レオからも頼まれました
エッケンハルトさん達によるカナンビスを『雑草栽培』で、という提案ではあるが……本来は所持すら取り締まられる可能性の高い物で、それを俺が作るというのは自分で自分を留めていた何かが決壊しそうで怖い、というのがある。
一度足を踏み入れたらタガが効かなくなって、いくつも作ってしまうとか……カナンビスを大量に作るわけじゃなくともだ、それこそ毒薬になる物とか。
「ワフ、ワウワフ」
「気にせず作ればいいって……まぁレオは平気なんだろうし、俺達の価値観というかそう言うのとは無縁な感覚なんだろうけど」
シルバーフェンリル、という最強の魔物である事は置いておくとして、レオは俺達人間のように法やら何やらで縛られていないからな。
そりゃ、人を襲えば危険な魔物として敵視されるだろうけど、それはあくまで人間の理屈。
マルチーズであったとしても、レオにはあまり関係ない事と感じても不思議じゃない……レオにとっては、法とかの決まり事は俺と一緒にいるうえで必要な事だから、と考えている節がある。
まぁ、レオ自身が子供好きだったり優しいから、何もないのに人を襲ったり人間の法を破ったりはしないんだが。
「この世界と日本にいた時では、細かい部分は違うんだろうけど。それでも、本来禁止されている物を作るのが正しいのかなって思っちゃうんだよ。俺は小心者だからさ」
「ワフ……」
俺の言葉を聞いてどう受け取ったのかはわからないが、少し困った様子になるレオ。
人として、越えてはいけない一線って言うのがあると俺は考えている。
例えば、急いでいる時に絶対車が来ない事を確認して信号を無視する……それ自体は大した事じゃないかもしれないし、大袈裟に越えてはいけない一線とは言えないだろうけど、一度やったからとずるずると何度も経験していれば、いずれそれが常になって危険な目に遭ってもおかしくない。
誰かに注意される事だってあるだろうしな。
公爵家の人達、さらにはこの国を作ったユートさんという地位も権力も高い人達からのお願いだから、咎められる事はないのかもしれないし、フェンリル達も含めて誰かを助ける事に繋がるのかもしれない。
それでも、これまで自分の中で律してきた事が崩れる可能性が怖いんだ……。
誰かの病や怪我を治して助ける物ならいい、道具は使い方次第と言うが、悪用されるならそうした人が悪いのだから。
けどカナンビスなど、人の害にしかならないような植物をわかっていて作り、それが悪用されたら自分で自分が許せなくなるんじゃないか、というのもある。
結局悪用されるんだから、何が違うんだとは思われそうだが……。
善意で作る物と悪意で作る物の違いというか……俺の中では明確に一線を引いて、踏み越えないようにしてきた部分だ。
「ワッフ」
「……レオ?」
相談するように話しながらも、頭の中で悶々と言い訳のような事を考え続ける俺を見て察したのか、レオが急に立ち上がった。
そうして、俺の正面に向かい合うように体を動かし……。
「ワウワフ、ワッフガウガフ……」
「レオ、お前……」
真っ直ぐと俺を見て、伝えたい事を鳴き声に乗せて……最後に頭を下げたレオ。
「自分は平気でも、慕ってくれたフェンリル達を助けたいし、同じ事にならないようにしたい……んだな?」
「ワウ!」
聞き返す俺に、力強く頷くレオ。
レオは、俺にエッケンハルトさん達の提案に乗ってカナンビスを作り、その影響への対処法を確実にさせて欲しいと訴えてきていた。
いや訴えてきていたと言うよりは、お願いしてきたってところか。
レオ自身はどうやらカナンビスの薬が、フェンリル達に影響を与えたよりも強くなっても平気らしいが、自分が大丈夫だからと他の皆が苦しむ可能性を見逃したくはないみたいだ。
ちゃんとここまでの事を理解して、俺に頼んできているんだろうな。
「優しいなレオは……俺なんて、自分の事ばかり考えていたのに」
「ワフゥ。ワーフ、ワッフガウワウワフ!」
「リーザか……そう言われてみればそうだな」
照れたように鳴くレオだが、すぐにまた俺を見据えるようにして何かを伝えるように鳴く。
それは、リーザにも影響が及んで苦しむ可能性だった。
そういえば、森の調査をする前に狩りをした時、レオが嫌な臭いがすると言って離れる際に、リーザが気持ち悪いと言って体調が悪くなったっけ。
あの時はフェンリル達も多少落ち着かない様子になっていたようだし、あれもカナンビスの薬に因って散布した臭いとかだったんだろう。
いや、その残り香か。
「リーザを苦しめないために、と考えればいいって事か?」
「ワフワフ。ワウーワッフワフガウ」
「そうか……皆のため、か」
首を振ったレオが言いたいのは、リーザだけでなく俺を含めた皆……屋敷に住む人やフェンリル達、ヴォルグラウやラーレ、コッカー達も含めた親しい魔物達。
それら皆に、もしもの事がないようちゃんと対処できる方法を確立しておいた方がいい、という事を言いたいみたいだ。
さすがにレオの言葉そのままではなく、俺なりの解釈ではあるけど。
「俺自身の事だけでなく、皆の事……」
一昨日はフェンリルのような獣型の魔物に効果のある薬だったけど、もしあれが人間に効果のある物だったら……いや、人間には香りとしてではなく直接服用する必要があるらしいが。
とにかく、リーザも含めた俺の周囲の人達にもカナンビスによる影響、そして破滅がもたらされる可能性があるなら。
薬を撒いた何者かが何を考えているかわからないし、ゼロとは言い切れないわけで。
だとしたら、もしもの事を考えてサニターティムも含めて対抗策を整えておく必要があるか。
「うん、そうだな……悪に手を染めるわけじゃないし、少し考えすぎていたのかもしれない」
「ワッフ」
俺自身が自分に対して自信がないせいもあるんだろうけど、歯止めが利かなくなったら悪意を持って使われるような物を量産してしまうんじゃないか、という怖さがあったけど。
でも、皆を助けるため、もしもに備えるためだと考えれば、悪い事ばかりでもない気がする。
それにこういう事というか……娘、実際には親代わりをしているだけだけど、こういう時娘に危害が加えられないよう多少無理をしてでも、自分を律して動くのが父親ってもんだ。
多分……。
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