ユートさん達が現れました
「旦那様、クレア様、おはようございます。それと、お疲れ様です」
外に出て、眩しさに目を細めていた俺達に挨拶と共に声をかけてきてくれたのは、アルフレットさんだ。
手にはシルバートレイを持っていて、上にはカップが載っている。
わざわざ用意して持ってきてくれたんだろう。
「アルフレットさん。待っていてくれたんですか?」
「おはよう、アルフレット」
「はい。フェヤリネッテが突撃して行かれたので、そろそろかと」
「ははは、本当に突撃してきましたからね。おかげで少し目が覚めましたけど」
大きな声に驚いて、ではあるけど。
そのフェヤリネッテは、一足……と言っていいのかわからないけど、先にふわふわと屋敷の方へ飛んで行った。
もう役目が終わったって事だろう。
「お二方とも、こちらを」
「ありがとうございます。ん、ふぅ……体に染み渡りますね」
「ありがとうアルフレット。んく……そうですね……」
アルフレットさんが持っていたシルバートレイから、お茶の入ったカップを取り、一口飲む。
暖かく、少し渋めに淹れられているお茶が、体に染み渡って眠気を飛ばしてくれる。
俺の場合は特に、アルコールの影響がないと言っても、ロゼ・ワインを定期的に飲み続けていたからってのもあるかもしれないけど。
これから休むのならカフェインとかはあまり良くないかもしれないが、今すぐこの場で寝るわけじゃないからちょうどいい。
「フェンリル達の方は……あれを見れば問題ないとよくわかりますね」
「そうですね。元気になってくれました」
「タクミさんのおかげですね。病み上がりで走って、無理をしていないかが少し心配ですけど」
「まぁ、あれだけ走り回れるなら大丈夫なんだと思うよ」
視線をフェンリル達の方に動かしたアルフレットさん。
レオと一緒に、クルクルと大きく輪を作るように駆けているフェンリル達。
無理をせずゆっくりと言ったのに、体調の悪かったフェンリルも混じっているのを見ると、クレアの心配もわかるけど、とりあえず大丈夫なんだろう。
微笑ましく、そんなフェンリル達の様子を見ながらレオを呼び、屋敷の裏口というか外壁の扉から庭に入ろうとしたところで……。
「ふっふっふ。タクミ君、昨夜はお楽しみでしたね?」
「お楽しみだったのよう」
「……はぁ」
「え、反応が溜め息って酷くない!?」
扉の裏に潜んで、ひょっこり顔を出してそんな言葉をフェヤリネッテと一緒にかけて来たユートさんには、溜め息を吐きたくなるのも当然だと思う。
こちとらアルフレットさんのお茶のおかげで、多少目が眠気が薄れたとしても、体の奥には寝不足特有の重さのようなものが鎮座しているんだから。
まともに突っ込む気力なんて、朝陽の眩しさに慣れるのに使ってもう残っていない。
「さすがに今はちょっと……相手にするのも面倒だから……」
「そういう扱いを僕にできるのはタクミ君くらいだよねぇ。でも、そういうのもちょっといいかも……」
なんて言って笑い始めるユートさん。
対等にというか、身分がどうのではなく友人のようにと求めたのはユートさんだからなぁ。
俺も、同じ元日本人というのもあって、話しやすい部分もあるからそうさせてもらっているけど、確かにユートさんのこの世界での地位を考えると、こんな扱いをするのは俺だけなのかもしれない。
ルグレッタさんは、ユートさんに求められてきつく当たっているという部分もあるし。
「ふっふっふ、タクミ殿。クレアとの一晩は楽しかったか……」
ユートさんをどう対処しようか、と考えていると今度はエッケンハルトさんが現れた。
逃げようとして回り込まれた気分だ。
そのエッケンハルトさんは、言葉だけでなく表情もニヤニヤと楽しそう。
まるで、いたずらを思いついた少年のようだ……俺の倍は生きている人なのに。
いつもは朝に弱くて皆が朝食を食べ終わった頃に起きるのに、こんな時だけ早朝から元気なんだよなぁ。
「ユート様も言っていましたけど、お父様。楽しむとは一体……? いえ、タクミ様といろんなお話ができましたので、楽しかったのは楽しかったのですが……それでも、フェンリル達が苦しんでいた手前、楽しむ事を前面にした事ではなかったのですが……」
俺の横で、邪な考えを持った大人達に対し、よく言葉の意味がわからなかったらしいクレアが、キョトンとして言った。
エッケンハルトさんの方はともかく、ユートさんの言った日本では有名なあのセリフも、こちらの世界の人達には通じなくて当然だよな。
「あー、うん、えっとね……クレアちゃん……」
「その、なんだ……クレアの言う通りなのだが……」
「ワフゥ」
そんなクレアの純粋な疑問を受けて、邪な大人達はたじたじの様子。
さらにレオが、溜め息を吐きながら外壁を飛び越えた……扉は人用なので通れないからだが、レオは意味がわかっていたのか。
「そもそも、レオがいるだけでなくフェンリル達もいるんですから、お楽しみも何もないでしょうに……」
「う、うむ。そうだな。しかし、中々にタクミ殿が辛辣だ」
「タクミ君、目が据わっているよ?」
徹夜明けに茶化されて、邪推するような話に乗って笑えるような余裕はないから。
さすがに目が据わっているのは、疲れからであってユートさん達に怒っているという程じゃないけども。
「お父様、お楽しみっていうのはなんなのでしょうか……?」
「うっ……そ、それはだな……」
純粋な疑問を再びぶつけるクレアに、口ごもるエッケンハルトさん。
ユートさんも、そんなクレアにどう話そうか悩んでいる様子だ。
まぁユートさんはともかくとして、さすがに実の娘に父親が邪推したお楽しみあれこれの詳細を説明するわけにはいかないよな。
これで意気揚々とエッケンハルトさんが話し始めたとしたら、父親としてどうかと思うし……反面教師にはさせてもらうけど。
「……成る程。こう対処するのが一番いいのか」
クレアとエッケンハルトさん達の反応を見て、納得というかちょっとだけ答えを得た気分。
単純な疑問でもわからないと気持ち悪いのか、エッケンハルトさんに迫っているクレアと、言葉をなくした邪な大人達。
おそらく、いつものクレアならすぐに意味を察して赤くなったりしたんだろうし、エッケンハルトさんはそれを狙ったのだろうけど――。
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