発光丸薬ができました
花の形は菜の花に近いけど、花びらが四枚で一つの菜の花と違い、サニターティムは花弁が三枚で三角形というかピラミッド型になっている。
全体の大きさや、葉、茎なども菜の花に近いので、花の毒々しい色はともかく、ユートさんがなんとなく見た事があるというのもわかるかな、俺もそうだし。
日本人なら、食用にもなる菜の花を一度くらいは見た事があるだろうから。
春になれば、河川敷とかでよく咲いているし。
「うーん、でもこれじゃあれをどうにかできる効果はなさそうなのよう?」
「え……?」
ふわふわとサニターティムの周囲を飛んで観察していたフェヤリネッテが、花に触れながらそう言った。
あれというのはカナンビスの事だろう、昨日フェンリルが体調悪くなった時に、散々カナンビスの名前を出したけど、これからは一応できる限り名前は伏せるように、という事になったからな。
もう遅いかもしれないが、それでも禁止されている植物や薬物であるため、多くの人を不安にさせないための配慮という事らしい。
まぁ、聞いた事くらいはある人もいるだろうし、あまり口に出して変な噂が広まらないようにでもあるかな。
ともあれ、フェヤリネッテが言うには俺が作ったサニターティムには、カナンビスに対する効果はないらしいけど……情報が間違っていたとかなんだろうか?
「多分、何かの薬効があるようには感じるのよう。けどあれは魔力に対する効果を発揮するのに対して、今地面から生えたこれは、魔力をほとんど感じないのよう。これじゃあれに対処なんて不可能なのよう? 奥の方に、少しだけ魔力が固まっているような感じはするのだけどよう」
「奥の方に……成る程、魔力を乱す効果に対しては、何かしらの魔力をもって対処しなければいけない……ってところかな。でもそれならもしかして……」
フェヤリネッテが嘘をついているようには見えないし、今ここでそんなことをする必要はないため、観察して得た妖精の感覚としてはそうなんだろう。
けどもし、奥に魔力が……カナンビスに対抗するだけの何かがあるのなら、まだ『雑草栽培』で生やしたままになって摘み取ってすらいない状態だから、という可能性はある。
「なんとなく、タクミ君が考えている事はわかる気がするよ。僕も同じ意見というか、加工したり何か手を施す事で内部の魔力を外に出したり、増幅させたりって事はあるからね」
「そう、なのですか?」
「うん、そうだよクレアちゃん。えっとね……」
ユートさんが、クレアに何やら話を始める。
植物に限らず、手を加える事で魔力を表面上に出す事や、魔力だけでなく手を加える事で凝縮された成分を抽出するなどの話みたいだ。
まぁ言ってみれば、薬の調合だって手を加えて数種類の物を混ぜて、効果を増幅させたり別の効果にするようなものだからな。
あとはラモギ単体でも、そのままだとあまり効果はないが、乾燥させて刷り潰して粉にすると特定の病に聞く薬効成分を発揮する事ができるなどだ。
つまり、このまま地面から生えている状態では効果がなくとも、手を加える事でカナンビスに対処するための物になる可能性はまだ消えていないってわけだ。
そしてそうするために最適な能力が『雑草栽培』にあるからな。
「とりあえず、花と茎、葉や根を分けて摘み取っておいて……と。それから『雑草栽培』で……」
昨日のゼンマイの例があるから、今日は最初から液体になってもいいように器を用意している。
その上で、摘み取ったサニターティムをそれぞれの部分ごとに『雑草栽培』で最適な状態に変化させていく。
根、茎、葉の順番にそれぞれ手に持って『雑草栽培』を使ってみたが、特に変化はなし。
『雑草栽培』は慣れからか発動しているような感覚はあるし、変化をしないという事はこれらに何かの効能はないという事になる。
「最後に花だな……っと。こっちは、錠剤というか丸薬みたいになるのか……」
俺の手の中で、広がるように三つに分かれているサニターティムの花弁が、徐々に一つになり、小さな粒になった。
紫色に小さな斑点という、花がそのまま凝縮されたようなその粒は、数ミリ程度の大きさで丸みを帯びているため、丸薬と言う方が近いだろうか?
変化の過程を見ていると、花が一つに練り潰されていったようにも見えるからな。
まぁ、呼び方はなんでもいいんだけど。
「ん……?」
「どうしたのよう?」
「いや、これを見てくれフェヤリネッテ……俺の目がおかしくなったわけじゃないと思うけど、少し光ってないか?」
ふとサニタ―ティムの花弁が変化した丸薬、手のひらにポツンとあるそれを見ると、なんとなく淡い光を放っているように見えた。
俺の顔の横で浮かんでいたフェヤリネッテにそれを見てもらう。
多分、周囲が明るかったから気付きにくくて、すぐにはわからなかったんだろうな。
懐中電灯を昼間に日の当たる場所で点けても、直接正面から見るなどをしないと光っているとわかりにくいような物だ……多分。
「……確かに、なのよう!」
「本当です……淡い光を放っているような?」
「ふぅむ、これはこれは……とても珍しい物なのは間違いないみたいだね」
手の上の丸薬を見て驚きの声をあげるフェヤリネッテと、話しを切り上げたのか俺の手を覗き込むクレアとユートさんの二人。
見てもらうのはいいんだけど、小さな丸薬が手のひらに載っているだけなので、二人共俺の両サイドから覗き込んでいて、間にいる俺が挟まって少しどころじゃなく狭い。
クレアはともかく、ユートさんに体をくっつけられてもあまりうれしくないんだけどなぁ……。
「タクミ君、これは魔力の塊みたいになっているね。さっき、フェヤリネッテが奥の方に魔力がって言っていたと思うけど……こんな風に、魔力を抽出するとほのかに光を放つ物があるんだ。とても珍しいから、簡単にはお目にかかれないけどね」
「魔力の塊……」
「魔力が強く外に出ようとしている時の現象、とも言えるかな?」
サニターティムの花弁の奥にあった魔力が表面化したのか、それとも丸薬自体が表に出てきた魔力で包まれているのか……細かい事はわからないけど、かなり珍しい物ができたみたいだ。
光りを放つのは魔力が強く表に出ているかららしい、ユートさんは魔力視だったかな? それで魔力そのものを見る事ができるらしいから、間違いないんだろう――。
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