とにかく薬草を作る事にしました
「なんなのよう、今大変なのよう! 魔力が乱れているのを、外から少しずつ抑えていたのよう?!」
「え、フェヤリネッテそんな事できるの?」
「妖精さんならでは、なのかなぁ。魔力に関しては人より扱いが上手いから……魔力の量とかは体の大きさ相応なんだけどねぇ」
ただ単に騒ぎながら飛び回っていただけじゃなかったのか……。
フェヤリネッテに魔力を整える事ができるのなら、任せてもいいのかも?
「それはともかく、フェヤリネッテちゃん。カナンビス、知ってるよね? あれのせいでフェンリル達の魔力が乱れて、苦しんでいるってわけなんだけど」
「カナンビスなのよう? あぁあの、なのよう……でもカナンビスって、例えそのまま食べても人以外があんなことにならないはずなのよう? 特に膨大な魔力を持つフェンリルになんてなのよう。それこそ、大きな湖に水滴を垂らして、荒れ狂わせようとするようなものよう? 多分」
最後に多分と付け加えるのは少し不安だけど、そうなのか。
本来のカナンビス、薬にしなければフェンリルには何も影響を与えないような、取るに足らない植物になるわけか。
まぁ、人に対しては別だけど。
「それがね、フェンリルとかにも効くように薬にして臭いを嗅がせる事で、強い効果を出せるみたいなんだ。詳しくはかくかくしかじかで……」
本当に「かくかくしかじか」と言いながら、俺が話したことをフェヤリネッテに説明するユートさん。
かくかくしかじかって、口に出して言う人いたんだ……それで通じるわけもなく、ちゃんと説明しているんだけども。
「つまり、カナンビスの効果を消すようなのを作るってわけなのよう?」
「そう。で、一応参考までに聞きたいんだけど、フェヤリネッテは心当たりないかなって」
「んー、そうなのよう……」
フワフワと浮かびながら、空中で逆さになって考え始めるフェヤリネッテ。
妖精って、そうやって深く思考するのか……フェヤリネッテだけかもしれないけど。
ちなみに、フェヤリネッテがカナンビスに詳しい理由は、妖精だからという事らしい。
妖精はカナンビスを食用としている事があるらしく、専門家と言う程ではないけれど、人間よりはよっぽど生態に詳しいってわけだ。
もちろん、薬にはせずそのままのカナンビスなら人にしか影響がないため、妖精に悪い影響はない。
魔力を乱す植物と、魔力の扱いに長けた妖精か……。
もしかすると、それで魔力の扱いに慣れるみたいな部分があるのかも? 単なる想像だけど。
以前、ユートさんが作った魔力球を食べていたりもしたし、魔力との親和性の高い種族なのかもしれないな……まぁ、妖精という種族のイメージとしてはピッタリか。
「……妖精には必要ないから、そういった植物は知らないのよう」
「フェヤリネッテでも駄目かぁ」
「うーん、とりあえず『雑草栽培』頼みで作ってみるしかないかな? 今日は薬草作りをしていない日だったから、余裕はあるし……色々試してみるよ」
「そうだね。まずはやってみるだね」
「なのよう。じゃあ、それが効果があるかどうか、私が調べてあげるのよう」
「フェヤリネッテが?」
「魔力を乱すカナンビスの効果を取り除くには、結局魔力を整えるのが一番なのよう。そういった効果がある植物かどうか、なんとなくわかるのよう。絶対ではないけれどなのよう」
とりあえず作って見せれば、カナンビスに対処できる効果があるかわかるって事か……ちょっと便利だ。
まぁ植物の専門家と言うわけではないから、魔力に関係している物に限られるんだろうけど。
「それじゃ、とりあえずやってみる……」
そう言って、しゃがみこんで手を地面に触れさせ、『雑草栽培』を使う。
まずは、ユートさんとフェヤリネッテが来るまでに考えていた物をはっきりと思い浮かべるようにして……。
「できた。どう、フェヤリネッテ?」
ラモギなど、いつも作っている薬草と同じ様子で、地面から生えてきた植物。
見た事のない葉っぱだけの物で、茎や根すらない物だった……どうやって地面から生えて来たのかすら不思議に思うけど、とりあえず空に向けて生えた葉っぱが、すぐ倒れたところを拾ってフェヤリネッテに見せる。
放っておいたら、多分単なる落ち葉にしか見えないような、広葉樹の葉の形で薄緑。
なんの変哲もない葉っぱで、何か効果があるようには見えないけど……『雑草栽培』で薬効を求めて作ったんだから、何かしらの効果はあるんだろうけど、果たしてカナンビスに対処できるものかどうか。
「うーん、魔力に作用するような物じゃないのよう。それよりすごいのよう、何もない所から葉っぱが出てきたのよう?」
フェヤリネッテに見てもらい、求める効果がない事を確認。
やっぱり駄目だったか……なんとなく、手応えとしても駄目だろうなという感じだったからなぁ。
って、そう言えばフェヤリネッテの前で『雑草栽培』を使った事がなかったっけ?
椿とかを作る時は……別の場所にいたのかもしれない。
「そういえば、フェヤリネッテがじっくり見るのは初めてだっけ? これが、俺のギフト『雑草栽培』で、思い浮かべた一部の植物を作る事ができるんだ。まぁ、今回は出てきたって言うのが確かに正しい感じだったけど、基本は生えてくるよ」
「種もないのに、植物が生えてくるのは不思議でしかないのよう」
「まぁ、そうだね……とりあえず、これが駄目なら他の……って、ユートさん?」
フェヤリネッテと話しつつ、再び『雑草栽培』を使おうとしたところで、ワナワナと震えている様子のユートさんに気付く。
その視線は、俺がフェヤリネッテに渡した葉っぱを凝視しているようだけど……。
「そ、そ、そ、それは!」
「え、これなのよう?」
ビシッ! と指をさすユートさん。
何か、変な物でも作っちゃったのかな?
「世界樹の葉!」
「うぇ!?」
せ、世界樹って、あのゲームとか物語で時折出て来るあの!?
確か、亡くなった人を蘇生させたりとか、とんでもない魔力を含んでいたりとかするっていう……?
「あぁ、ごめん。世界樹の葉っていうのは、なんとなく似ているかも? って僕が勝手に呼んでいるだけだった。正しくは大葉だね」
「なんだ……驚いた。って、大葉ってあの大葉?」
青じその葉部分、早い話がシソの葉だ。
驚いて損をした気分だ――。
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