精が食用にしているとも聞いているからいいとして、ユートさんは実物を見た事があるのか……まぁ長く生きているし、服用した人の成れの果てを知っているのだから、見た事くらいはあってもおかしくないかな――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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