部屋に戻ってから考えました
「タクミさんが、頼まれれば断れない性格だというのは重々承知です。ですがこれは事が事なので、私達の事は気にせず少しでも嫌だと感じたのなら、断って下さって構いません」
「できれば、こうした提案はしたくなかったのだがな……だが、頼めるのがタクミ殿だけしかいないというのも間違いないのだ。いや、こう言うとさらにタクミ殿が断りづらくなるか。気にしないでくれ、というのは言ってしまった手前無理かもしれんが……」
「お父様、何を言ってももう提案した以上言い訳にしかなりません。提案すると決めたのは私達なのですから、タクミさんがどう判断して、どう思われてしまうのかは、私達にはどうする事もできません」
「……賽は投げられた、だったか。提案すると決めたのは私なのだから、クレアの言う通りだな。これでタクミ殿から悪く思われても、甘んじて受け入れるしかあるまいな」
「……いえ……悪く思うなんて程の事は……理由とかもわかりますし、確かに俺しかできませんし手っ取り早いというのもわかります……けど……」
エッケンハルトさんとクレアの言う事は、半分以上頭に入って来なかったが、それでもこの提案で皆の事を悪くとか嫌ったりする事はない、というのは自信を持って言える。
提案自体が、先を見据えてというか今必要だろう事と、ある程度の問題を解決できるかもしれない可能性を持っているくらいは、驚きであまり動いていない頭でも理解できたから。
二人共……いや、エルケリッヒさんやマリエッタさんも含めて、四人の表情を見ていれば軽い考えで提案した事じゃないのもわかるしな。
ただすぐには決断できそうになかったため、少しだけ時間をもらえるようお願いして、俺はとりあえずリーザ達の方へと向かう事にした。
簡単に決断していい事じゃないと思ったからこそ、落ち着いて頭を整理してから受けるか断るか、決めないといけない。
後でになるけど、この時すぐに決断しなかったのは自分でも褒めてやりたいと思った。
結論はともかくとして、色々と考えるきっかけにもなってくれたから――。
「ふぅ……」
「ワ~ゥフ」
あれから、サニターティムの丸薬を色々と試作し終えて、さらに昼食を終えて部屋に戻って一息。
少し眠たいのか、俺の溜め息に合わせてレオが欠伸をしている。
ちなみにリーザはまだまだ元気らしく、庭でティルラちゃん達と一緒だ。
俺はクレアやエッケンハルトさん達に、少し考えるためにと言って部屋に戻って来ただけだな。
「少し休憩のために昼寝もいいかもなぁ……考えすぎてもいけないし」
「ワゥフ」
ベッドを背もたれに床に座る俺の近くでレオが伏せて、俺の言葉に頷くようにしてから丸くなった。
レオの方はさすがに俺とは違って疲れたってわけではないだろうけど……猫程じゃなくても、犬も結構よく寝るからなぁ。
今のレオは犬じゃなくてシルバーフェンリルだけど。
「まぁ、本当に俺が寝てしまうわけにはいかないんだけどな。ちゃんと考えないといけないし……」
「ワウ? ワッフワフ?」
呟く俺に、すっかり寝る気になっていたのか目を閉じていたレオが、片目だけを開けて俺を窺う。
昼食前まで作っていたサニターティム、その丸薬の事? と聞きたいようでもある。
「いや、丸薬やサニタ―ティムの事とはまた別でな……」
丸薬の方は、誰が作るか……個人とか魔力の量に関係なく、種族で発光時間が決まっているようだった。
何故かはわからないが、獣人のリーザとデリアさん、それにコカトリスのコッカー達が俺とレオみたいに共同で作った物が一番発光時間が長かった。
昼食が始まるより少し前に作って終わるくらいまで発光していたから、大体二時間くらいか。
発光時間と魔力調整の時間が同じかどうかをはっきりさせるため、フェヤリネッテが食べていたけど……作って置いておいただけの物が光らなくなるのと、フェヤリネッテが効果がなくなったと主張するのはほとんど同時だったため、この考えは間違いないんだろう。
でも二時間前後だから、結局保存には向かないしこれからも色々と試して調べていく必要はあるだろう。
ただ今考えないといけないのはその事ではなく……いや、全く関係していないわけじゃないけど。
「フェヤリネッテがさ、色々調べてくれそうだからってのもあるみたいでな……」
「ワウ?」
レオに、エッケンハルトさん達から頼まれた事に関して伝える。
他の人達……特にクレアとかエッケンハルトさん達以外の人には話さない方がいいだろうし、実際に断るにしても受けるにしても……いや、受けるなら特に他の誰かには話さない方がいい、という旨は伝えられているんだけど。
けど、レオなら誰かに話す事はないだろうし、多分大丈夫だろうと思って話した。
「ワウゥ?」
「俺がなんで悩んでいるのかわからないって? いや、この提案を受けるって事は悪い事に足を踏み入れるというか……やっちゃいけない事で、一線を越えないように俺自身が律しなきゃいけないと思っていた事だからなぁ」
『雑草栽培』を使えば、お試しでもやった事はないが人を助ける薬草以外にも色々と作れてしまう。
だからこそ、最初はわからず疲労回復薬草とかが作れてしまったけど、他の可能性を考え付いてからはできるだけ避けていた事でもあるからな。
「エッケンハルトさん達が言うように、他に手があるとしても今すぐはできないだろうし、俺が適役なのもわかるんだよ。でもこればっかりは……」
俺が提案されて今悩んでいる事……早い話が、俺の『雑草栽培』でカナンビスを作って調査をしようという事だ。
つまり、禁止されている物を作り、法を犯せと言われたようなものでもある……だからこそ、クレアは反対だと言っていたし、エッケンハルトさんからも気にせず断ってもいいと言われたんだけど。
でもエッケンハルトさん達が考えているように、実際にカナンビスがあれば色々と調べる事ができるわけで。
それこそ、フェヤリネッテに頼るだけでなくサニターティムの発光丸薬が、効果あるのかどうかなども調べられる。
いや、そうなるとカナンビスを誰かに使ってという事になるわけだから、そこはフェヤリネッテに調べてもらうんだけどな。
カナンビスを食べる事もあるらしい妖精なら、実物さえあればわかる事が多いから……というのはユートさんからみたいだけど――。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。