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弱い部分をクレアにさらけ出すように話しました



 夜の闇に静まり返ったフェンリル厩舎で、高い位置にある窓から差し込む月明かりに照らされ、フェンリル達の寝息の合唱を聞きながら、俺自身のこれまでの事、考えている事ややって来た事などを、ゆっくりとクレアに話していく。

 寄りかかっているレオも、静かに聞いてくれている感じがして、話す俺の気持ちを推してくれている気がする。


「親孝行というか伯父孝行? とにかく、伯父さん達に恩を返すために、独り立ちしようと頑張って頑張って……レオのおかげで、くじけずに何とかやってこれたんだけど。それでもまだまだ返せない恩に焦ってもいたんだ。けど、現実はずっとできない事ばかりでさ。働き始めて、確かに経済的には独り立ちできるようになったんだけど……恩を返すまではできずにいたんだ。仕事でも、中々結果を出せなくて」


 まぁ、この世界に来て冷静に、それと客観的に考えると、あの環境というか会社で結果を出すのは不可能と思えるくらいで、俺が思いつめる必要はないんだけど。

 でも必死だったあの時の俺には、とにかく働けて、働いて頑張るしか手段がなかったから。

 それで視野狭窄じゃないけど、他の方法を考えるなんてできなかったんだろう……自分の働いている会社が、ブラックと呼ばれる環境だというくらいはわかったとしてもだ。

 人間、焦りがあって追い詰められてもいたら、傍から見て不思議に思う程ちゃんとした考えができなかったりする。


「それで、ずっと自分なんてという考えに囚われてしまったんだと思う。自信なんて持てなくて、自己を肯定できなくて……」


 むしろ、会社では否定されるばかりだったからな。

 肯定とは違うが、ちょっと話せるのは同じ境遇の同僚とか後輩の一部だった。

 まぁその人達も、入社一か月程度で大半がいなくなったんだけど……理由はまぁ様々だ。


「だから、ずっとずっと自信がなくて、本当にいいのか? とか、俺なんかって思いが付きまとってしまうんだ」


 自信のない俺でも、勇気を出したと自分を褒めたい事はこれまでにそう多くない。

 今考えると、褒められた事とは思えないけど……高校に入って一人暮らしを始めた事とか。

 伯父さん達ずっと心配してくれていたもんな。

 他には、雨の中必死に命を繋ごうと鳴いているレオを見つけて保護した事か。


 あ、クレアに告白したのも、なけなしの勇気を振り絞った事かもしれない……いや、あれはクレアの気持ちをある程度知っていたから、反則か。

 とにかく、それくらいしか思いつかない程、自分から何かをしたい、勇気を振り絞る、というのができない人間だったわけだ。


「だから受動的というかさ、人に言われるがままに行動する事が多くて……」

 

 会社で否定され続けて、肯定されないという状況だけでなく、そんな俺自身の性格もあるのに自信を持つ事なんてできないよな。

 なんて、情けなくて自分で泣きたくなる気持ちを抑えながら、何度も頷きながら静かに聞いてくれるクレアに、自分の事をできるだけ話した。

 自分の内面を自分で見ているようで、これまで話していなかったというか、クレアに言われるまでちゃんとわかっていなかった部分もあって、ちょっとどころではなくかなり恥ずかしい。

 けど、クレアもレオも特に何も言わずに最後まで聞いてくれたおかげで、話しを逸らしたり誤魔化したりする事なく全部話す事ができた。


 こういうのって、本来は男の俺が女性から相談されたり聞き役に回ったりする事が多いのに……情けないな、俺。

 って、こう考えるからいけないのか。


「そうですか……」


 俺が全てを話し終わった後、静かに言葉を発するクレア。

 こちらを見る目は同情? こんな話をされたら、そう見られるのも無理はないと思うが……いや違う。

 全く同情がないわけじゃないのかもしれないが、とにかくクレアの目はそうではなく、優しい光を湛えていた。


「ずっと、ずっと一人で悩んで、一人で苦しんでいたんですね。それも、誰かに心配かける事を恐れて」

「……そう、なのかも」


 心配させるという事は、相手に心労を与える事とイコールだと思う。

 両親がいた頃はもうよく覚えていないので、自分がどうだったかわからないけど、引き取られた後伯父さん達はずっと、それも深く俺の事を心配してくれた。

 だからこそ、心配をかけないようにと思い始めるのも当然だったのかもしれない。


「でもいいんですよ、心配をかけても。もちろん、誰彼構わずというのはどうかと思いますが……最低でも、私にだけは心配をかけていいんです。いえ、心配させて下さい。そうしてもいいんだと、思っていいんです。考えていいんです。心配する事は悪い事じゃないのですから」

「心配は、悪い事じゃない?」


 何かやった時、何もやらない時も、心配をかけてしまって悪いなぁって、申し訳ないなぁって思う事が大半だった。

 いや、誰かに心配させて平気な人なんて、あまりいないと思うけど。

 でもそれが悪い事じゃないって、どういう事だろう?


「先程、ユート様の話で途切れてしまいましたけど……心配できるのは嬉しい事でもあるんです。当然ですけど、悲しくて、切なくもあるんですけどね、ふふ」


 そう言って、お茶目に笑うクレア。

 悲しくて、切ない……けどどうして嬉しいと言って、そうやって笑っていられるんだろう?


「おそらくタクミさんは、心配させてしまう自分が駄目で、だから自信が持てない……と考えているんだと思います」

「まぁ、それもあると思うし、大きな理由だと思う」


 大事な人を安心させてあげられない自分なんて、と思う事もあるから。

 だからこそ、心配をかけない自分になろうと、でもできなくてどんどん自信がなくなっていく……駄目な自分の負のスパイラルとでも言うべきか。


「心配、と言うとイメージとしてはあまり良くないのは当然なのですけど、それでも、心配できることが嬉しいと思う事もあるんですよ?」

「心配できる事が嬉しい……?」


 ユートさんならともかく、そんな感覚や考え方は今までなかった。

 というか、心配というのは往々にしてしない方がいい事だと考えていたから、喜ぶなんて……。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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