フェンリル厩舎で語り合いを始めました
「いつもシェリーと一緒ですから、気になりませんよ。それに、私だって何かしたかったですし、なんとなくタクミさんを見ていないといけないと思って……と、とにかく、忘れないようにロゼ・ワインを」
「そ、そうだね。ありがとう……んく」
クレアがロゼ・ワインを注いでくれたグラスを受けとり、一口飲む。
こうして定期的にお酒を飲む事で、体から力が抜けたり、意識がなくなってしまったりするのを防いでいるわけだ。
ロゼ・ワインは、ライラさんが持ってきてくれた小樽の物が残っていて、それをグラスと一緒に近くに置いていつでも飲めるようにしてある。
ついでに、レオに寄りかかっていても手を伸ばせばグラスを取れるような高さのテーブルも一緒に。
「ん、ふぅ……俺、そんなに放っておけないように見えるかな?」
再びロゼ・ワインを飲んで息を吐き、気になっていた事をクレアに聞く。
頼りない、とか思われていたらショックだけど……仕方ないかなとも思っている。
「そうですね……タクミさんはなんというか、自分の事をおろそかにしているように見えるんです。今回もですけれど、他の事でも……タクミさんは自分よりも他の誰かを優先してますよね?」
「えーっと、そんなつもりはない、とは言えないかな? でも、おろそかにしているまでは……」
いやでも、以前ライラさんに指摘されるまで、自分が微熱を出しているなんて気づかなかったりもしたからなぁ。
クレアから言われた事を否定できる材料はなかった。
「ランジ村が、オークに襲われた時もです。私はレオ様の後から駆け付けたのでほとんど見ていませんが、話を聞けばタクミさんが率先して立ち向かったと。村の者達を守るために。それ自体は尊く素晴らしい事だとは思うのですが……本来ならレオ様がいなかったので、タクミさんは率先して逃げるべき立場でもあったのに、と」
「うん、まぁ……あの時の事は必死で、後から考えてもなんで立ち向かえたのか自分でもわからないくらいなんだけどね」
以前エッケンハルトさんと森へ行き、オークと戦ったりもしたから、今ならある程度心構えもあって立ち向かえるかもしれないし、もっとうまく立ち回れたかもしれないけど。
でもあの時はまだ、剣の訓練も始めたばかりで今もそうだけど未熟で……改めて考えると、村の人達のためとはいえ、よくあの時立ち向かえたなと自分でも本気で思う。
「だからきっと、タクミさんは誰かが見ていないといけないのかも、と私は考えるんです。それが、私だったら、私が見ていてもいいのなら……こう言うのはなんですけど、嬉しいなって」
「……そうなんだ」
もっと気の利いた返しが思いつかなかったのか、と一瞬だけ自己嫌悪してしまいそうになるくらい、平凡な返事が出てしまった。
だってそれは、クレアが俺の事を見てくれるという事だから。
「タクミさんは、もう少し自分を優先してもいいと思うんです。あと、自信を持って下さい。今回だって、タクミさんのおかげでこうして、フェンリル達も長く苦しんでしまう事を免れたんですから」
「でもそれは、ギフトのおかげだから……」
ギフト頼りだからこそ、自分でやった事ではあっても自分の手柄のようには、あまり思えないのかもしれない。
この世界に来て授かった能力で、生来のものや努力して身に着けたものじゃないから、自信と言われてもなぁ。
ある程度受け入れているし、助かっている部分ばかりだけど、まだ少しだけ自分の力ではないという感覚があったりする。
「そのギフトも、タクミさんの事です。他にタクミさんとは別の人がどれだけのギフトを持っていても、フェンリル達は助けられませんでした。ユート様も、ティルラもです」
「それは、まぁ……」
ギフトそのものが、どうやら同じ時に同じ能力を持っている事はないようだから、『雑草栽培』でゼンマイを作れたのは俺だからと言えるのかもしれない。
他に助ける方法がなかった、というわけじゃないけど。
「他に、フェンリル達を助ける方法があって、それを持った人もいるかも? なんて考えていませんか?」
「……」
こちらをジッと見るクレアに、心の中を覗き込まれた気分になって黙り込む。
クレアに心を読む力が!? ってそんなわけないか……ただ単に、俺がわかりやすいだけだろう。
セバスチャンさんとかにもよく、考えていることを見抜かれるし。
俺の事を見ていたいと言ってくれたクレアには、尚更わかりやすいのかもしれない、本質を見抜く特別な目の事もあるし。
「……なんというかさ、ちょっと、話してもいいかな? いや、俺が話したいだけかもしれないけど」
「タクミさんの話でしたら、どんな事でも!」
「ははは、フェンリル達が休んでいるから、もう少し声を抑えてね」
「あ、はい……すみません」
「謝るのはこちらの方だよ。クレアがそこまで俺を見てくれていて、わかってくれたから……」
俺自身唐突にとは思うが、自分の事を知っていて欲しいと思う心、それが溢れて話してみたくなった。
まぁ自分語りと言う程ではないけど、多分俺が自信を持てなくなっている理由について。
以前話したトラウマとも多少関係している事だけど……。
話したくなったのはもしかしたら、夜の魔力というものかもしれない。
そういう時に、暗くてお互いの顔がはっきり見えないからこそ、何か話したくなる気持ちとかそういうのだ、と思う事にしよう。
じゃないと恥ずかしいし。
「ここに来る前の話は、それなりにしてきたと思うけど」
「えぇ。レオ様と出会った事や、両親の事、お世話になった人達の事とか……皆の前に立つのが怖いって事もですね」
「怖いか……まぁそうだね。だからトラウマって言うのかな。それで、ずっと考えていた事とか、感じていた事があって。それはさ、両親がいなくなってから伯父さん達に引き取られて、心配かけて、それでも上手く甘えられない自分がいてさ。でも、なんとか自立して、一人で迷惑をかけないようにって思っていたんだ」
伯父さん達は、俺の事を本当の息子みたいに可愛がってくれたし、言葉にもしてくれた。
絶対に、誰に何を言われても伯父さん達が俺にとって第二の両親、育ての親である事、素晴らしい人達である事は否定しないしさせない。
それは強く思っているし、俺の人生の指標にもなっていて、だからこそレオを拾った時やリーザを保護してからの、俺の行動にも繋がるんだけど――。
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