皆で丸薬作りをしてみました
「でも、さすがに一つの植物にある魔力だから、量は少ないんだろうね。こうしている間にも少しずつ魔力が抜けていってしまってるね」
「魔力が……確かに、光も段々と小さくなっているかな」
ユートさんの言う通り、魔力が抜けていっているからなのか、じっくり見ていると丸薬がほのかに発していた光が、段々と薄く小さくなっていくのがわかる。
「あ、ちょっと綺麗だったのに、残念です」
数秒程で、完全に光がなくなったのを見て、クレアが残念そうに呟いた。
丸薬の色合いはともかく、確かにちょっと綺麗な光に見えなくもなかったかな? 昼じゃなく、夜だと蛍の光に近いイメージかもしれない。
実際には映像くらいでしか蛍を見た事がないけど。
「もう一度見てみたいのよう! 今度はじっくり見るのよう」
「はいはい、わかったよ。でも、この丸薬はどうしようかな……?」
「そっちは、もう魔力が完全に抜けてしまっていて、なんの効果もないのよう! だからもっと詳しく調べるために、もう一度作るのよう! 今度は、一つだけじゃなく複数お願いするのよう!」
「成る程、魔力が抜けたら意味がなくなるのか。それじゃ、今度はいくつか作ってみるかな……」
興味からなのか、俺に催促するフェヤリネッテに頷きながら、もう一度サニターティムを作る。
一度作っているから、二度目以降は特に深く集中しなくても問題ない。
『雑草栽培』自体も、かなり使い慣れてきているのもあるかもな。
「ふむ、二つ以上の花弁を重ねたら、それだけ大きな丸薬になって光を発する時間も伸びるのか。でも、結局そんなに長続きはしないから保存には向かなそうだなぁ」
いくつか試験的に作って、変化させるときに複数の花弁をまとめたら、一つの丸薬になった。
一つだけの時よりも大きく、発光時間も長くなっていたけど最大の明るさは特に変わらないようだ。
「タクミ君のギフトだけじゃなくてさ、手作業で練って丸薬? にしてみたらどうかな?」
俺が丸薬と呼んでいたからか、ユートさんもそれに倣って同じように呼ぶ事にしたようだ。
まぁわかれば呼び方はなんでもいいけど……とにかく、手作業でかぁ。
よし、ちょっとやってみよう。
「こういう時は……ミリナちゃん!」
「は、はい! お呼びでしょうか師匠!」
「えっとね、これを……」
周囲で見守っていた使用人さん達の中にいるミリナちゃんを呼び出して、丸薬作りを手伝ってもらう。
興味深々、というか目を輝かせるようにしてこちらを見ていたからな。
今ではミリナちゃんも、すっかり薬師……と言うにはまだ早いかもしれないが、薬師見習いだし。
というわけで、さらに新しく作ったサニターティムを作り、何故か一緒にやりたがったクレアやティルラちゃん、リーザなど一部の人達と一緒に花弁をこねこねと練る。
何かを加えたり、他にも工程があるかもしれないが、ともかく一番簡単に丸薬っぽくなるようお試しで手を加えようってわけだ。
その間、フェヤリネッテはおとなしくなって、何やら先程見た複数のサニターティムの花弁からできた丸薬を見た時の事を頭の中で整理しているらしい。
ふわりふわりと、皆の頭の上をゆっくり回っているのはフェヤリネッテなりに考えているというポーズなのかもしれない。
人で言うと、部屋の中をうろうろと歩いて考えをまとめているとかだろうか。
「パパ、できたよ!」
「ワフ!」
「お、ほんとだな!」
「師匠、すみません……失敗したみたいです」
「うーん、私のは丸くはなりましたけど光りません……」
「私もね……」
「僕もだよ。何か理由があるみたいだ」
「私のもだな。父上と母上は……」
「この通りだ」
「私達では、できない何かがあるのかしら?」
リーザと丸薬作りを見守るレオに言われて見てみると、立派に光を放つ丸薬がその手の中にできていた。
いつの間にかクレアやユートさんだけでなく、エッケンハルトさんやエルケリッヒさん、それにマリエッタさんなどもサニターティムの花弁をこねて丸薬作りに参加していた。
いやまぁ、サニターティム自体は何度も作り直すのは面倒だからと、先に『雑草栽培』で多く作ってあるからいいんだけど……どうせ、丸薬の効果があるのなら多く作る事になるだろうし。
「うーん、成功したのはリーザだけかぁ。でも見ていたら、何か特別な事をしているわけじゃないのになぁ」
「おそらく、何か条件みたいなものがあるのかもしれませんね……」
結局、いろんな人が花弁をこねて作った丸薬だけど、光を放つまでになったのはリーザが作った物だけだった。
俺はもちろん、ティルラちゃんやミリナちゃん、クレア達もただ丸い粒……魔力が抜けて発光しなくなった状態の物と同じのができただけだ。
「これはあれかな? 種族が条件にあるのかもしれないね。魔力は多分関係していないと思う……僕がやった時、魔力を込める、込めないで両方やってみたけど、結果は同じだったし。ちょっと確かめてみたいから、タクミ君。ちょっと……」
「……ふんふん、成る程。ちょっとやってみる。――レオ、お手」
「ワフ?」
種族で作れるかどうかの条件、なんてのもあるのか……この世界は不思議がいっぱいだ。
なんて言っていられる場合じゃないな。
ともかく、ユートさんに言われてレオに呼びかける。
レオはなんで今? と不思議そうに首を傾げていたが、躾のおかげか条件反射か、サッと右前足を俺の手の上にポフっと置いた。
そのレオが足を置いた俺の手のひらには、サニターティムの花弁があり……。
「レオ、もう少し我慢してそのままでいてくれー」
「ワッフ……ワフフ……」
声をかけつつ、肉球に押し付けるようにして花弁をこねる。
レオはくすぐったいのか、体をプルプル震わせて我慢中……もう少し、待っててくれ。
「ん、よし! もういいぞレオーありがとうな」
「ワフゥ……」
花弁が粒になって少し硬めの感触になったのを感じ、レオの前足から手を離すと、レオが大きく溜め息。
くすぐったいのを我慢してくれてありがとうな。
「で、肝心の丸薬は……こうなったんだ」
「うん、やっぱりそうみたいだね」
「上半分がほんのり光っていて、下半分は光っていないみたいですね……?」
クレアが言うように、おそらくレオの肉球に触れていた上半分はほんのり光っていて、俺の手に多く触れていた下半分は光を発していない。
そもそも、こねているんだから全体に俺とレオが触れているはずだけど、どこかの段階で発光するかどうか、触れている部分で変わるのかも――。
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