これからどう動くかの話になりました
「もし効果がある、と仮定しまして……ですがずっとカナンビスの予防ができるという事でもないようです。書物によると……」
セバスチャンさんが注意を付け加えるように話してくれた内容は、要はずっと予防できる効果が期待できるというものでもない、という話。
一度予防できる効果が発揮されれば、それ以後ずっと安全というわけではなく、摂取して日を追うごとに効果が薄まるかもしれないって事だな。
まぁそれは、生き物は体内でいろんなものが循環していて、場合によっては排出されるわけだから、効果があったとしてもいずれは消えてしまうのだから当然ともいえるだろう。
特に、体内で病気と闘った結果抗体ができるのではなく、外部から取り込むんだからな……抗体も、永続的ってわけでもない事も多いようだけど。
このあたりの知識は聞きかじりで詳しくないので、なんとも言えないな。
「本当に摂取して、体に害がないか慎重になる必要はありますが、とにかく俺はサニターティムを作るのが急務みたいですね」
「うむ、そちらに関して我々はどうにもできん。そのサニターティムだったか、その薬草がどのような場所にあるのかもわからず、今から探すのも日数がかかるだろう。見つからない可能性だってあるからな。これはタクミ殿にしか頼れない事だ」
本の片隅で少し触れられている、という程度の薬草だから知名度とかもほぼないと言っていい。
もしかしたら、公爵領どころかこの国に群生していない可能性もあるわけで、そういった部分に関係せず『雑草栽培』で作れる俺がやるしかない。
「……早速、自信を持てる機会ができたのかもしれないね。喜んでいい事態とは言えないけど」
「えぇ」
そう呟いて隣のクレアを見ると、真剣な表情で頷いてくれた。
自信云々と話した昨日の今日だけど、クレアのおかげで『雑草栽培』が俺の力の一部だと、前より少しずつ受け入れられつつある。
だからこそ、ここで役に立つ事で俺の自信につながるいい機会と言えるのかもしれないな。
……さすがに、自信過剰になり過ぎないようには気を付けるけど。
「……タクミ殿にはサニターティムを作ってもらうとして、カナンビスに関する話、情報もある程度判明した。後は我々がどう動くかだな」
俺個人としては、サニターティムを作る役割ができたけど、ここからは各人としての動き方の話みたいだ。
まぁ俺はこの屋敷にいる人達やフェンリル達になら何かを頼めるけど、多くの人、公爵領の人を動かせないし、そうするわけにもいかないからな。
「既にタクミ殿とクレアが休んでいるうちに、父上や母上と協議し、各方面への連絡に向かわせている」
さすがというか、こういう時行動力があるのは施政者として重要な事なんだろう。
エッケンハルトさん達は公爵家として、既に連絡などは差し向けてあり、動き始めてくれているみたいだ。
エルケリッヒさんや、マリエッタさん達も、頼もしい表情で頷いている。
「事が事なため、王家にも報せを向かわせてもいるが……そちらは、ユート閣下に任せた方が良かったですかな?」
「まぁ僕がやった方がいいんだろうけどね。でも、二重報告になってもやらないよりはいいと思う。多分、というか間違いなく僕の報せの方が早く届くと思うけどね」
どういう方法なのかはわからないけど、やっぱり以前椿油の試作ができたという話の時も考えたけど、ユートさんはエッケンハルトさん達と違って、迅速な連絡方法を確立しているようだ。
ここで話さない、俺にも話していないという事は国家的な秘密だったり、方針だったり、何かしらの機密があるからだろうし、あまり考えない方がいいのかもしれないな。
「お父様、カナンビスの薬を撒いた不届き者の調査に関してはどうでしょう?」
「そちらも織り込み済みで連絡を差し向けているぞ。さすがに今日明日中にとは言わないが、近日中に連絡が届いた先から、ランジ村、この屋敷に向かって人員が派遣されるはずだ。距離から考えて、ラクトスからが一番多いだろうが、とにかく虱潰しに森の調査ができるようにな」
「それと同時に、近辺で一番人の多いラクトス。それだけでなく、公爵領全体に不届き者に関する情報の調査も命じているわ。蛇の道は蛇とも言うでしょ? こういう事は、私の得意分野ですからね」
「手心を加えるように、とは言えんな。マリエッタは私が当主の時に作った情報網を持っているが、レオ様やタクミ殿、そしてフェンリル達に対して実際に害を成した。これは公爵家全体で、全力で取り組むべき事だ」
クレアからの問いかけに、エッケンハルトさんが。
さらにマリエッタさんとエルケリッヒさんも加わって答える。
マリエッタさんが特に、不敵な笑みを浮かべているのは怖いけど……後から聞いた話では、スラムを減らす活動をしていた際に、広く領内の情報やスラムに関する情報を得るために色々とやっていたらしい。
何をどうしていたのかは、エッケンハルトさんやセバスチャンさんが口をつぐんだのであまり聞かない方がいい事だろうと察したけど。
ともかく、蛇の道は蛇とマリエッタさん本人が言ったように、スラムなどにも情報を得られる手段を潜ませているようで、表立っては入って来ないような情報も入手できるとか。
……エッケンハルトさんが、ラクトスのスラムに送っていた密偵さんとかみたいなものかな?
「公爵家の皆が取り組んでくれるなら、僕の出る幕は少ないのかもしれないけど……次は僕の動きについてだね」
そう言って、皆の注目を集めるユートさんの表情は、いつもと同じくにこやかだったけど……目が笑っていなかった。
真剣な雰囲気だけでなく、何か少し肌がピリッとするような気配のようなものを、滲み出しているような……?
「公爵領の方はハルト達に任せているからいいんだけど……事は国内全体に関わる問題に発展する可能性がある。だから、さっきハルトが王家を通してって言っていたけど、それも含め国中の貴族たちには報せるよ。そして、協力させる」
「……それは」
「タクミ君が言いたい事はわかるよ。大事にし過ぎじゃないかってね?」
「まぁ……」
言葉を挟もうとした俺を遮って、ユートさんが言う。
国で禁止されている物が使われているんだから、全体の問題として捉える事もできるけど……でもさすがに全ての貴族に協力させるというのは、大きくし過ぎじゃないかなって思う。
いやまぁ、フェンリル達が実際に体調を崩して、あんな事やった原因の人物なりには相応の対処が必要だとは思うけど。
ただ、公爵領の村で起こった事に対して、国中の貴族というのはなぁ……。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。