フェンリル達が飲んでくれるよう一計を案じました
「ワウ、キューン……」
「パパ、皆元気出ないみたい……」
「タクミさん、撫でると少しは落ち着いてくれるみたいですけど、やっぱり気持ち悪さがずっと続いているみたいです。どうしましょう?」
「キャゥー……」
俺とライラさん、それから後ろからユートさんとフェヤリネッテが近付くと、それぞれに声をかけて来るレオ、リーザ、クレア、それにシェリー。
皆、フェンリル達の事が心配な様子だ。
離れている間に、フェンリル達が気持ち悪いとかっていうのを、シェリーなりリーザなりを通して聞いてもいたみたいだな。
「もう大丈夫、という保証はまだできないけど……多分なんとかなると思う」
「ユートさん達と、何か話していましたけど。それに、シェリーの時みたいに『雑草栽培』で光が……?」
特に遮るものがないから当然だけど、クレアは俺が何かやっているのを遠目にでも見ていたみたいだ。
「えっとね……」
とりあえず、簡単にカナンビスの影響を取り除くための薬草を作ってみた事を話す。
その間に、フェンリル達が時折舌を出して飲んでいる水の桶の隣に、ライラさんがゼンマイが入っている桶を置いてくれた。
「成る程、そんな物を……さすがタクミさんです!」
「ワフ、ワフ!」
「いやまぁ、フェヤリネッテはできそうって言ってくれたけど、本当に上手くいくかはこれからだから」
事情を話すと、ライラさんが置いた桶を見ながら、クレアとレオに褒められる。
レオなんて尻尾をブンブン振っているから、それだけフェンリル達の事が心配だったんだというのがよくわかる。
「それじゃ、その桶にあるのを……ゆっくりでいいから飲んでくれるかな?」
「スンスン……ガゥ……」
「グル、グルルゥ……」
「ガァゥ……」
とりあえずゼンマイでできた薬を飲んでもらおうと、フェンリル達に声をかけたけど、匂いを嗅ぐだけ嗅いで鼻を逸らした。
「おや? 皆飲まないね?」
様子を見ていたユートさんが首を傾げる。
「うーん……やっぱり、嫌な匂いがするからあんまり飲みたい感じじゃないのかも。匂いが問題かなぁ」
犬もそうだけど、嗅覚が鋭い動物は基本的に匂いで食べられるかどうか、飲めるかどうかを確かめるから……あまりいい匂いとは言えないゼンマイは、好みじゃないんだろう。
柑橘系の香り程じゃないけど、鼻の奥が少し刺激されるような匂いだし、俺でもそうなんだから嗅覚の鋭いフェンリルにとってはもっとだろう。
まぁ、俺とか人があまりいい匂いと思えなくても、フェンリル達やレオにとっては違ったりもするが、今回は近い感覚で受け止めているようだ。
「あと、今回はカナンビスの薬から発生した臭いが原因だから、嫌な臭いがする物は余計受け付けないのかも」
嗅いでしまった臭いで今こうして気持ち悪く、さっきまで戻したりもしていたわけだから、嫌な臭いの物を口に入れたくならなくて当然と言えば当然か。
「どうしましょう……? せっかくタクミさんが作って下さったのに……」
そう言って、フェンリルを撫でる手を止めずに困った様子のクレア。
まぁ、こうなる事は大体予想できていたから、対処法は考えてある。
というか、嫌がっているフェンリル……というより犬相手に、それでも申し訳ないと思いつつ薬を飲ませるのは、レオで慣れているからな。
フェンリル達がそんな事をするとは思えないけど、それでも噛まれたりとかって考えて、ちょっとだけ怖い方法だけども。
手段は二つあって、怖くない方の手段で上手くいってくれればいいんだけどなぁ……さて。
「自分から飲まないのなら、方法は一つだよクレア。とにかく口に突っ込むなりで、何がなんでも飲んでもらう……」
怖い方の手段はこれ。
薬によっては、食べ物に混ぜるとかもあるけど……レオがケンネルコフだったっけ、犬の風邪を引いた時には混ぜた風邪薬を避けてフードだけ食べるとかしていたしなぁ。
もちろん風邪薬と言っても人間用ではなく、動物病院で出された犬用の物だ。
ともあれフェンリル達も同様にしそうだし、戻したりもしていた状態の今物を食べるのは避けたい。
ちなみに、レオの場合は心の中で謝りつつ捕まえたレオの口を開けさせて、錠剤を喉の奥へと投入して飲ませたり、液体薬の場合は鳥などの給餌用のスポイトを使って、あけた口に垂らしたりなどの事をやっていた。
強引というか、そのまんま無理矢理だったので本当に申し訳なかったけど……でも、病気は早く治した方がいいからな。
……液体薬と吸引機のネプライザーを入手してからは、楽になったけど。
それでも、レオは嫌がっていたからもうそういうものとして諦めるしかなかった。
「……ワフ!? ワウ、キューン……」
「レ、レオ様? ど、どうしたのでしょう?」
口に突っ込む、と言った俺の言葉を聞いたレオが突然、両前足で口を押えつつ伏せて情けない声を上げた。
クレアも、近くにいた他の人達も驚いている。
「まぁ、昔の事を思い出したんだと思うよ」
俺が思い出して頭の中で思い浮かべていたように、レオもマルチーズだった頃に口を開けさせられて、薬を飲まされた時の事を思い出したんだろう。
でもおかげで、すぐに風邪も治っただろうに……まぁ嫌なものは嫌か。
「んー、そうだなぁ……フェンリル達がこのまま嫌がるなら、あの方法しかないしなぁ。もしレオが今のフェンリル達のように、調子が悪くなっても同じようにするしかって事だろうなぁ」
「ワウ!?」
なんて、これ見よがしにレオを見ながら言う。
フェンリル達にゼンマイを飲ませる手段、その二つ目の実行のためだ。
やっぱり、できる事なら無理矢理よりは渋々だったとしても、自分達から飲んで欲しい。
そのための布石みたいなものだな。
無理矢理だと反射的にフェンリルが動いたら、こちらが危ないし……そもそも無理にでも口を開けさせるなんて、人間にできるとは思えないからな。
一番安全で、レオ以外は納得してくれる手段でもある、多分。
「どうするかなぁ? レオが協力してくれたら、レオの時も無理矢理なんて事はしなくてよくなりそうなんだけどなぁ?」
「ク、クゥーン……」
今はもう、本気で抵抗されたら無理矢理になんて絶対にできないけど、以前の記憶を利用させてもらう。
「でも仕方ないかぁ、嫌がって飲まないんだから。でも必要な事だから、無理にでも飲んでもらわないとなぁ……」
「キューン……ワウ。ワッフ!」
情けない声を出していたレオが、俺の言葉に耐えかねたのか何かを決意するような鳴き声と共に、立ち上がった。
よし、上手くいったようだ――。
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