フェンリル達が元気になるまで見守る事にしました
俺とクレア、レオがフェンリル厩舎に来る前、フェンリル達にゼンマイを飲ませ、ロゼ・ワインを飲んでからだが。
入れ代わり立ち代わり色んな人やフェリーたちフェンリルが、俺の様子を見に来たりとあった。
ティルラちゃんとリーザに、どうしてお酒を飲んでいるの? と別の心配をされた時は見せてはいけない姿を見せてしまったと、かなり精神的にきつかったりもしたけど。
リーザも一緒にいたがったけど、ライラさんに任せた……お酒を飲み続けているというのもあるが、まだ幼いリーザにカナンビスとできる限り関わらせたくないと考えたからだ。
もう関わってしまっているというか、物理的に距離を離す意味はあまりないというのは気にしない。
多分、以前森の中でリーザが気持ち悪いと言い出したのは、関わってしまっているんだろうな……レオも悪い意味で凄く嫌な臭いとも言っていたし。
あと俺やレオと離れて寝るという挑戦も、そろそろして欲しいという親心だったりもする。
ちなみに、こうしてフェンリル厩舎にいるのは、俺が屋敷に戻ると距離が離れ過ぎるため、流れているギフトの力がどうなるかわからない、というユートさんによる助言のため。
せっかく乱れた魔力が整いかけているのに、距離を離して台無しになったら意味がないからな。
「……フェンリル達って、普段はあぁやって寝ているんですね」
クレアが、厩舎の小部屋の一つというかフェンリルが三体程固まって寝ている姿を見て、そう呟く。
今俺達は家でいうところの廊下、フェンリル厩舎でフェンリル達の寝床になっている各部屋のような仕切りの間で、レオに寄りかかって過ごしている。
もちろん、厩舎全体の床が固めた土なのでその上でというのは冷えてしまうため、そこに藁を敷いて上に厚めの布を敷いているけど。
「今日はちょっと特別だと思うよ? いつもは、それぞれに別れているってフェリーが言っていたから」
「そうなんですね」
「ワフ」
各小部屋というか、俺達から見える場所にはカナンビスの影響を受けて、体調の悪いフェンリル達が別れており、さらに元気なフェンリル達が心配して一緒に過ごしていた。
数体が体を寄せ合っている姿は、巨大な毛玉に見えなくもない。
今日だけ、というかフェンリル達の体調が良くなるまでの事らしいが、この光景を見ると本当にフェンリル達が獰猛だと思われているというのが信じられない。
実際に獲物を前にした時はともかく、平常時はのほほんとのんびりしていて全然獰猛じゃないのは、一緒にいればわかる事なんだけど。
「ガゥ……ガウゥ」
「おっと。ちょっと行ってくるよクレア、レオ」
「ワッフ」
「私も行きます、タクミさん」
「そう? じゃあ一緒に行こうか」
俺達から斜め左にある小部屋から、フェンリルの苦しそうな鳴き声が聞こえて来たので、毛布から出て立ち上がる。
レオは動かないつもりみたいだけど、クレアは俺と一緒に立ち上がって付いてくるようだ。
「よしよし……大丈夫か、と聞くのはいけないな。もうしばらくの我慢だからな?」
「もう少し、もう少しの辛抱ですよ」
「ガウゥ……」
クレアと二人、寄り添っていた他のフェンリルの合間に入り込んで、苦しそうな様子のフェンリルを撫でる。
ギフト関係の他にも俺がこうしてフェンリル厩舎に泊まり込む構えなのは、撫でられると少しだけ楽になるらしく、時折苦しそうな様子を見せるフェンリル達を撫でる必要があったからだ。
心配だったからというのも当然あるけど。
こうする前に、セバスチャンやユートさんの推測では、ギフトの力を使った薬……ゼンマイを飲んでそこに力が流れている関係で、俺が直接触れると効果が強くなるのではないか、という事みたいだ。
魔力球に夢中だったフェヤリネッテも、俺が触れると少しだけ魔力の乱れが収まると言っていたから、おそらく推測は間違っていないのだろう。
ともあれそうして、もういつもならとっくに寝ている時間にも関わらず、俺は時折フェンリル達を撫でている。
レオに寄りかかって休んでいると、フェンリルの方から来る事もあるけど。
ちなみに、フェンリルの方から撫でてとお願いするように俺の所に来る事もあったり、元気なフェンリルが少し羨ましそうにしていたりもした。
……元気なフェンリル達は、また今度撫でる機会を持とうと思う。
マリエッタさんがフェンリルに慣れるためのイベント的なのもまだだし、その時でいいかな。
「やっぱり、タクミさんが撫でるのは特別なのかもしれませんね。今回だけじゃなく、フェンリル達はタクミさんに撫でられるのが好きみたいです」
「特別な事はしていないんだけど……そうなのかなぁ?」
「ワフワフ」
楽になったのか、また静かに寝息を立て始めたフェンリルから離れ、レオの許に戻って毛布に包まりながら、クレアにそう言われる。
単純に、気持ち良くなるようにくらいの考えで撫でているだけなんだけど、レオも同意するように頷いているし、本当に何かあるのかもしれない。
いや、これ以上……というかギフト以外に何か、撫でる事で発揮する力なんてあるのかわからないし、増えてもなぁ。
フェンリル達に喜ばれて、懐かれるのは悪い事じゃないし俺も嬉しいけど。
「というか、クレアは本当にここで過ごす事にして良かったの? ほら、少し臭いとかもあるし……」
臭いに関しては、もっと獣臭くなっているかな? と思ったけどフェンリル厩舎を作ったばかりだからなのか、ほんの少し鼻を刺激する程度で済んでいる。
人だけでなく、生き物が生きるうえで臭いが発生してしまうのは仕方ない事だからな。
それが、普段いい匂いをまとわせているクレアには、少し酷かなと思う。
俺はレオで慣れているからいいけど……シルバーフェンリルのではなく、マルチーズだった頃からな。
しばらくお風呂で洗っていない時、散歩中に雨に降られた時とか特に臭うからなぁ。
……この辺りは、犬を飼った事のある人なら大体わかってくれると思う。
濡れなくても、臭う時はあるし。
そういった臭いを嫌う人っていうのは結構いるし、それがつまり悪い事というわけではないけど――。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。