考え方を変えてようやく成功したようでした
「お、光った!?」
「タクミが光っているのよう!?」
「いやいや、タクミ君が光っているとも言えるけど、実際は手の先が光っているだけみたいだよフェヤリネッテちゃん。ほら、うっすらと手の隙間というか、地面が光っているような?」
「本当なのよう。正しくは地面の方が光っているのよう」
などなど、実況してくれるユートさんとフェヤリネッテが凝視する先、地面に触れている俺の右手。
その先の土からほのかな光が発せられて、一つの植物が生えてくる。
これは……シェリーを助けた時に作った薬草のような反応だ。
あの時よりも光は薄く感じるけど、明るい場所だからだろうか? それともあの時は感覚強化の薬草を食べていたから、光が強く感じたのだろうか。
「……これなら。――フェヤリネッテ、見てくれるかい?」
「あいあいなのよう!」
ツタのような細長い茎が地面から生えて伸び、二十センチほどの所で丸まって、小さな実のような葉っぱを丸めたような、芽とも言えそうな物を付けてそれを囲んだ。
ゼンマイに似ている気がする……というより、見た目は山菜のゼンマイそのものだな。
だとしたらシダ植物だから、伸びた茎に見えるのは茎ではなく栄養葉だったっけ? そう呼ばれている物か。
ともあれ、それを根元から抜き取ってフェヤリネッテに見せる。
今度こそ、カナンビスの効果を打ち消すような物ができていればいいんだけど……。
なんとなく、作った時の光が証明してくれるような気分で、今度こそという自信はあるが。
「うーむむむむ……なのよう。多分、これでカナンビスの影響を取り除けるのよう」
「多分って、頼りなく聞こえるけど……?」
自信はあったんだけど、多分と言われるとその自信もすぐに萎む(しぼむ)気がする。
「だってこれ、カナンビスとか関係なく、ただ単に悪いのを抜き取る物だって聞いた覚えがあるのよう。万病に効く薬草って長老に聞いた事があるのよう。本当にあるとは思わなかったのよう!」
「万病にって」
「それこそ、本当に世界樹の葉を作っちゃったのかな、タクミ君?」
「いやいや、世界樹なんてないし作っていないから。というか、葉……かどうかは微妙な見た目だし」
そもそも世界樹なんて作っていないから、その葉なわけがない。
フェヤリネッテが言うように、本当に万病に効くのならそれっぽい効果ではあるけれど。
というか、万病に効くってとんでもない物を作ってしまったんじゃ……?
「とにかく、どんな効果的な薬草かっていうのは後にして、これが本当にカナンビスで苦しんでいるフェンリル達にも効果があるのなら、早速あげないと」
「世界樹の葉とかそういうのはまぁ置いておいて、確かにそうだね。タクミ君はとんでもない物を作った気もするけど……後で、じっくり見せてもらうよ」
薬草がどういう物か調べるのは後回しで、今もまだ苦しんでいる様子が続いているフェンリル達をなんとかする方が先だ。
少し前から戻す事はなくなっているけど、まだ落ち着かない様子でクレア達に撫でられているし、調子も悪そうにしている。
戻していないのは、もう胃に何も入っていないからかもしれないし、放っておいて何かを食べたらまた戻してしまうなんて事になるかもしれないからな。
「それじゃ……」
ひとまず、ゼンマイに似た薬草を手に持ち、どう使うかがわからないので『雑草栽培』任せで状態変化をする。
こうすれば、一番効果的な状態にできるから乾燥させるといった時間のかかりそうな手間を省けるし、状態によってどう使うかもなんとなくわかるかもしれないからな。
そう思ったんだけど。
「ありゃ。全部液体になって落ちちゃったね……」
俺の手元を見ていたユートさんが呟いたように、薬草はミキサーにかけられた果物のように液体と細かな粒になって俺の手をすり抜けて全て地面に落ちてしまった。
……こうなる事も予想しておかないといけなかったな。
一つ無駄にしてしまった……さすがに、地面に落ちて土にしみ込んでいるのをフェンリル達に舐めさせるわけにもいかないし。
「これは、磨り潰して使うとかそういう事なのかもしれない。えーと……すみません! 誰か器を、なんでもいいのでとにかく液体を入れられる物を持ってきてくれますか!!」
「はい、ただいまお持ちいたします!」
磨り潰したらしき状態になるって事は、塗るか飲むかで使用する物ってところだろう。
とりあえず近くにいた使用人さん達に向けて、器を持ってきてもらうよう頼むと、ライラさんが声を上げて屋敷の方へと駆けて行ってくれた。
俺はそれを見送りつつ、同じものを『雑草栽培』で作るために再び地面に手を触れさせる。
苦しんでいるフェンリルは複数いるし、どうせ一つじゃ足りないだろうから、追加で作るつもりだったからな。
「お待たせしました!」
「ありがとうございます。すみません、そのまま持っていてくださいね……」
「畏まりました……」
ライラさんが風呂桶くらいの大きさの器を持って戻って来る。
大き目の物なのは、フェンリル達が口をつけやすいようにという配慮かな? 人が使うような器だと、フェンリル達にとっては小さいからな。
ともあれその頃には、追加で複数のゼンマイに似た薬草……面倒なので便宜上ゼンマイと呼ぶけど、そのゼンマイを作って引っこ抜いておいた。
それをライラさんに持ってもらっている桶の上で、まとめて『雑草栽培』を使って状態変化をする。
たちまち、磨り潰したようにゼンマイが細かい粒になり、液体と一緒に桶へと俺の手から落ちていく。
数十秒程して、完全にすべてのゼンマイが磨り潰された状態になり、桶に溜まる……大体、人が使うコップ一杯程度の量だろうか。
足りなければまた追加で作るけど、とりあえずこれをフェンリル達に試してみよう。
「くんくん……うん、これなら大丈夫そうなのよう。凄く変な臭いがするのだけどなのよう」
「まぁ、薬草だから臭いはある程度仕方ないかも。嫌がられなければいいけど……ライラさん」
「はい、すぐに」
臭いを嗅ぐフェヤリネッテに頷き、俺と一緒にライラさんがフェンリル達の所へゼンマイの薬効成分の塊と思われる液体の入った桶を持って行く。
俺の鼻には、ちょっと青臭いのと泥が混じったような臭いが嗅ぎ取れる……決していい匂いとは言えない。
フェンリル達が嫌がらずに、少しでも飲んでくれればいいけど……。
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