落ち込んでいる人を発見しました
「ははは、そこは素直に受け取っていていいんだぞー!」
「ふふ、私は撫でるくらいしかできませんでしたが、フェンリル達が元気になる一助になっていたなら、嬉しいですよ」
笑いながら、クレアと一緒に照れた様子のフェリーと、背中に乗っているシェリーもついでに撫でておく。
フェリーの後ろに並んでいるフェンリル達が、尻尾を振って舌を出し、期待するような目でこちらを見ているけど、順番、順番だからな?
「ワッフ!」
「って、レオもか……」
フェリーとシェリーを撫でて別のフェンリルに……と行こうとしたら、レオが主張するようにスッと前に出てきて、俺の手に頬を押し付ける。
撫でて欲しかったのか……ちょっと焼きもちを焼いたのかもしれないが。
「レオも一緒にいてくれて助かったよ。おかげで夜も寒くなかったし」
「そうですね。レオ様のおかげで夜も凍えずに済みました」
「ワッフワッフ!」
毛布はあったけど、レオのおかげで寒さとは無縁だったのは間違いないからな。
クレアと一緒に笑いかけながら撫でると、お座りしたレオが誇らしげに胸を反らしていた。
うんうん、いつも助かっているぞー。
その後は、少しレオを構ってやりつつ、リーザやティルラちゃんも混ざってフェンリル達を撫でまわした――。
「ん? あれは……」
フェンリル達を撫でまわし終わって、夕食までどうしようかな? 話になったサニターティムでも試しに作ってみようかどうか……と考えていた頃、一人の男性がフェンリルに抱き着いているのが見えた。
感謝を伝えるというフェンリル達は既に解散していて、それぞれでじゃれ合ったり、レオと一緒にティルラちゃんやリーザ、クレアと一緒にいたりしている。
けど、その男性が抱き着いているフェンリルは、少しだけ困ったような雰囲気を出しながらも、周囲を気遣ってか皆とは離れた場所、庭の隅の方にいた。
というか、男性がそちらにフェンリルを呼んだのかもしれないが……。
「う、うぅ……ユート閣下にあんな事を……テオドール様にも、わざわざ声をかけさせるなんて事にもなってしまった……うぅ」
「ガ、ガウゥ?」
明らかに成人男性と見える人物が、離れたところでひっそりとフェンリルに抱き着いているのは? と気になって近付いてみると、何やら情けない声で反省している様子。
背中しか見えないから誰かわかりづらいけど、この声はパプティストさんかな?
抱き着かれているフェンリルは、どうして落ち込んでいるのかわからないため、少し戸惑っているようだ。
嫌がっているというわけではなく、単純に落ち込んでいるけどどうしたらいいかわからない、というところだろう……あ、近付いて来る俺に気付いた。
「えーっと……パプティストさん、ですよね?」
「はっ!? こ、ここ、これはタクミ様! も、もも申し訳ありません、このようなす、姿を見せてしまい……!」
フェンリルには気付かれたし聞いているだけなのもなんなので、声をかける。
俺の声に気付き、ババッと音がしそうな勢いでこちらを振り返ったパプティストさんは、さっきまで被っていた兜を被っておらず、鎧も脱いで身軽そうな服装になっていた。
そのパプティストさん、おどおどとしながらも謝って来るけど、目線はせわしなく俺とは合わない……人と接するのが苦手だから仕方ないか。
前に兜を外した状態で、ルグリアさんから紹介された時も同じような感じだったし。
「いえいえ、気になさらないで下さい。フェンリルの毛並みは触り心地がいいので、抱き着いて全身で感じたいという気持ちもわかりますから」
それこそ、リーザやティルラちゃんもそうだし、村の子供達はよく抱き着いているからなぁ。
さすがに大人になると恥ずかしさもあるのか、使用人さん達や護衛さん達、従業員さん達が抱き着いているのはほとんど見ないけど……実はコッソリ、人目を忍んで抱き着いている事があるのを俺は知っている。
そういう時は大体見て見ぬふりをしているんだけど、今回はフェンリルに気付かれたのと、パプティストさんが何やら落ち込んでいる様子だったからな。
ちなみに、抱き着いて楽しんでいるのは男女問わずだったりもする。
「お、お恥ずかしい、か、限りです……」
顔を真っ赤にして俯くパプティストさん、こうしていると女性にも見えてしまう程、美形で線も細い。
髪は男性にしては長目なくらいで、その影響も少しはあるのかもしれないな。
近衛騎士隊の副隊長らしく、かなり体が鍛えられているためか細身でも筋肉質で引き締まっているから、背中でかろうじて成人男性だろうな、というのがわかるくらいだ。
むしろ正面から見て、初対面なら女性と言われても疑わないだろう。
「それで、フェンリルに抱き着いて癒されているのはわかりますけど、どうして落ち込んでいたんですか? ユートさんとか、テオ君の名前が出ていたようですけど」
ユートさんとテオ君の名前が同時に出る、という事はおそらくさっきの執務室での会議の事だろう。
ただ執務室で、特にパプティストさんが落ち込むような失敗はしていなかったと思うんだけど……。
「い、いいいえ……ユ、ユート様に、い、いらぬ言を申してし、しまいましたから。そ、それで、テオドール様にも、た、窘められてし、しまいまし……た……」
「……うーん」
おどおどとしながらも、片手でフェンリルを撫でながら話すパプティストさん。
それでなんとか話せているのかもしれないからそれはいいとして、あの時のパプティストさんは、国中の貴族を巻き込むと豪語したユートさんに、王家から何を言われるかと心配したんだったか。
貴族とか王族関係で俺にはよくわからない部分ではあるけど、パプティストさんがあそこで言った事は間違いじゃないし、テオ君はまだしもユートさんの事を大公爵としか知らないから、仕方ない事だったと思う。
知らなければ、まさか、実は王家を顎で使える立場の人物ですー! なんて思うわけがないしな。
いや、実際にユートさんが王家を顎で使うかどうかは知らないけど。
むしろあまり使いたくないような節が見え隠れしていたりもするが。
「えーと、とりあえず心が休まるのであれば、もう一度フェンリルに抱き着いてもいいんですよ? もちろん、話は聞きますから……」
とりあえず、目がキョロキョロとしていてせわしないパプティストさんは、落ち込んでいるのもあってさらに追い込まれてしまいそうなので、癒しを提供……勧める事にした――。
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