ギフト消費の影響が出ているみたいでした
「こんな時に、しかもまだお昼過ぎなのにお酒を飲むのは、自分でもどうかと思いますが……今必要なんです」
「……畏まりました。ただいまお持ちいたします」
「すみませんが、お願いします」
お酒でギフトの力を回復させるなんて話しても、信じてもらえるか微妙だったし、できるだけ早く用意して欲しかったので、結構強引に誤魔化す事にしてお願いした。
そもそも、説明するにしてもどうしてそんな事を俺が知っているのか、とかをユートさんの話抜きで伝える方法がわからなかったからな。
言い訳が思いつかなかったとも言う。
……ギフトの力が消費されているから、頭が回っていないという事にしておこう。
「ふぅ……」
「ワウゥ?」
「うん、ありがとうレオ。ちょっと、寄りかからせてもらうよ」
「ワッフ」
息を吐く俺の後ろで伏せをしたレオに、感謝して寄りかからせてもらう事にした。
座って背中を預けると、レオの毛に優しく受け止められて楽になる感覚。
ギフトの事だけじゃなく、執務室でカナンビスの話を聞いてからずっと緊張状態だったから、それがほぐれてくれているのかもしれない。
やっぱりレオは、頼りになるし安らぎを与えてくれるなぁ。
「……本当に大丈夫ですか、タクミさん?」
ふと、影が差したと思ったら、クレアがかがんで俺の顔を覗き込むようにしていた……どうやら、ユートさんとの話は終わったらしい。
表情から、俺の心配をしてくれているのがよくわかる。
「あぁ、クレア。うん、なんとかね。ギフトのというより、疲れに近いのかな。なんとかなってホッとしたから一気に来たみたい」
「そうですよね……タクミさん、この短い間ですけど頑張っていましたから。フェンリル達の様子を見る真剣な様子も、すごく頼りになりました」
「うんうん、タクミ君は凄く頑張ってたよねぇ。僕やフェヤリネッテみたいに、魔力を視たわけではないのに、フェンリル達の様子をある程度わかっていたみたいだし。カナンビスが原因ってのは別としても」
「まぁ、レオと暮らしていた経験かな。とはいえさすがに医者じゃないから全部わかるわけじゃないし……条件付きだけど意思疎通がはっきりできるおかげでもあるかな」
レオとの事があったから、吐瀉物を見てある程度どんな状態か察する事ができたし、リーザやレオを介しての意思疎通ができるから、フェンリル達の調子が悪いとわかった。
さすがに獣医でもなんでもない俺が、初めての事で意思疎通もできなければいつまでもわからなかっただろうし。
「その経験も、タクミさんだからこそですね」
「そうなのかもね。ふぅ……んー、レオに寄りかかっていると少し楽にはなるけど、やっぱり段々と体から力が抜けていく感じがするなぁ。あ、ごめん。クレアには心配ばかりかけてしまうから、言わない方が良かった」
「いえ、そんな事は! 心配しかできない自分が不甲斐ないですが、できるのなら心配くらいはさせて下さい!」
「え、でも……」
「ふぅむ……ちょっといいかなタクミ君?」
「あ、うん」
クレアと話している俺に割り込むように、ユートさんが俺の額に手を当てた。
熱を測るような感じだけど、何かこれでわかる事があるんだろうか?
「……成る程。体の力が抜けるって感じるのは、やっぱりギフトの力を消費しているからだね。自覚も少しはあるんじゃない?」
「なんとなく、そろそろ危険だなぁっていう感覚は確かにある。徐々に、その危険な部分に足を踏み入れているような感じも。でも、ギフトの過剰使用って突然意識を失って倒れるんじゃない? 以前はそうだったし、今はどちらかというと緊張状態からの解放で、気が抜けたと思っていたんだけど」
「ほとんどは、今タクミ君が言ったようになるんだけどね。でも、状況によって表面……体に出る反応が違う時があるんだ。今回の場合、タクミ君が言っているように気が抜けたのと、複数の箇所で力を流して消費しているからってところかな?」
複数のフェンリルに対し、同時にゼンマイを飲ませて力を注いでいる状態だからって事か。
突然意識を失うよりは、わかりやすくていいのかもしれない。
「じゃ、じゃあ早くお酒を飲まないと……!」
「あぁ、それはライラさんにもう頼んだから、直に来ると思う。感覚的にだけど、今すぐ意識を失うって程じゃないから安心してクレア」
「は、はい。わかりました……」
ユートさんの話に焦ったクレアを落ち着かせると、俺の横に座り込んで手を添えてくれた。
少しでも、支えていたいという事なんだろう。
寄りかからせてもらっているレオもそうだけど、ありがたい……それだけでも、本当に力が抜けるとは別の方向で、体が楽になる気がするから。
「うん、それならここはクレアちゃんに任せて、僕は他に行こうかな。大事な話をしなきゃいけないし」
そう言って、エッケンハルトさん達がいる方を見るユートさん。
成る程、地位がある人はある人達で、ちゃんとした話をしなければいけないって事か。
カナンビスなんて、禁止されている植物が出て来たんだから、それも当然だろう。
「ちょっと待つのよう! 私頑張ったのよう! だから、あれを用意してなのよう!」
離れて行こうとするユートさんを、フェヤリネッテが髪を引っ張って引き留める。
あれってなんだろう。
「えー、フェヤリネッテちゃん、あれ結構疲れるんだよ? それに、フェンリル達の魔力を整える手伝いをしていたんじゃないの?」
「外からの干渉は、内部で整い始めている今邪魔になるのよう。だから、私はお役御免なのよう」
「あー、そうか。今は魔力に変な干渉はしない方が得策かぁ」
「変とはなんなのよう! とにかく、あれを要求するのよう!」
「ははは、わかったわかった。ちょっと待っててね……」
「えっと……?」
何やら、ユートさんとフェヤリネッテの間だけで話が完結してしまったけど……。
とりあえず、フェヤリネッテの方からフェンリル達に何かをすることはもうできなくなった、って事でいいのかな?
そう言えば、ゼンマイを作る前に外から魔力を整える手伝いをしていた、みたいな事を言っていたから。
魔力に詳しくない俺でも、体の中で頑張っている時に外から干渉したら逆に乱してしまうかも、というのはなんとなくわかる、かな――。
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