関係は人それぞれのようでした
「お父様は、少々行き過ぎな部分もありますけど……そうですね。私も、お父様には心配をかけてしまっていますが、お母様がいなくなった後も、変わらず大事にされているというのはよく感じます」
「うん、そうだね」
使用人さん達がいるとはいえ、男手一つで二人の娘を育てるのは大変だっただろう。
それが少し変な方向でこじれて、クレア本人が言い出したのに忘れてしまったお見合い話を大量に持ってきたりと、離れて暮らすきっかけになってしまったりもしたようだけど。
結果的には、そのおかげで俺とレオがクレアと出会えたわけだし、悪い事ではないとも思えるが。
「ま、まぁ少し話が逸れましたが……」
エッケンハルトさんの事を言ったからか、少し恥ずかしそうにしたクレアが話を戻す。
おっと、俺が突然伯父さん達の話をし始めたから、逸れてしまっていたな。
「心配をかけさせてもらえるというのは、私にとっても、今タクミさんが言ったようにタクミさんの伯父様方も、嬉しい事なんです。それは、わかってもらえましたか?」
「うん、そうだね。多分また心配させちゃった、とか考える事がないとは言えないけど……それを申し訳ないとばかり考えるのは、辞められそうだよ」
まぁ、伯父さん達に関しては世界を隔てて、遠く遠く離れてしまったから、それはそれで心残りにはなってしまっているけど。
クレアの言い方なら、もう心配するべき俺自身がいないわけだからな。
「そして、私たちに心配をかけてタクミさんが成し遂げた事は、多くの人達を救っているんです。これは間違いなくて、なんと言いますか……だから、タクミさんが自信を持ってもいいと思うんです。すみません、あんまりまとまってなくて」
「はは、そういう所はクレアらしいかな」
感情が先走って、と言うと人聞きが悪いかもしれないけど、思い立ったら一直線くらいの方がクレアらしくて俺は嬉しい。
俺が考えすぎて二の足を踏む事が多い分、クレアがそうして引っ張ってくれるのが合っているのかもしれない。
まぁ、男として女性に引っ張られるのはどうか、という考えもあったりするから情けないけど。
「あ、またタクミさん自分が情けない、とか考えていませんか?」
「あー、ははは……クレアにはかなわないなぁ」
もしかしたら、また少し情けない表情をしていたのかもしれない。
またしてもクレアに見抜かれて、頭をかきながら苦笑する。
「どちらがどう、というのはあまり考えなくていいと思います。だって、人はそれぞれで、一緒にいる人によって形は色々と違いますから。独特ですけれど、ユート様とルグレッタさんもそうでしょ?」
「あれは、独特と言うか特殊と言うか……でもそうだね。俺の考えすぎなんだと思う。うん、人それぞれ違う形があって当然。だから、俺とクレアもそういう関係って事でいいのかもね」
さすがに、ユートさんとルグレッタさんの関係を引き合いに出すのは微妙な感じがするけど、でも十人十色とも言うからな。
人それぞれ違うんだから、男ならとかそんな風に考えること自体が間違っているのかもしれない。
そもそも、この世界では男女の格差というのがあまりないように感じるし、女性が引っ張るでもあまり変じゃなさそうだ……女性に虐げられる? のが好きなユートさんの影響じゃないといいけど。
なんにせよ、貴族家を女性が継げるとかヨハンナさんとかみたいに、女性の兵士さんもそれなりにいるし、完全な平等かはわからないが男性はこう、女性はこう、みたいな考えは少ないのかもな。
もちろん、男女での体格差とかはあるから、兵士さんのような職業に女性は少ないのかもしれないが。
でも、使用人さんも男女で大きな差があるわけでもなし、だからってどちらかがぞんざいに扱われているわけでもない。
日本でも俺の考えはちょっと古めだと自覚していたくらいだから、そういう部分も改めていかないとな。
「はい。それでいいんです。……と言いましたけど、どんな関係とタクミさんは考えているのでしょうか?」
「えっと、それは……またいずれ話す機会があったら、かな?」
「ぶー、ずるいですタクミさん。気になります……」
なんて、口を尖らせるクレアは、ちょっと幼く見えて可愛い。
「まぁ、いずれ必ず聞かせてもらいます。それで、ですねタクミさん。タクミさんに救われた人達……人に限りませんけど、そういった者達がいるのはわかりますよね?」
ちょっと恨みがましく俺を見たクレアが、話しを再び戻した。
あれ、まだ終わっていなかったのか。
というかそうだ、元々は俺にもっと自信を持ってという話だったんだから、心配する事に関してだけでは終わらないか。
「えっと……クレアはレオが助けたし……ランジ村の人達くらい?」
「違います! もう、タクミさんったら! レオ様も、タクミさんがいなければどうなっていたか、わからないではないでしょう?」
「それはまぁ」
「ワウ」
あの時、レオの鳴き声に気付いて拾わなければ、雨の降る中凍えて、もしくは飢えて助からなかった可能性が多い。
人通りの少ない場所だったし、他に気付いた人がいないとも限らないけど……一刻も争う状態だったのは間違いないから。
「そしてそのレオ様がいなければ、私がオークに襲われていた時に助ける事もおそらくできませんでした」
クレアは知らないが、それ以前にこの世界に来た時点でレオがいなかったら即詰んでいただろうなぁ。
川はなんとか自力で見つけたとしても、クレアを発見する前に俺がオークなりの魔物と遭遇して万事休すだ。
戦う術なんて持っていなかったんだから。
「ワッフ、ワフワウ。ガウワウワーウ」
「ははは、そうか。うん、俺もレオを助けて良かったと思うよ」
クレアとの話に割り込む形で、レオが主張するように鳴く。
拾った時はレオ自身が小さく、多分意識も結構朦朧としていたのかもしれないため、あまり覚えていないようだけど、とにかく俺に感謝しているようだった。
今では、俺が感謝するばかりだけど、あの時レオを見つけて良かったと思うのは間違いじゃない――。
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