相棒の頼みは極力聞く事にしました
「それに、相棒の頼みは聞かないとな?」
「ワフ!」
少し笑いつつ、レオに問いかけると「その通り!」と言うように頷いた……調子がいいなぁ。
いくらレオがシルバーフェンリルで最強の魔物だからって、カナンビスの影響を受けた誰かを簡単に治すなんてできないし、ここは相棒の俺の出番ってとこか。
レオ自体にというわけじゃないが、それでも相棒としてレオにばかりじゃなく俺だって頼りになるとこを見せなくちゃな……というのはただの見栄に近いかもしれないが。
「でもそれなら、俺からの頼みも聞いてくれないとなぁ? 相棒なんだから……」
「ワフ!? ワウゥ……」
いたずらっぽく言うと、レオが尻尾と耳を少しだけ垂れさせた。
俺の表情などから嫌な事、お風呂とかソーセージやハンバーグをお預けみたいな、そういう何かを想像したのかもしれない。
まぁお風呂は定期的に入れるのは間違いないけど、さすがに理由もなく好物を禁止したりはしないが。
「ははは……! まぁ、レオが嫌がる事は極力言わないよ」
「ワフゥ? ワウワフ……」
本当に? でも極力って事は絶対じゃない……という鳴き声。
「むぅ、賢くなったなレオ。まぁとりあえず今は言わないから安心してくれ」
「ワフゥ……」
ホッと息を吐くように鳴くレオに苦笑する。
「でもありがとうなレオ。おかげで決心がついた。俺一人だったら、同じような事をぐるぐると考えるだけだっただろうし、もしかしたらずっと決断できなかったかもしれない。断るか受けるかどちらにせよ、な」
「ワウー!」
「こらこら、嬉しいのはわかるけど、ぶは! ちょ、こらま……むぐ……!」
褒めるように頬の辺りを撫でると、調子に乗ったレオが俺の顔を舐めまわす。
大きなレオの舌で舐められると、呼吸が難しくなるからやめさせようとしたんだけど、興奮したのか隙間から見えるレオは尻尾をぶんぶん振って楽しそうだった。
まぁそれだけ、相棒だとか俺が受ける方向で決断した事、あとレオにも相談した事が嬉しかったって事で……でも、ちょっとやりすぎじゃないかな?
べちょべちょになった顔は洗えばいいだけだけど、それよりも結構息が苦しくてレオが落ち着いた後は、しばらく息を整えるのに必死だった。
これ、レオはじゃれついているつもりなんだろうけど、ちょっと危険だな。
レオは自分がシルバーフェンリルになっている事を自覚していて、ちゃんと加減はしてくれるんだけど……もう少し早くおとなしくさせる方法を考えておかないとな。
じゃれついて呼吸が苦しくなる程なのは、レオがマルチーズの頃から何度も経験している俺はまだしも、リーザやティルラちゃん、それに他の子供達にやると危険だから。
……多分レオはわかっていてやっている気もするけど。
とにかくコマンドで興奮を抑えるとか、待て以上の何かが必要かもしれないな。
なんて、俺が新しく躾をする項目を頭で考えているとはつゆほどにも思っていないのか、レオはぜぇはぁと荒くなった息を整える俺を、尻尾を振りながら口角を上げて笑うような表情でパンティングしながら眺めていた、くそう……。
――サニターティムを作り、エッケンハルトさん達からの提案を受けてから数日。
サニターティムに関して色々と調べつつ、とりあえず俺は薬草畑の準備を進めていた。
畑の方は、ペータさん主導で従業員さん達が頑張ってくれたおかげで、いつでも開始できる状況。
調合班の方ではミリナちゃんが、特殊な俺の作った薬草を使った傷薬などの作り方を指南しつつ、簡単な作業は少しだけ児童館の子供達に手伝ってもらったりしている。
子供達は基本的に、畑なども含めて単純で危険のない作業のお手伝いとして、色んな場所で活躍中だ。
様々な事を経験して、学んでほしいと思う。
そんな中、サニターティムに関してだけどミリナちゃんが、乾燥させた根と花弁に対して水をほんの少し加えてこねれば発光丸薬になる事を発見。
今は、乾燥させた状態でどれだけ保存できるかを調べている最中だ。
こればっかりは、ある程度時間を取って調べないとわからないからな。
調合や色々試して新しい発見をする事に関しては、俺より随分先を行っているのは間違いない。
師匠と呼ばれているのに情けない……。
ともあれそんなこんなで数日が過ぎ、屋敷の一室に特定の人達だけを集める。
エッケンハルトさん達からの提案に関してだな。
集まったのは俺、クレア、エッケンハルトさん、エルケリッヒさん、マリエッタさん、ユートさん、テオ君の七人と妖精のフェヤリネッテ。
俺とフェヤリネッテ以外は、現在屋敷にいて高い地位や関わりがあるお人達ってところだ。
ティルラちゃんやオーリエちゃんはカナンビスの会議の時もそうだったけど、まだ幼いのもあって直接関わらせられないと、ここにはいない。
レオもだけど……数日前に部屋でレオと話した時の事があって、特に何かなければ俺に任せるって事らしい。
相棒の信頼には応えないといけないな。
部屋には、大きめのテーブルと椅子がいくつかあるくらいだ……本来客室でベッドなどもあったけど、それは使用人さん達によって一時的に撤去してもらっている。
テーブルの上には複数の植木鉢が置いてあり、土が入れられている。
『雑草栽培』を使うためだな。
さらに部屋の外、扉のすぐ近くにはルグリアさんがいて誰かが来ないように見張っている。
まぁ屋敷にいる人達全員に、この部屋には近付かないようにと言ってあるから大丈夫だろうと思うけど。
あと、窓の外には数体のフェンリルも見張ってくれているから、誰にも見られないし入っても来られないだろう……獣型の魔物に影響を及ぼす薬にしなければ、どれだけカナンビスを作ろうと問題ないみたいだからな。
いくら人間は服用しなければいけないとはいえ、フェンリル達の時は香りの問題でもあったから、もしものために換気をする必要もあるからな。
窓の近くにも、誰かを近づけさせないに越した事はない。
正直ここまで厳重に、さらに皆……ユートさんですら深刻な雰囲気を漂わせていて、なんだか緊張するが、それだけ重要な役割で問題になる物を作ろうとしているのだから、仕方ないか――。
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