そして夜が明けました
クレアやレオと話し、外へと向かったフェンリル達は外にいる人達に任せる事にした……体調の悪いフェンリルでもないからな。
厩舎の外では、一応俺やクレアがいる事もあって護衛の人達が数人、交代制で見張ってくれているはずだ。
いつもは、屋敷の警護のついでに見廻りをする人がいるくらいだけど。
……レオもいるし、フェンリル達が大量にいる厩舎で、何か危険な事が起こるとは思えないけど……カナンビスの薬の事もあるし、作って森の中で使った何者かの考えがわからない以上、警戒するに越した事はない。
と、マリエッタさんが言っていた。
エッケンハルトさんとユートさんは、ニヤニヤしながらできるだけ少数か護衛を付けなくても……とか言っていたけど。
あれは、夜通し俺とクレアが一緒にいる事に対して、変な考えを持っている顔だった。
ちなみに、エルミーネさんやセバスチャンさんもエッケンハルトさん程じゃなくとも、面白そうと言っているような表情が隠せていなかった。
ほんともう、公爵家の使用人は……一部だけだろうし、そこにユートさんも混じっているけど。
「あ、戻って来た」
「ふふ、眠そうな顔が可愛いですね」
少しして、厩舎を出て行ったフェンリルがおぼつかない足取りで、寝ぼけ眼のまま戻って来た。
野生の本能は消え去っているんじゃないか? と思えるくらい無防備に眠そうな、というかほぼ寝ているような顔だなぁ。
確かにクレアの言う通り可愛いけど。
「うん、そうだね……っと、よしよし。もう少しで完全に夜が明けるけど、まだ大丈夫だからお休み」
「お休みなさいね」
「ガフ~」
「ガゥ~ン」
戻って来たフェンリル達は、俺達の横を通る際に帰って来たという証明なのかなんなのか、俺やクレアに鼻先を寄せて頬をこちらに擦りつける。
寝ぼけているのかな? と一瞬思ったけど、とりあえず撫でると満足したらしく、まだ眠そうな鳴き声を発して自分達の小部屋へと戻っていった。
フェンリル達にとっては大事な事だったのかもしれないし、ゆっくり寝られるなら特に気にしない。
それにしても、寝ぼけ眼でも間違えずにちゃんと元いた場所に戻れる、これが帰巣本能か……違うかな?
「ふぁ……あ、すみません」
「ううん。さすがに眠くなっても仕方ないよ。ふぁ~……」
「ワファ~……」
窓の外から朝陽が差し込み、厩舎の中も明るくなってくると、さすがに眠気が強くなってきたからかクレアが欠伸を噛み殺した。
でもそれは欠伸である事には変わらず……俺やレオにもうつって、思わず大きな口を開けてしまった。
まぁ、いつもは多少の夜更かしくらいはするとしても、基本的に規則正しく生活しているからな、俺もクレアもレオも。
完徹なんて、日本での仕事で残業した時以来だけど、眠くなるのも当然だし欠伸くらいはでるうえ、うつったら我慢なんてできないよな。
「タクミさんやレオ様まで……大丈夫ですか?」
「うん。ん、ん~……ふぅ。欠伸ってなんでかわからないけど、うつってしまうものだからね。俺もレオもクレアも、ずっと起きていたせいってのもあるけど」
眠気を追い払うように、座ったままでレオに寄りかかっていた背中を離して、上体だけを伸ばしつつ深呼吸。
こうするだけでも、少しはマシになるもんだ。
クレアも俺を真似るようにしていたけど……そうすると、大きめの胸部装甲が強調されて……いやいや、朝から何を考えているんだ。
頭を振って、邪な考えは振り払っておく。
「うつる? そうなんですか?」
「……うん、そうだよ。理由は解明されて……いたっけな? それらしい理由とかは何か言われていたと思うけど……」
クレアは俺の邪念に気付く事はなく、欠伸がうつると言った方に興味がいったようだ。
欠伸が移る理由ってなんだっけ? 眠気で上手く回らない頭を回転させる……確か大きく脳波がどうとか、色々それらしい事が言われていたのを聞いた事はあるけど。
電話口とかでもうつったりするし、本当に正しいかどうかわからないし、理由はわからないが正しいかな。
「そうなのですね。でも確かに言われてみれば、誰かが欠伸をすると、他の誰かも欠伸をすることが多い気がします」
「そうだね。あ、そういえば……」
「どうしたんですか?」
「前に、親しい間柄だからっていう理由も聞いた事があってね。まぁいくつかあるそれらしい理由の一つなんだけど。だから、人間同士だけじゃなくて、人と犬……今で言うと俺という人間と、レオというシルバーフェンリルにもうつったってところかな」
欠伸がうつるのは人同士限定ではなく、人から犬、犬から人という事もあるみたいだからなぁ……犬に限らず猫とかでもかな。
あくまでそれらしい理由っていうだけで、あまり親しくなくてもうつる事はあるんだけども。
「じゃあ私とタクミさん、それにレオ様……ここにいる私達が親しいって事ですね」
「正しい理由かはともかく、それはそうだろうね」
「ワッフ」
妙に嬉しそうなクレアに笑いかけつつ、レオと一緒に頷く。
ここでこうして、一緒に毛布に包まりながらレオに寄りかかっている状況で、親しくないなんてことはないからな。
俺もクレアが嬉しそうにする理由がなんとなくわかったから、もう欠伸がうつる理由はそれでいい気がした。
「おやようなのよう! 元気してるのよう?!」
「フェヤリネッテ!?」
「っ! びっくりしました……」
クレア達と話していると、突然厩舎の中に響く大きな声と共にフェヤリネッテが乱入。
静かだったから驚いた……朝から元気だなぁ。
「ワフワウ!」
「ご、ごめんなさいなのよう……」
レオが抗議するように、というか静かにしろ! と言うように鳴くと、途端におとなしくなって謝るフェヤリネッテ。
そう言うレオの鳴き声も、結構大きかったが……ほら、小部屋からフェンリル達が顔を出している、目が覚めたんだろう。
フェヤリネッテの声とレオの声、どちらで起きたのかはわからないけど。
そんな周囲の様子を見つつ、テーブルに置いてある時計を見てみると、もう完全に朝と言っていい時間だった。
朝食までは時間があるし、普段でも起きるには少し早めだけど。
厩舎の窓からは、明るい日の光が差し込んでいた……クレアやレオと話しているのが楽しくて、こんな時間になっていたのに気付かなかった。
久しぶりの完徹だけど、俺一人だったら多分気付かぬうちに寝ていただろうなぁ、昔何度も何度も経験した寝落ちってやつだ――。
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