対抗するための薬草があったようでした
「無差別なのか、何かの目的があっての事なのかはわからないが……その辺りはまた話し合うしかないな。調査の方もしなければならないし、その調査もやり方を変える必要がある」
「そう、ですね。フェンリル達があぁなってしまう以上、これまでのようにフェンリル達と一緒にというわけにはいきませんから」
おおむね、部屋の人達も俺がヴォルターさんの推測を否定した意見に同意のようだけど、とにかく今はカナンビスの情報共有の場だ。
だから、推論だけにしておいて話を戻す。
この会議では主に、カナンビスとそれを使った薬、そしてその効果などの脅威を含めた情報共有、そしてそれに対してどう動くかの確認などだから。
「セバスチャンさん、ここに書かれているサニターティムという薬草ですが……これが?」
「おそらく、現在書物で確認できた限りではカナンビスに対抗できる薬草と思われます。対カナンビスのの薬草とも言えましょうか……いえ、もしかしたら他の用途にもできるのかもしれませんが」
セバスチャンさんとヴォルターさんがまとめてくれた情報の書類、そこの最後の方に書かれている薬草、サニターティム。
簡単に図というサニターティムの絵が描かれているけど、なんとなく菜の花を連想するような見た目だった。
ところどころ違うので、ロエやラモギのように見た目がほぼ一緒で呼び方が違うとかではなく、ちょっと似ているだけで違う植物なんだろう。
「成る程……ありがとうございます、これだけ調べてもらえたなら俺の『雑草栽培』で……」
「はい。作る事ができると思います。ですが……資料が少なく、そう読み取れる記述があったというだけですので」
「実際にどうなのか、までは確定と言えませんか」
「そうなります。効果も確かなのかはわかりません」
一部の病に効果のあるラモギのように、一般的だったり既に使われて広く知られているならまだしも、本の片隅に記されていたというくらいだろうから、本当に効果があるかまではわからないか。
ただ、効果がありそうな薬草が見つかっただけでも前進だ。
セバスチャンさんとヴォルターさんが調べてくれなかったら、ゼンマイの薬草で対処するしかなく、それがもしもの際に使えるかは難しいからな。
今回のフェンリル達のように、回復まで時間がかかる可能性があるわけで。
即効性などはわからなくても、本当にカナンビスの毒性などに対して効果があるのなら、ゼンマイよりは対策用の薬草……薬になってくれると思う。
「とにかく作って、調べてみるしかないですね……効き目を確かめる事は難しいですけど」
「そうだな。カナンビスを摂取するわけにもいかんだろう」
俺の言葉に頷くエッケンハルトさん。
エルケリッヒさん達も同様だ。
薬草の効果を調べるために、誰かを実験台にしてカナンビスを摂取させるなんて事はできないからな。
ある程度は作って調べるにしても……実際の効果は出たとこ勝負になるかもしれない。
ただ念のためであっても、作っておいて損はないだろう。
セバスチャンさん達がまとめてくれた資料によれば、カナンビスに対する効果以外で、毒性のあるような物じゃないみたいだし。
置き薬ならぬ、置き薬草として作って保存しておくのがいいか……保存して効果が保てる期間が長い物だったらいいんだけど。
「セバスチャン、予防効果というのはどういうものだ? 聞き慣れぬ言葉だが」
「そちらは、タクミ様から以前聞いた話を元にした言葉になります」
エルケリッヒさんが、資料を読みつつサニターティムに関して書かれている一部が気になったようだ。
そこには、カナンビスに対しての予防効果が期待できる可能性、と書かれていた。
「予防……成る程、予防ね」
ユートさんが同じく資料に目を落としながら、何やら納得したように呟く。
専門的な知識を学んでいない人ばかりだったのか、ユートさんを含めたこちらの世界に来た人達は、医療技術を地球のように発達させられていないらしい。
まぁ、そういう俺も専門的な事はちんぷんかんぷんなんだが。
ともあれ、こちらの世界では怪我にしろ病気にしろ、予防よりもそうなったから薬草や薬などで治す、という考え方が根付いているようだ。
だから、薬草を作れる俺が役に立てるとも言えるんだけど。
一応ある程度の衛生観念はあるみたいだけど、手洗いうがいの重要性もあまり広まっていないみたいだからな。
綺麗に清潔に、という基本は心掛けられているけど……外から家に帰ったら、すぐに手洗いうがいをするだけで病気の予防ができる、というのは以前病がラクトス周辺やランジ村に広がった時、クレアさんやセバスチャンさん達に伝えたけど、初めて聞いたという反応だった。
そうして病気を予防する、という概念がそもそも希薄だったから仕方ないけど、でも……。
「ユートさんなら、知って広めていてもおかしくないのに……」
なんて、隣にいるクレアにも聞こえないよう小さく呟く。
同じ元日本人なわけで、予防というか小さい頃に手洗いうがいをしましょうくらいの事は教えられているはず。
というか、日本人なら誰でも言われた事はあるんじゃないかな?
まぁそれでも、手洗いうがいをおろそかにする人はいるし、意識の中になかったからかもしれないが。
俺だって、小さい頃は面倒で手洗いうがいをせずに叱られた事とかもあるからなぁ。
まぁこんな話は今はいいか。
「予防という事は、先んじてサニターティムを摂取しておく事で、カナンビスの影響を受けなくなる……という事ですか?」
首を傾げているエルケリッヒさんやマリエッタさん達だけど、予防に関してはまた後でセバスチャンさんが喜んで説明してくれるだろうとして、まずは肝心なサニターティムの事を聞く。
「書物に書かれていた事が正しいのであれば、ですな。効果があるのかも断定できませんので、できる可能性があるかもしれない、という程度にとどめております」
「そうですか」
予防効果があれば、あらかじめ摂取しておけばフェンリル達が体調を悪くしたような事を避けられると思ったんだが。
いや、毒性がないんだったら、それこそサラダを食べるように摂取しておくのも悪くないか。
全く問題がないわけじゃないけど、もし効果があれば儲けものってところか。
……屋敷の人、フェンリル達、ラーレやコッカー達……作る数が多いだろうから、すぐには行き渡らないかもしれないが――。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。