パプティストさんを慰めました
「はぁ、やはりフェンリルは癒しですね。こうしているとささくれ立った心も、落ち込んでいたのも忘れられそうです。いえ、反省しなければならないので忘れてはいけないのですが」
「ははは……確かに触り心地もいいですからね、良かったです」
俺がパプティストさんに、先程のようにフェンリルに抱き着く事を勧めると、躊躇したりいいのかとか色々葛藤ややり取りがあったけど……結局全身で抱き着いてフェンリルのやわらかい毛に受け止められるパプティストさん。
ずっと、俺と話していても手はフェンリルから離れなかったからな、俺が来るまでの様子から考えて、こちらの方が話しやすそうだと思った。
実際、パプティストさんの様子は俺に体を向けていた時と違って落ち着いているようだし。
「ガ、ガウゥ?」
「しばらくの間、このままでいてくれるかな? 俺は抱き着かないけど、撫でておくからさ」
「ガフー」
再び抱き着かれたフェンリルは、どうしたら? というように鳴いて困っていたけど、しばらくそのままにするようお願いして、撫でておく。
俺まで抱き着いたら、パプティストさんとまともに話せないし、成人男性二人が一体のフェンリルに抱きついている状態っていうのも結構シュールだし。
フェンリルの方は、なら構わないと言うように少しだけ嬉しそうに鳴いて、パプティストさんが抱き着きやすいようお座りから伏せの態勢になってくれた。
うん、しっかり撫でてやるからなー……おっと、このフェンリルは背中やお腹付近よりも、首元を撫でられるのが好きみたいだな、と。
「それでパプティストさん……まぁさっきのは失敗って思っているようですけど、あれで良かったんじゃないかと思うんです」
慰めというわけではないけど、会議でパプティストさんの発言は特に咎められるような事じゃなかったと思う。
ユートさんの事を知らないんだし、王家まで巻き込んで国中の貴族を窺うなんて、むしろ近衛騎士隊としては苦言を呈さなければいけない場面じゃないかと思うくらいだ。
パプティストさんが言わなければ、あの場で他の誰かが言っていたかもしれないしな。
……ルグリアさんは知っているみたいだから言えないだろうし、誰も言う人がいなかったかもしれないけども。
「そうなのでしょうか? ユート閣下は怒っていらっしゃいましたし、テオドール様……テオさんにも、あの場で身分を明かすに近い事をさせてしまいました……。私はよく肝心なところで、失敗をするんです。そのたびに反省はするのですが、どうにも似たような事を繰り返してしまい……」
「よく失敗して、怒られるとかそういうのはわかりますけど……」
後ろ向きだとは思うけど、俺もこの世界に来るまでは似たようなものだったからなぁ。
まぁ元がネガティブだとかではなく、ちょっとしたミスでもあげつらう職場だったから、反省するだけでは間に合わなかったから、というのも大いにあるけど。
ともかく、落ち込んでいるパプティストさんの気持ちはわからなくもない……原因の失敗という部分は、そうじゃないとは思うけども。
とはいえ、ユートさんの事を話すわけにもいかないし、とりあえず慰めておくのが一番……かな?
「俺もそうですけど、クレアも、それにエッケンハルトさんや公爵家の人達も気にしていない様子でしたよ? それに、ユートさんも会議が終わる頃には、いつもと同じような雰囲気の笑顔でしたし」
ユートさんに関しては、雰囲気や空気が重くなるようなのは勘弁だが、もう少し真面目にして欲しいと思わなくもないけど。
まぁそれも、気の遠くなるほど長く生きて来て、そうしなければいけないとかそうする理由があるのかもしれないが。
多少薄れても、結構昔の記憶とかもあるみたいだし、生きていれば楽しい事だけじゃないからなぁ……それが通常の人間の数倍以上積み重なるんだから。
っと、まぁ今はユートさんの事を考えている場合じゃないな。
「……ありがとうございます、少しだけ元気が出てきました」
「いえ……本当なら俺より別の人の方が、もっとパプティストさんを元気づけられたんでしょうけど。それこそルグリアさんとか、俺より長い付き合いの人とか……」
しばらく慰め続けて、ようやくパプティストさんは前向きに……なれたかは微妙だけど、落ち込みから回復した様子。
途中で、フェンリルも頬を寄せたり舐めたりと、協力してくれたからってのもあるかな。
ただ、あんまり人を元気づけるのは得意じゃないから、俺よりもっと適任がいたんじゃないかなとは思う。
「隊長は……くよくよしているくらいなら、走れと言いそうです。まぁそれはそれで、落ち込んでいる余裕がなくなりますが。でも疲れてぶっ倒れるまで走らせるんですよね……」
「ははは……そうなんですね……」
ルグリアさん、部下にはそんな感じなのか。
意外と? 脳筋タイプなのかもしれない、と考えるのは女性だし失礼かな?
なんというか、エッケンハルトさんと意見が合いそうではある……エッケンハルトさんも、この屋敷に来てよくフィリップさん達を含めた公爵家の護衛兵さん達を、フェンリルと一緒に走らせているから。
もちろん、フェンリルは横や後ろ、前を走るだけで背中に護衛さん達が乗るわけじゃない。
「申し訳ありません、タクミ様。どうしてもこう、昔から人の目が気になってしまって……いつの間にかこんな面倒くさい性格に……そうなんですよね、自分でも面倒くさいってわかっているんですけどね……」
「あ、あははは……そんあ面倒くさいだなんて……」
あれ、なんだかパプティストさんの自分語りが始まったような気が……?
慰めていた手前逃げられないし、これは付き合うしかないのかな? まぁ、サニターティムは今日作る予定でもないし、夕食まで他にする事がないからいいんだけど。
「子供の頃は、特に物心ついたくらいの頃は、今のように人の目や反応が気になるって程じゃなかったんですけどね。多少、人目を引いているかなくらいだったと思います。ですが、いつの頃からか……こちらを見ている人は何を話しているんだろう? とかきになり始めてしまって……」
うん、本当に始まっちゃったな。
俺に相談して、解決策とかパプティストさんのためになる事を言えるような、殊勝な人間じゃないんだけど。
でもパプティストさんが心情を吐露し、話すだけで少しくらいは楽になれるのならいいかな。
俺もクレアとかいろんな人に、日本での話を聞いてもらって気分が楽になった事なら何度もあるからな……昨夜というか今朝方の自信に関する話とか――。
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