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昔の事を思い出しました



「タクミさんが、心配できる人がそこにいる。という確かな証なのです。もしその人がいなければその心配もできません」

「それは……そうかもしれないけど。でも、逆に心配しなくていいとも考えられないかな?」

「確かにそう考える人もいますし、タクミさんもそうなんでしょう。そうですね、要は見方の問題だと思うんです。心配する事そのものがその人がいてくれる証なんです」

「証……かぁ」


 どちらかと言うと俺はネガティブな捉え方だけど、クレアはポジティブに捉えていて、そちらの考えだと心配する事自体がマイナスではないという事だろうか?

 そう考えたところで、少しだけクレアが俯いている事に気付いた。

 窓から差し込む月明かりだけだと、俯くクレアの表情はよく見えないけど……少しだけ悲しそうな雰囲気を感じる。


「……私は、もう心配もできない人がいますから」


 心配できない人……? できる相手はそこにいるって言っていたからつまり、今はいない人の事。

 もしかして。


「それって、クレアのお母さんの事……かな?」

「はい……。お母様は体が弱く、私が生まれてからも床に臥せる事が何度もありました。ずっと心配で……でも、もうその心配をする事はできません」

「そうだね」


 亡くなった人なんだから、心配する事ができないのは当然だ。

 あの世とか、死後の世界みたいなのがあるという考えとかなら、あちらで楽しくやれているかな? みたいな事を考えたりするかもしれないけど、それは心配とはちょっと違うかな。

 それに、そういった考えはこちらの世界ではあまりないみたいだし。

 これも見方が違えば、心配しなくて済むようになったとも考えられるし、クレアが言うように心配する事ができない、という事でもあるわけか。


「お母様と違ってタクミさんは今こうしてここにいます」


 そう言って、顔を上げたクレアが俺を真っ直ぐ見つめながら、俺の手を両手で包み込む。

 少しひんやりする夜の空気に冷たくなった手が、クレアの手で温められる。

 クレアの手は、暖かいなぁ。


「触れ合う事だってできます。だから心配する事ができますし、それは嬉しい事でもあるんです。もちろん、危ない事は出来ればして欲しくありませんけど……」

「えっと、つまりクレアは心配する事も嬉しい事だから、気に病むな……と?」

「そうですね、あまりまとまっていなくてすみません。ですがそういう事なんだと思います。心配される側が、気にしすぎる必要はないのではないかって、私は思うんです。だからって、全然、一切気にせず危ない事ばかりしてやきもきさせられるのは、困りますけど」


 苦笑、ではなく優しく微笑むクレアの顔は、月明かりに照らされてとても綺麗だと思った。

 月並みな感想しか出ないけど、こうして元気づけてくれるクレアは、本当に俺に必要な人なんだ、お互いの好意はもちろんながら、欠けてはいけない半身のようにすら感じる。

 クレアにとってみれば、迷惑な話かもしれないけど。

 いや、クレアはこの考えを伝えても迷惑がったりはしないか……何せ、心配する事が嬉しいとまで言い切る女性なんだから。


「……すぐに、とは言えないけどそうだね。うん、心配かける事が全て悪い事じゃない、と思えるようになれそうだよ。あ……そういえば……」

「タクミさん?」


 心の中から湧き上がる気持ちと共に、クレアに笑いかけると、ふと思い出した事があった。

 脳裏に浮かぶのは、昔の光景……あれは確か、俺がまだ伯父さん達に引き取られてそんなに経っていない頃の事だったはず。


「……昔ね、それこそレオと出会うよりもずっと前。まだ俺が、ティルラちゃんより少し小さかったくらいの頃かな。その時に言われた言葉があったんだ」

「それは、タクミさんを引き取ったという、伯父様達からですか?」

「うん。その、伯父さん達はね……俺が転んで怪我をして、それを随分心配してくれたんだ。それでね……」


 小さい男の子なら、よくある事。

 誰でも一度くらいはやった事があるだろう、転んでただ膝を擦りむいたくらいの大きいとは言えない怪我だ。

 でもその時伯父さん達は、俺の事を凄く心配してくれて、そりゃ俺も痛くて泣いていたからってのはあるんだろうけど、そうやって心配してくれた伯父さん達に、申し訳ない気持ちもあってずっと泣き止むことができなかったんだ。

 今考えると、なんであれだけ悲しかったのかは、俺の事を受け入れてくれた伯父さん達をわかっていて、だからこそそんな伯父さん達に心配をかけたのが、申し訳ないって思ったからだったとわかるけど。


 でも実際に怪我をした時には、自分でも何で泣き続けているのかもよくわからなくなっていた。

 そんな時、多分というかほぼ間違いなく、俺の気持ちを感じ取ったんだろう……今でもよく覚えているけど、俺が何度もごめんなさいって言いながら泣いていたからだろうけど。

 そうして、少し困った顔をしながらだけど、伯父さんが言ってくれたのが「心配させてくれて、ありがとうな」という言葉だった。

 一緒にいた伯母さんは、優しく笑って頷いていたっけな。


 ……そんな話を、静かに聞いてくれるクレアとレオにしていく。

 当然、レオを拾う前なのでこの話をレオは知らないしな。


「タクミさんは、愛の深い方々に育てられたのですね。話を聞いているだけで、タクミさんが愛されて育ったんだと、なんとなく伝わってきます」

「そ、そうかな……?」


 クレアに言われて、照れてしまって視線を逸らし、頬を人差し指でかく。

 反抗期とかじゃないけど、なんとなく親代わりというか親に相当する人の事などから、愛されているとか言われると恥ずかしいとか照れるとか色々湧きたってしまうよな、うん。

 女性はわからないけど、男性ならこんな気持ちに一度くらいはなった事がある人が多いはずだ……多分。


「えぇ、本当に素敵な方々なのですね」

「ははは、まぁそれはクレアも一緒だけどね。クレアを育てた、エッケンハルトさんやエルケリッヒさん達。それから使用人の皆さん達も、かな」


 エッケンハルトさん達、公爵家の人達がクレアの事を愛しているのは疑いようがない。

 ティルラちゃんも同じくだけど。

 本当に、俺はこの世界に来て素晴らしく、優しくていい人達と出会えたと思う。

 もしかしたら、ギフトの事やレオの事よりも、クレア達と出会えた事が一番良かったと言えるかもしれない――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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