お酒を持ってきてもらいました
「妖精の好物、魔力球をね求められてるって事だよ、タクミ君。……んっ……ふぬぬぬ……! っとぉ!」
何やら、両手をパンッと音を立てて重ね合わせた後、気合の声と共に少しずつ離していく。
ユートさん自身の肩幅くらいに両手が離れたところで、さらに気合の声を発した瞬間、ポンッ! と少し気の抜けた音がしたかと思ったら、どす黒い例の魔力球が発生していた。
「出た出た、出たのよう!」
「魔力球って、そうやって出すんだ……」
「私も、初めて見ました」
喜んでその魔力球に飛びつくフェヤリネッテ。
俺とクレアは、魔力球を出す場面を初めてみて、感心というか驚くばかりだ。
「はぁ……ふぅ……やっぱり疲れるから、何度も出すのは勘弁してほしいところだね。うん、僕も後でお酒を飲んでおかないと」
「そういえば、ユートさんの魔力はギフトとも繋がりがあるんだったっけ」
ユートさん自身の魔力がどれくらいなのかはわからないけど、尋常じゃない魔力の塊らしい魔力球を出すには、ギフトの力も借りなきゃいけないんだろう。
『魔導制御』というギフトには、魔力無限という副効果があるから……でも結局過剰使用したら、俺と同じように倒れるみたいだから、本当の意味では無限じゃないみたいだが。
「そういう事。それじゃ、今度こそ僕は行くよ」
「うん、色々と助言してくれて助かったよ」
「ありがとうございます、ユート様」
「ガジガジ……美味なのよう」
手をフリフリとしながら、魔力球を出して本当に疲れたんだろう、少し重そうに足を動かしながら歩いて行くユートさんにお礼を言って見送る。
フェヤリネッテも、どす黒くて見た目としては絶対に食欲がわかない魔力球を、嬉しそうに齧りながら、ユートさんの後をフワフワと付いて行った……なくなったら、また要求するつもりなのだろうか?
というか、あの魔力球を喜んで齧る妖精の感性がよくわからない。
人間には理解できない良さとか、美味しさがあるのかもしれないが。
「……お待たせいたしました、旦那様」
「お待たせいたしました。――フェヤリネッテがいませんね?」
「あぁ、フェヤリネッテはユートさんに付いて行きましたよ、ゲルダさん。すっかり餌付けされてますねあれは」
「ふふ、フェヤリネッテが楽しそうなので私も見ていて嬉しいです。離れているのは、なんとなく寂しいですが」
「ゲルダは、知らないながらもずっとフェヤリネッテと一緒にいたんだものね」
少しだけクレアと話していると、ライラさんがお酒が入っているであろう小樽を抱えて、その後ろからゲルダさんがシルバートレイにグラスを三つ載せてきた。
ゲルダさんはここにフェヤリネッテがいると思ったみたいだけど、ついさっきユートさんの魔力球に釣られて一緒に離れて行ったからなぁ。
まぁ寂しく思うのは、クレアが言う通りこれまでずっと一緒にいたから、そうなってしまうのかもしれない。
従魔契約とは違う、妖精独自? の契約をしているから、何かしらの繋がりがあるのかもしれないが。
「ユート様もいらっしゃらないのですね。では、このお酒は……クレア様と?」
「私ではなく、タクミさんだけが飲むのよライラ。さすがに、私は今飲めないわ……」
「今の状況でクレアが酔ったら大変だからね」
「もう、タクミさん!」
クレアがお酒を飲んで酔ってしまったら、大変な事になるのでさすがにな。
多少なら大丈夫だけど、最近は薬酒にした物以外は飲まないようにしているようだ。
「畏まりました。では……」
少しだけホッとしている様子で頷いたライラさんは、クレアが酔った時の事を思い出しているのだろうか?
とにかく、小樽からゆっくりとゲルダさんの持っているグラスの一つにお酒を注いだ。
「その色は、ロゼ・ワインですか」
グラスに注がれるお酒は、降り注ぐ陽の光で輝くような透明感のあるピンク色が眩しい。
ラモギを混ぜる事によって色合いが変わり、新しくランジ村の収入源となるべく出荷する予定のロゼ・ワインだ。
ただ、ちょっとなみなみと注ぎ過ぎじゃないですかライラさん? お酒を多く持ってきてと言ったのは俺だし、だから多めに注いでいるんだろうけど。
「はい。旦那様が作られたラモギを使って、ランジ村での製造が進んでおります。これは、村の方達からの献上品、という事になるでしょうか」
「献上品って、俺はそんなに偉くないですけど……まぁ、共同制作で村の厚意として受け取っておきます」
確か、いくつか確認した書類の中で、村からお酒が贈られた事やラモギを村のワインに混ぜる作業が進んでいるとあった。
村の方は村の方で、順調に新しいワイン……ロゼ・ワインの準備ができてきているみたいだ。
まぁラモギを混ぜて少し漬け込むだけなので、あまり手間はかからないからな。
既に作られたワインがあれば、数日かかるかどうかくらいだし。
「どうぞ、旦那様」
「ありがとうございます。ん……」
ゲルダさんからロゼ・ワインの入ったグラスを受け取り、お礼を言いながら飲む。
お酒で回復するとは言っても、どれだけの量を飲めばいいのかわからないので、ゆっくりと喉の奥へと流し込むくらいで一気飲みなどはしない。
ともあれやっぱり、ランジ村のワインは美味しいな……かなり甘くて飲みやすいし。
酔わないしお酒には詳しくないので、アルコール度数がどれだけあるのかわからないけど、高いらしいというのはほかに飲んだ人達の様子を見てわかっているくらいか。
「ど、どうですか、タクミさん?」
「ははは、さすがにそんなにすぐ効果は出ないと思うよ」
俺がロゼ・ワインを飲んだのを見て、すぐに聞いて来るクレアに苦笑する。
それだけ心配してくれているんだろうけど、さすがに一瞬でギフトの力が回復するような事はないだろうと思う。
アルコールが変換されるとしても、喉を通って胃を通過し、その後分解されて……と順序を追わないと、なんて考えていたら……。
「……少しだけ、良くなった? うん、抜けていた力が戻っている感じ。こんなに早く効果が出るものなんだ」
グラスを持っている手とは逆の空いている方の手を、握ったり開いたりして確かめつつ、呟く。
さっきまでは、そろそろ手を握る動作すら億劫になるくらい力が抜け始めていたのに、今は力いっぱい握れるようになっている。
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