お酒の力で回復が見込めました
ロゼ・ワインを飲んで回復したと思われる、ギフトの力を考えるにどうやら、頭の中にあったアルコールを分解とか体内を通ってとかは、関係ないみたいだ。
とにかくアルコールを摂取すれば、すぐにそれがギフトの力などに変換されるらしい……アルコールがその物になってくれるのなら、そりゃ酔わないのも当然だろうなぁ。
分解前のアルコールが、体内を巡る暇がないんだから。
胃くらいは通っているだろうけど、これだけの即効性があるなら血液に混じる猶予すらない。
「まぁ、すぐに抜けていく感覚もあるから、いい状態とは言えないけど……」
とはいえ、今飲んだ量では大した力の回復にはならないのか、すぐにまた力が抜けていく感覚が復活した。
複数のフェンリル達の体内で、ゼンマイによる効果がギフトの力によってもたらされていて、消費し続けているからだろう。
「で、でしたらもっと飲まないと……! ライラ、ゲルダ、残っているグラスにお酒を注いで!」
「か、畏まりました」
「は、はい!」
クレアに指示されて、持ってきていたグラスの残り二つへとロゼ・ワインを注ぐ二人。
ただ、ライラさんもゲルダさんも事情がよくわかっていないので、不思議そうだ。
……お酒を飲んで体が元気になるとか、クレアがそんなに焦って心配そうにしている理由とか、何もわからないから当然だろうな。
「今度は、一気に……んぐ! んぐ! んぐっ!」
ゆっくり飲むのではなく、急いで飲むと違いが出るのかという興味と、体から力が抜けていく感覚を解消するため、グラスになみなみと注がれていたロゼ・ワインを一気に飲み干す。
すぐに、クレアによって空になったグラスが回収され、別のなみなみとロゼ・ワインが注がれたグラスが渡される。
……わんこそばならぬ、わんこ酒かな? わんこと言っても、レオとかは関係ないぞ、なんて関係ない事を考えつつ、とりあえず自分の内面に意識を向けて体の調子を確かめる。
「うん、飲む量が多ければ多いほどいいみたいだ。飲む勢いは問題なさそうかな」
一気にアルコールを体内に流し込んだわけだけど、それは全てギフトの力に変換されたらしく、体に力が戻って来る感覚が強くなっただけだ。
入ってくれば入って来ただけ、すぐに変換されるで間違いないみたいだ。
「ワフゥ」
俺が寄りかかっているレオも、大丈夫だろうとわかってホッとした鳴き声を上げた。
心配かけてごめんな……あと、ありがとう。
「良かったです……では、もっと……」
「いやいや、ちょっと待ってクレア。心配してくれるのは嬉しいし、だからこそ焦っているのかもしれないけど……さすがにそんなに一気に飲めないって!」
「あ、そ、そうですね……すみません」
「謝る必要はないよ。それだけ、俺の心配してくれたって事だからね。ありがとう」
「はい……」
頷いて俯き、少し頬を赤くするクレア……照れたのかな?
ともあれ、お酒が本当にギフトの力を回復させてくれるのがはっきりしたとしても、水分である事は変わらない。
アルコールがそのまま肝臓で分解する必要があるのなら、まぁ逆に脱水症状になったりもするかもしれないが……そのアルコールはすぐにギフトの力に変換されるからな。
残ったロゼ・ワインは、体内でもはやただの水分になっているわけで。
そんなに大量に水分を流し込んでも、胃やらなにやらがいっぱいになるだけだ……お腹もタプタプになるし。
下手をすると、お腹を壊してしまいかねないからな……綺麗な話じゃないが、トイレが近くなったりとか。
さすがに、俺が一人でガブガブと飲むつもりがないとわかったからだろう、ライラさんが小樽を地面に置いて一息吐いていた。
樽もそうだけど液体も重いからな、ありがとうございます。
「そういえば、こんな天気のいい空の下で……というかまだ明るいうちに、流し込むようにお酒を飲むっていうのは、なんというか駄目な人みたいだなぁ」
もうせかされる事はないだろうけど、とりあえず話を変えてみる。
というか、気になっていた事だな。
お昼からお酒って、なんというか駄目な大人の代名詞みたいなイメージがある。
もちろん、時間などは関係なく飲まないといけない時があるかもしれないし、本当に駄目な大人だけじゃないっていうのもわかっているけど。
「ふふふ、確かにそうですね。街などでは、昼間から酒場に入り浸る者もいるようです。けど、外で飲む、明るいからこそ飲むという事もあるのですよ?」
「そうなんだ?」
「はい。お祝い事ですとか、機会は色々と……それに村などでは外で皆で飲む、というのが習わしになっている所もあるのです。他にも、貴族の多くは外で……」
等々、照れ隠しじゃないだろうけど、色々と教えてくれるクレア。
ロゼ・ワインを飲む事で、俺が意識を失わずに済むと確信できて安心したのもあるかもしれない。
とりあえず、外で明るいうちからお酒を飲むのがおかしい事という認識は、あまりないというのがわかって少しほっとした。
ただ、大体は大勢で飲む事が多いらしいのに、俺は一人で飲んでいるからそれはそれでちょっとおかしな目で見られないかなぁという心配が浮上したけども。
それからしばらく、クレアやライラさん達と談笑しながら、時折ロゼ・ワインを飲んで回復を促しながら過ごした。
俺がお酒を飲む理由に関して、ライラさん達は疑問に思っただろうけど……今はとりあえずクレアと誤魔化しておく。
ギフトに関する事は、ライラさん達に内緒にしているわけじゃないから、いずれ話そうと思うけど。
その時は、ユートさんの話はしないように気を付けて、そういうものだとして多少強引になりつつも、研究したからとかそんな感じで押し通そうと思った――。
「寒くない、クレア?」
「大丈夫です。レオ様もいて下さいますし、こうしていると暖かいですから」
「そ、そう」
「ワッフ」
夜、カナンビスの影響を受けてしまったフェンリル達の様子を見るため、フェンリル厩舎で夜を明かす事になった状況の中で、横にいるクレアを気遣う。
クレアは俺と身を寄せ合い、レオに背中を預けて毛布を掛けているから、大丈夫なようだ。
特にクレアとしては、俺と身を寄せ合っているのが大きいのか、答えながらさらに体を寄せてきたのでちょっと照れてしまう。
これまで散々人前でも抱き合ってきたのに何を今更と思うが、一つの毛布に包まっている、夜である、俺達以外に人はいないという状況も手伝っての事だろう。
まぁ、レオだけでなくフェンリル達もいるから変な事を考えたりしたりはできないし、するつもりはないが――。
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