お酒の力を借りれば大丈夫そうでした
「まぁ、通常の薬草とかなら、これ以上作ったら危険かな? というのはなんとなくわかるってくらいかな。それも、正しいのかはっきりしないけど」
「そんなもんだよねぇ。さすがに、意識を失うまで繰り返して探るなんて、体当たりな調べ方もできないし……というか危険すぎるし」
いつからか……以前にも考えた事だけど、『雑草栽培』で薬草を作っている時になんとなく、これくらいなら大丈夫とか、これ以上は危険な気がする、というのが感覚でわかるようになってきた。
それだって、ユートさんに言ったようになんとなくで正しいかはわからないんだけど。
ただまぁ、できるだけ危険な事はしたくないし、気遣ってくれるクレアや公爵家の人達に心配をかけたくないから、気絶するまで試して確かめるなんて事はできない。
だから結局、どこまでが本当の限界なのかというのはまだはっきりしていないのが現状だ。
「とまぁ、深刻な話にしても仕方ないよね。タクミ君、あまり手段として使っていないようだから頭の中にないのかもしれないけど……僕が前に行った、ギフトを使うための力の回復方法。あれをやればいいんじゃない?」
考え込んでいた俺やクレアの心配する気持ちを解すように、軽い口調で話すユートさん。
そういえば、お酒があったか。
「あ、そうか……お酒を飲めば……」
俺やユートさんが、というかギフトを持った人がお酒を飲んでも酔えない理由として、摂取したアルコールが何故かギフトのための力に変換されるとかなんとか。
お酒を飲めば、気絶してしまう事態も避けられるか……。
日本にいた頃、お酒に対してあまりいい思い出のない俺としては、お酒の力に頼るのは躊躇われるし、それが気絶回避の方法として浮かばなかった理由なのかもしれないが。
「お酒、ですか?」
突然、ギフトと関係のなさそうなワードが出てきたため、キョトンとするクレア。
それでも、握ったままの手が変わらないのは俺を心配してくれているようだ。
というか、クレアにはまだ話していない事だったか。
「あーえぇっと……俺はまだ試した事はないんだけど、お酒を飲むとギフトを使うための力? みたいなのが、体の中で作られるというか……」
「要は、お酒の力でギフトを使っても元気いっぱいって事だね」
「……その言い方はどうかと思う」
あくまでアルコールがギフトを使うための力に還元されるだけであって、いくらでも飲めるわけではないし、飲みすぎれば単純に苦しくなって元気はなくなってしまう。
酔わないし、二日酔いにもならないから、そういう意味では大量に飲んでも大丈夫ではあるけど。
「んーと、お酒さえ飲めば前みたいに、タクミさんが倒れたりしないって事でいいのですか?」
「うん、まぁそういう事みたい。ユートさんの話を信じるなら、だけど」
「えー、タクミ君。その言い方だと、僕の話を信じてないように聞こえるよー?」
「いや信じていないわけじゃないけど、まだ試した事がないから……」
話に聞いただけだからなぁ。
まぁ冗談はよく言うけど、嘘を教え込まれた事はない……ないよな? うん
だから一応話としては信じている。
ただ本当に上手くいくのかは、半信半疑じゃないがちょっと不安でもあるのは、お酒を飲みながらギフトを使った事がないからだろう。
「全くタクミ君は……えっとね、クレアちゃん。ちょっとこっちに……」
「あ、はい。わかりました……」
手招きして、少し離れた場所にクレアを連れていくユートさん。
お酒の事とか、ギフトに関する話をするんだろう……さすがに、このままここでユートさんがギフトの話をするのは不味いと思ったのかもしれない。
元気なフェンリル達の方から、ルグレッタさんがこちらを見ているのに気付いたからかもしれないが。
とりあえず、ユートさんが変な事をクレアに教え込まないよう願いながら、俺は……
「さっきよりも、少し元気になったような……なっていないような? ってくらいか」
「本当に少しずつ、徐々にだからこのくらいではっきり変わる程じゃないのよう」
「そうかぁ……」
フェンリル達の様子を見て呟くと、ふわりと俺の顔の横に漂ってきたフェヤリネッテがそれに答えてくれた。
一晩くらいとさっき言っていたように、完治するまでに時間がかかってしまうようだ。
ならやっぱり、お酒を飲まないとまずいかな。
「セバスチャンさん……は、リーザや他の使用人さん達と一緒にフェンリル達を見てくれているから、ライラさんの方が良さそうだ。えっと……って、ん……おっと」
「ワフ!? ワウ、ワウワウ」
「ごめんレオ。大丈夫……だと思う。多分」
「クゥーン……」
辺りを見て、ライラさんに用を頼もうかと思ったら、少し体から力が抜けるような感覚と共に体をふらつかせてしまった。
それを、すぐ近くにいたレオが体で支えてくれる。
……これは感覚的に、ギフトの過剰使用かもしれない……なんとなく、力を危険域にまで使ってしまっている感覚だ。
複数のフェンリル達に、複数のゼンマイを飲ませたから、シェリーの時より力の消費が早いのかもな。
ゼンマイ自体も、複数作っているから元々多く消費しているからかもしれないが。
ともあれ、数秒程度レオに寄りかかっていると、毛がふんわり優しい感触だからか、レオそのものから何かの力が溢れているからかはわからないが、少しだけ楽になった……ような気がする。
「心配かけてごめんな。よっと……すみません、ライラさん」
「はい……旦那様、レオ様に支えられていたようですが、大丈夫でしょうか?」
「えぇ、なんとか。ちょっとバランスを崩しただけですから。それで……」
心配してくれるレオから体を離し、ゼンマイをフェンリル達に飲ませ終わって近くに待機してくれていたライラさんに声をかける。
俺がふらついてレオに支えられた様子もばっちり見ていたらしく、心配もされてしまったけど。
とにかくお酒さえあればなんとかなるはず、と心配をかけないように誤魔化しておく。
ライラさんには、見抜かれている気がするけど。
「なんでもいいのでお酒を、持ってきてもらえますか? できれば多めに」
「お酒ですか? 先程、クレア様やユート様と話されている時にも、お酒と漏れ聞こえてきましたが……」
大きな声で話していたわけじゃないけど、やっぱり聞こえてしまっていたかぁ。
まぁ、断片的で全てが聞こえたわけじゃないみたいだから、ユートさんの秘密は守られている、かな?
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。