薬にすると変わる部分もあるようでした
「フェンリル達もそうだけど、薬にして人間以外に影響を及ぼした場合に、その依存性がどうなるかはわからない。幸いにして、フェンリル達はタクミ君が治療したから今の所、求めるような気配は一切ないけどね」
「もしかすると、ゼンマイ……って俺が勝手に呼んでいるけど、昨日作った薬草で治療しなかったら?」
「カナンビス、というかそれを使った薬を求めるようになっていた可能性は、否定できないね。さすがにこれは、実験して調べるわけにもいかないけど」
それはそうだ。
フェンリル達を実験台に使うとか考えたくもない。
それにだ、レオがいればなんとかなるとしても、フェンリルがカナンビスを求めるようになってしまい、暴れ始めたりしたら大惨事……だけで済むかどうか。
放っておかなくて良かったという思いと、昨日のうちに対処できる薬草を作れて良かったという気持ちが溢れる。
それは皆も同じだったようで、テオ君やマリエッタさん、それに使用人の人達もルグリアさん達ですらも、胸を撫で下ろしていた。
「とりあえず、僕の知っているカナンビスはこんなところかな? まぁ、知りたいならカナンビスに取りつかれた人の末路なんかも、語れるけど……気分のいい話にはならないよ?」
「そ、それはまた別の機会にお願いする……かもしれないって事で」
笑顔を作って話そうか? というように皆に問いかけるユートさんに、わかりやすく部屋にいる人達の顔が引きつった。
俺も同様だけど……そんな、自我が崩壊するとか暴れるとか言われた後に、その人達の末路なんて聞かされて、気分のいい話になるわけがないからな。
ちなみにカナンビスは、細長い柄の先に十センチ以上ある数枚の小葉が集まり、手のひらみたいな形の物らしい。
完全に見た目が俺の知っている、地球にあったあれと一緒だ……花は咲かないらしいけど。
あれは一部違法ではない国もあるみたいだけど、こちらの世界では依存性が強すぎて絶対に扱いたくない植物だ。
違法でなくても扱いたくないが。
「……では、薬にした時の効果などですが。ヴォルター?」
「はい。えぇと……」
ユートさんとカナンビスその物の効果の話を聞いた後は、セバスチャンさんがヴォルターさんを促して薬にした場合の事。
説明に関してはいつもならセバスチャンさんがやりたがるのに、ヴォルターさんに任せるとは……それだけ疲れているからか、それともカナンビスに関してはあまり口にしたくないからなのか。
まぁ単純に、ヴォルターさんの方が主に薬に関して調べていたのかもしれないけど。
ともあれ、調合法や混ぜるカナンビスの量によって、影響を及ぼす相手……要は種族を変える事ができるとの事だ。
「先程の話にあったように、カナンビスで注目すべきは毒性よりもその依存性です。ですが、人間以外、魔物などに影響を及ぼすようにした場合、他の種族に影響を及ぼさなくなり、また依存性も薄まるようなのです。さすがに確かめようがありませんが……」
「じゃあ、フェンリル達は俺が治療しなくても?」
「もしかしたら、何事もなく元気になっていただけかもしれません。ただしそれは、あくまで書物にそれらしい記述があっただけですので……」
依存性は薬にした時点で人間の時と違って、強くないのか……だったら、治療しなくてもとは思わないけどな。
毒が体から抜けきるまで、ずっと苦しみ続けるのを見たいなんて思わないし、できるだけ早く元気にこれまでのように駆け回れるようになって欲しかったから。
「……フェンリル達で確かめる、なんて事は絶対にしてはなりませんね。タクミさん」
「うん、クレアの言う通りだ」
クレアが厳しい目をしてそう言うのに頷く。
話をしたヴォルターさんだけでなく、部屋の皆も深く頷いていた。
それだけ、皆もフェンリル達の事を想ってくれるのは嬉しい限りだな。
「私達がフェンリルに対し、薬を作って実験をする事はありませんが……もしかしたら……」
「ヴォルターさん?」
何やら、訝し気な表情になったヴォルターさんが小さく呟く。
もしかして、何か気付いた事でもあるんだろうか? そういう雰囲気だ。
「ヴォルター、何かあるなら言ってみろ。ここでは、可能性を模索するのも重要だからな」
「……いえ、もしかしたらというだけなのですが……森でフェンリル達がカナンビスの薬の匂いを嗅いで変調をきたした。これまでの事から、ランジ村にフェンリル達がいると知っている者が行ったと予想するならば、なのですが……」
「それはもしかして……フェンリル達で、カナンビスの薬の実験をした、と?」
「あくまでその可能性が、というだけなのですが……」
エッケンハルトさんが促すと、複雑な表情をしたヴォルターさんが推測を話してくれた。
途中で言葉を切ったけど、そこまで言えば答えはおのずと導き出される。
つまり、森に入り込んでいた何者かは、カナンビスの薬を振り撒いて効果の実験をしていた……? という推測。
だけどそれは……。
「カナンビスの薬を使っていたのは、もう疑いようがない事ではありますが……それならもっと違うやり方をしたんじゃないかと……すみません、ヴォルターさんの考えを否定するような事を」
「いえ、私もあくまでもしかしたら? という程度に思い浮かんだだけですので。いけませんね、寝ていない頭では突拍子がないどころか脈絡のない考えが浮かんでしまいます」
「新たな発想という意味では、それも悪くありませんけどね……多分ですけど……」
ヴォルターさん、やっぱり寝ていなかったのか……まぁそれはこの会議が終わったらゆっくり休んでもらうとして。
推測を否定した理由を他の皆にも話す。
薬の実験、という部分は否定できないが、さりとてフェンリルを狙った実験だとしたら、わざわざランジ村のすぐ北の森部分を避けるように、薬を散布する理由がわからない。
そもそも、レオが最初に嗅ぎ取って魔物達の様子がおかしかったのは、俺達がここに来てすぐの頃だ。
そしてその時の臭いは、もうほとんど風に流されたか何かで消えかけていた状態でフェンリル達の体調が悪くなる事はなかった。
その場にいる時、リーザが気分が悪くなったけど……それくらいだ。
発見した足跡の経過日数でもそうだけど、本当にフェンリルに対して実験をするのならもっと直近でやらないと意味がないからな――。
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