馴染めなくても話しを聞くくらいはしていました
テオ君が殿下モードで話しかけ、パプティストさんが謝罪しているのはともかく……。
どうでもいいんだけどパプティストさん、人と顔を合わせるのが苦手だから兜を被っているのはいいとしても、鎧も身に着ける必要はなかったんじゃないかな?
同じ近衛護衛のルグリアさんや、ユートさんの護衛兼お目付け役のルグレッタさんも、鎧などは一切身に着けておらず、帯剣もしていないのに。
いや、パプティストさんも帯剣までしていないんだけどね。
まぁ、顔を完全に隠す兜をしているのに、鎧は身に着けていないというのもそれはそれで見た目も本人が感じる重さも、アンバランスなのかもしれないけど。
なんて、テオ君の雰囲気が変わってさらに場の空気が引き締まったにもかかわらず、こんな事を考えている俺は場の雰囲気に馴染めていない証拠だろう。
……だって、いきなり貴族とか王族とか、しかもテオ君とユートさん達のように地位としては本当に偉い人、雲の上のような人達の話に、一般人、小市民の俺が馴染めるわけがない。
そっと、隣にお座りしておとなしくしてくれている……というか、テオ君の変わりっぷりに少しだけ驚いているレオを撫でておこう……あ、クレアにはバレちゃったみたいだ。
「いや、忠言が悪いわけではあるまい。ユート様も左程気にはされていないだろう。余はそなたのような者が傍にいる事を嬉しく思うぞ」
「ありがたいお言葉、胸に刻みます!」
「うむ……ふぅ」
「なんだか、ちょっと僕が信頼されていないみたいだけど……まぁ仕方ないかな。とりあえずパプティストちゃんも納得したって事で」
コッソリレオを撫でているのがクレアにバレて、ちょっとだけ笑われている間に、テオ君とパプティストさんの話は決着がついたようだ。
テオ君は、座りなおして深く息を吐いている……どうやら、殿下モード? は終わりみたいだな。
それにしてもユートさん、パプティストちゃんってちゃん付けで呼ぶのはどうなんだろう? 俺より立派な騎士さんなのに……。
中性的で、とびっきりの美形なパプティストさんだから、なんとなく女性というか女の子っぽくちゃん付けで呼びたくなるのもわからなくもない、ような気がするようなしないようなだけども。
ちなみに後で聞いた話によると、昔から知っている人物でずっとちゃんを付けていた……というか、初対面の時ユートさんが女の子だと思ってちゃんを付けてから、そのままの呼び方が定着しているかららしい。
パプティストさん本人は、女性と見間違えられるのも慣れていて、特に気にしていないらしいからいいか。
本人曰く「男性にしろ女性にしろ、とにかく言い寄って来る。または誰かと話しているだけで、いらぬ想像を掻き立てた女性に悲鳴を上げられるのに比べれば……」と闇を吐き出すような深いため息とともにそう言っていた。
絶世の美形と言っても過言ではない、かもしれないパプティストさんも、苦労しているんだなぁ。
そりゃ、人と面と向かって話すのが苦手になってもおかしくないか。
っと、余談というか余計な事を考えすぎた……。
「貴族達への報せ、調査などへの協力要請は僕に任せていいよ。これは、ここだけで済む話じゃない可能性も高いからね」
「しかし、これまであまり表立った行動は控えていたユート閣下ですが、よろしいのでしょうか? いえ、誰かに何を言われるか、というのとはまた別で……」
エッケンハルトさんは、多分ユートさんの事が多くの貴族に知られるのでは? という危惧をしたんだろうと思う。
存在というか、ヤスクニ・ユート……この国では、ユート・ヤスクニかな?
苗字はそう言えばどうしているのかわからないけど、大公爵としてユートという人物がいるのは貴族なら多分知っている事。
だけどその正体は……という部分は一部しか知らないからな。
ある程度ユートさんと近くで接していると、ずっと変わらない、年を取らず容姿も変わらないので怪しんだり、ある程度察したりはするだろうけど……マリエッタさんとか、セバスチャンさんとか。
ちゃんと知っているのは、ここでは俺とクレア、エッケンハルトさん、エルケリッヒさん、テオ君、ルグリアさん……あとレオも入れるかな? ともかくそれくらいだからなぁ。
一定以上の爵位を持つ貴族家の当主じゃないと明かされないらしいし、全ての貴族の今回の事でユートさんが動いたら、色々と知られてしまう可能性がある心配をするのは当然かもな。
「僕の事を知る人が多くなるって心配でしょ? それはまぁ仕方ないよ。絶対に秘密、口外する者には重い罰を、なんて事じゃないし僕もそんな考えは持っていないからね」
「それならば……承知いたしました」
ユートさんの方はそう言って、気楽そうに笑っているからまぁ、大丈夫なんだろう。
隣にいるルグレッタさんは、額に手を当てて溜め息を吐き、首を振っているけど……あれ、大丈夫じゃない? ま、まぁエッケンハルトさんも納得したようだし、なんとかなるんだろう。
「それにね……」
「「っ!!」」
続いて、ユートさんが目を細めて俯きがちになり、いつもと違う低い声を出す。
それを聞いて、エッケンハルトさんとエルケリッヒさんが同時に震え上がったように見えた。
「ふふ、ふふふふ……僕はね、許せないんだよ。ここはお気に入りでね……レオちゃんやタクミ君がいる。クレアちゃんとタクミ君を見ているのも楽しいし……」
俺とクレアを見て楽しむのは止めて頂きたいが、口を挟んだり突っ込んだりできるような雰囲気じゃない。
一瞬で寒冷地に移動してしまったのか、と錯覚してしまうくらい冷たい雰囲気と、重い空気が執務室の中を支配した。
その雰囲気、空気は全てユートさんから発せられている。
実際に何かが起こっている、何かを放出しているとかではなく、ただ単にユートさんの声や滲み出る雰囲気、醸し出す空気がそうさせているようだ。
エッケンハルトさん達だけでなく、俺も含めて部屋にいる人達が体を震わせているのがわかる。
本当の意味で寒さに震えたのではなく、ユートさんに呑まれてしまっているような状態と言えるだろうか。
唯一、平気そうなのはレオくらいなものだ――。
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