フェンリル達のおトイレ教育は万全みたいでした
「ん……美味しいですね」
「喉が渇いている時って、本来は無味なはずのお水でも美味しいって感じるからね。まぁ、俺はロゼ・ワインだけど……なんか、俺一人悪い気がしちゃうな」
「いいんですよ。私もロゼ・ワインは美味しい物だと思いますが、今は飲むわけにはいきませんし」
少しでも、酔わない程度にクレアに付き合ってもらおうと思ったけど、失敗したようだ。
「ワウ?」
「水の追加はいるかって、レオが」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます、レオ様」
「ワッフ」
クレアが飲んでいる水は、大きめの入れ物に入ってそこからグラスに注ぐようになっているんだけど、その水はレオの魔法で作られていたりする。
別にそうじゃなくても良かったんだけど、レオがやる気だったからな。
人がある程度魔法を使えるようになれば出せる、魔法の水と違って、レオが作り出す水は飲んでも問題ない水。
通常は周辺から水分を集めて出す魔法なんだけど、レオの場合は言葉の通り作り出しているらしく、不純物がほぼないので飲めるとかなんとか。
レオがいてくれれば、長期間の旅に出たとしても水の補給いらずというのは、便利だなぁ。
……長期間の旅に出る予定は一切ないけど。
予定としては、クレアと一緒にラクトスに行こうと考えているくらいかな? まぁ行きはティルラちゃん達と一緒だから、レオが水を作り出す必要はないか。
「お、今度は向こうのフェンリルが呼んでいるみたいだね」
小部屋のフェンリルが再び鳴き声を上げたので、クレアと被っていた毛布から出て、そちらへ向かう。
レオは相変わらず不動で、そのまま伏せたままでいるみたいだ……まぁ、レオは大きいから身を寄せ合っているフェンリル達の小部屋には入りづらいからな。
動きたくないとかではなく、俺達の様子を見てくれていると思っておこう。
「そうですね。タクミさん、大丈夫ですか?」
「うん、ロゼ・ワインのおかげで体の力が抜ける感じも全然ないから。ちょっと眠いくらいかな。クレアの方は?」
「私も、少し眠気はありますが……」
さすがに、夜と言うよりも朝型と言えるくらいの時間になって来たから、眠気はそれなりにある。
クレアも同じようで、あくびをする程ではなくても眠くはなっているみたいだ。
今の状況で安眠薬草を食べたら、一瞬で寝られる自信があるな……こんな事に自信を持っても意味はないけど。
ともあれ、そうして小部屋のフェンリル達、時折俺達の方へ来るフェンリルを撫でて様子を見ながら、眠気に負けないようクレアと話しつつ、フェンリル厩舎で過ごす。
レオも頑張って寝ないようにしてくれていたようで、余裕がある時はレオを撫でてもいたけど。
そうこうしているうちに空が白み始めたんだろう、厩舎の窓から少しずつ明るい光が差し込み始めた。
「ん、あれ……俺達の所じゃないのか。って、あれはカナンビスの影響を受けたフェンリルじゃないみたいだな」
「そうですね。どこへ行くんでしょう?」
「ワウ?」
小部屋から出てきたフェンリルが、また撫でてもらおうと俺達の所へ来るのかと思ったら、そのまま横を通って行った。
よく見ると体調の悪いフェンリルとは別みたいだけど……。
「……クレアも、フェンリルの見分けが付くようになってきているんだなぁ」
「それはまぁ、毎日見ていればなんとなくですかね。顔つきとか、体の形や大きさや、毛並みがほんの少し違うんですよね。屋敷の皆も大体わかってきているみたいな事を聞きました。子供達は……区別できているのかわかりませんが」
フェンリル達は大体同じ見た目で、人によっては区別がつかない事がある。
犬でも、同じ犬種だと見分けが付かないようなものだ。
ずっと一緒にいる人はわかっても、初めて見ると人だと犬に慣れていてもわからない事が多いからな。
ただ、一緒にいる時間が長くなる程にほんの少しの違いでクレアを含めて、見分ける事ができるようになってきたみたいだ。
俺も、それなりにできるようになっていて、フェリー達のように名前が付いているのは当然として、なんとなく見分けが付けられる。
雄より雌の方が体がほんの少し大きめだったり、フェリーと同じくらい年を取ったフェンリルと、フェンやリルルのような比較的若いフェンリルは、毛並みや顔が違ったりとかで、それなりに見分けやすい部分があったりもするからな。
とはいえさすがに、多くのフェンリル達が並んでいるとわからなくなったり、今みたいにぱっと見ではすぐ判断できなかったりするんだけど。
あと同年代くらいで性別も一緒だと、見分けるのは難易度が高い。
「クァ~……ウォフ」
俺達の横を通り過ぎて行ったフェンリルは、そのまま厩舎の出入り口へと少しヨタヨタとした歩き方で向かう。
あくびをしているようだし、眠いんだろう……というか半分くらい寝ているんじゃないか?
通り過ぎる時、半分以上目が閉じているように見えたし。
「ガゥ……ガウバフ」
外へと向かうフェンリルを目で追っていると、また別のフェンリルが来て横を通り過ぎつつ、俺やレオに何かを伝えるように鳴いた。
どこへ行くかを伝えてくれているようだ。
「ワウ? ワーフ。ワッフワフ」
「あぁ、成る程そういう事か。結構律儀と言うか、そういうのは守ってくれるんだなぁ。助かるけど」
「タクミさん?」
「あぁごめんごめん。えっとね……」
首を傾げたレオがすぐに納得し、フェンリルが伝えたかった事を俺に教えてくれる。
どうやらフェンリルは、トイレのために外へ向かって行っているようだ。
まぁ人間でもそうだけど、寝ている時にふともよおして目が覚めてしまう事ってあるよなぁ。
それはフェンリルも変わらないようで、厩舎の中、自分達に割り当てられた小部屋ではなく、ちゃんと外に出て用を足す事にしているみたいだ。
律儀と言うかなんというか……まぁ、厩舎内を掃除する手間が省けてこちらとしても助かるんだけど。
フェンリルって、結構綺麗好きなのかもしれない。
「厩舎の外には、今だと護衛の者がいますし……フェンリルに付いてくれるでしょうね」
「そうだね。そちらは任せよう。大分、苦しそうな鳴き声を上げるフェンリルは少なくなったし、頻度も下がったけど、できるだけ離れないようにしたいし」
「ワウ」
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