顔がいい事にも苦労や悩みがあるようでした
パプティストさんが語り始めてから、俺はともかく抱き着かれているフェンリルは、意味が分かっているのかはともかく、おとなしく尻尾をゆっくり揺らして聞いている様子だ。
遠くからティルラちゃんやリーザ、クレアの笑い声は聞こえるけど、隅にいるのもあってこちらは特に注目されておらず、話しを聞くにはちょうどいいようだし。
というわけで、しばらくパプティストさんの自分語りというか悩み相談に取り掛かった。
「成る程……そんな事が……」
「はい。今はフェンリルがいてくれるおかげで、こうして話せますけど……人に見られるという事がどうしても苦手になってしまって……」
パプティストさんの話によると、昔から人より容姿が優れていたという一点で人の目を集めてしまい、一度気になり出したら際限なくなってしまったらしい。
さらには、ユートさんみたいに女性……小さい頃からだそうだから、女の子かな。
女の子に間違われる事も多く、それだけならまだしもその事で色々とトラブルがあったようだ。
簡単に言うと、パプティストさんが女の子だと思った男の子から告白されたうえに、その男の子の事が気になっていた女の子から悪く言われたりなど。
女の子と間違われて攫われそうになったり、むしろ美形の男の子として特殊な趣味の男性にかどわかされそうになったりと……同じ体験をしたわけじゃなくても、同情の余地がある事ばかりだった。
所謂イケメン、美形だからって必ずしも得をするわけじゃないんだなぁ。
パプティストさんに限って言えば、損ばかりしているようだ。
そうして、何を考えてこちらを見ているのか……と注目を集めてしまう事に不安が募るようになり、さらに見られるのが怖くなっていったと。
「まともに人の目を見て話すなんてできなくなりました。それで、今のようにおどおどした性格になってしまい……自分でもなんとかしたくてもなんともならず……」
フェンリルの毛に顔を埋めるようにしているおかげで、癒し効果みたいなのでちゃんと話せているけど、これがないとあまりはっきり話せそうになくなるのも、そのためなのかもしれない。
同じように、兜で顔を覆って隠して視界を狭める事で、人の目が気にならなくなるんだろう。
実際にはさっきの執務室での会議など、兜を被っている事で目だったりもして、注目を集めなくなるわけじゃないけど……なんというか、精神を安定させるための暗示というか、プラシーボ効果とか思い込みに近いのかもな。
パプティストさんにとってはそれが拠り所なんだろうから、無理に兜を外すようにはしない方が良さそうだ。
「でも、それでよく近衛騎士になりましたね。結構注目を集めるんじゃ……? まぁ、兜や鎧で自分を隠せるというのは確かにありますけど」
兵士や騎士でもないのに、普段から全身鎧にフルフェイスの兜なんて身に着けていたら、怪しい人になりかねないからな。
そんな人がお店で働いていたら、それはそれで異質だし。
ある意味、顔を隠せる職業だから合っている……のかな。
「いえ、それが……先程話したように色々ありまして。それで、自衛のために鍛え始めたんです。あと、体を鍛えたら女の子に間違われることも少なくなるかもって思って」
「それは確かに」
鎧を脱いで普段着になったパプティストさんは、細身ではあるけど鍛えているというのがわかるくらい、筋肉質にも見える。
おかげで、女性と間違える事はない……少し声が高めだけど、鎧を着ていても男女で細部が違うから間違える事はない。
自分の身を守るという、俺がエッケンハルトさんに剣を習い始めたのと同じような理由だけど、それは間違いではないようだ。
「ですがこんな性格ですので、人付き合いが苦手で……おかげで、鍛錬に打ち込む事ができたんですけどね。そうしていたら、女の子に間違われる事はなくなったんですけど……今度は騎士に、最初は兵士としてですけど、もう引退した騎士の偉い人に見出されまして」
つまり、人と関わるくらいならと鍛錬に打ち込んだおかげでスカウトされて兵士に、そこから実力で今の近衛騎士隊の副隊長まで出世したってところかな。
元々向いていたのかもしれないけど……鍛錬に打ち込んだ理由が理由だから、なんとも言えない。
「おかげで、性別を間違って思いを寄せられたり、悪く言われたりする事はなくなりました。それに、攫われたりかどわかされたりという事も……むしろ、それを取り締まる側ですからね。まぁ、近衛騎士になってからは治安よりも、誰かを守る事の方が多いですが」
「過去の自分を乗り越えたというか……とにかくそれは良かったですね。でも、それで人の目を気にしなくなったりはしなかったんですね……」
人の目に恐怖や不安を覚えたりしなくなった、とかなら単純に良かったで済むんだけど……。
でもそれなら、今こうしてパプティストさんに相談というか身の上話を聞かされるような事はなかっただろう。
「それが、鍛えて強くなったというだけで終われば良かったんですけど……」
「それだけじゃなかったと?」
「はい。その、自分で言うのは烏滸がましいとは思いますが、兵士になって人前に出るようになってから、今度は美形の騎士様と評判になってしまって。その時はまだ騎士じゃなかったんですけど」
「まぁ、なんとなくわかります」
こういう事を自分で言うのは、恥ずかしいというのもわかるし、美形の騎士として評判になるというのもわかる。
パプティストさんは、百人が見ればそのうち九割くらいは間違いなく美形と頷く程の人だからな。
女性からは特に騒がれそうだ。
「体を鍛え始めて、少しは自信が付いたのか多少改善され始めたんですけど……結局注目を浴びる事になってしまって……」
「それで、改善されなくなってしまったんですか?」
「いえ、それだけじゃなくて……兵士として私は街の治安を守る部隊に配属されたのですが、そういった場合相手にする事が多いのは荒くれ者達なんです」
「まぁ……」
犯罪者を相手にする治安部隊なら、そうなるのはわかる。
もちろん、犯罪者が全員荒くれというかゴツイ男達というわけではないだろうが。
荒くれ者の女性とかもいるだろうし、パプティストさんに負けず劣らず細身の男性というのだっているはずだから――。
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