ユートさんとフェヤリネッテが来ました
「タクミさん、私とリーザちゃんも何かできる事はありませんか?」
「パパ、皆苦しそう……」
レオの次は、クレアとリーザ。
リーザと手をつないだクレアが、空いている片方の手を痛いくらい握りしめているのが見える。
二人共、初めて見るフェンリル達の様子に戸惑いつつも、どうにかしたいと思っているんだろう。
「クレア、リーザも。ならそうだなぁ……嫌がられるようならすぐに止めた方がいいけど、優しく撫でてやってくれるかな? フェンリル達も撫でられるのは好きみたいだし。けど、何度も言うけど嫌がるようならすぐに止める事!」
「うん、わかった!」
「わかりました!」
俺の言葉に勢いよく頷いて、二人はフェンリル達の所へ行き両手を使ってフェンリル達を撫で始めた。
良かった、嫌がるような素振りはフェンリル達にはなさそうだな。
野生動物……魔物? だから、こういう何かがある時に触れられたくない、と思うものかもしれないし、犬でもそういう時があるからどうかと思ったけど、受け入れられているようだ。
「セバスチャンさん達も、できるだけ優しく撫でてあげて下さい! 少しでも、フェンリル達の気が休まるように」
「畏まりました!」
他の使用人さん達にも、クレア達と同じく撫でるように伝える。
いつの間にか来ていた、チタさんやシャロルさんも撫でる人達の中に加わっていた、心配だったんだろう。
現状、落ち着かせたりするくらいしかできる事がないので、撫でてもらう以外にお願いする事がない。
あ、吐瀉物を片付けるのもあったか……ん? もう準備できている? すみません、汚れ仕事を……。
などと話しつつ、土と一緒に吐瀉物を運んで行く使用人さん達を見送り、フェンリル達に声をかけながら撫でている皆を見ながら、少しだけ離れる。
俺には俺のできる事を……だな。
「よし……えーっと、カナンビスの効果は確か、興奮作用だったか……」
薬にする事で、一部の限定した相手に効果を示すものにする事ができるみたいだけど、カナンビスのそれ自体にも興奮作用があるらしい。
「あとは、強い依存性が問題か。とにかく、それらを取り除く物を……」
漠然としているから、はっきりとした効果すら思い浮かべる事はできないが、今はそれでもやるしかない。
もしかしたら、放っておいてもフェンリル達の症状が治まる可能性もあるが、依存性の強いカナンビスが混じっているわけで。
これでフェンリルが中毒になってしまったら大変だ。
いや、そもそも戻しているのが既に中毒症状なのかもしれないが……頭に浮かぶのは、強い依存性と毒性による禁断症状。
依存性の高い薬物の禁断症状は、かなり辛いと聞く。
伝聞でしかないけど、とにかくそんなのをフェンリル達に味合わせたくなんてない。
だからえーっと……体内からカナンビスの影響を取り除く……いや、予想通りなら薬になっている物で、カナンビスだけによる症状ではないかもしれないのか。
複数の薬草が混じっているわけだし。
だったら……なんて考えている俺の耳に、少し焦った様子の声が聞こえた。
「なんなのよう! 変な感じがしたから急いで来てみたけど、これはどうしたっていうのよう!」
この声と口調は、フェヤリネッテか。
「フェヤリネッテ! 今フェンリル達は……っと?」
「はい、落ち着いてねタクミ君。――フェヤリネッテちゃん、僕も視たけどそちらから見てフェンリル達の魔力は、今どうなってる?」
ふわふわとレオの近くを飛んでフェンリル達に向かって叫んでいるフェヤリネッテに、状況を伝えようとすると、後ろから肩を掴まれる感覚。
振り返るとユートさんがそこにいて、俺に微笑みかけた後、フェヤリネッテに問いかけた。
視る……魔力……?
「魔力が滅茶苦茶になっているのよう! 体内で荒れ狂って……暴れないだけ不思議なくらいなのよう!」
「魔力が滅茶苦茶……って、ユートさん?」
「うん、皆のユートさんの登場だよ」
皆の、というのはよくわからないが……この様子なら何か知っている雰囲気だ。
カナンビスの事に関しては、まだユートさんに話していないはずなのに。
エルケリッヒさん達の方にはエッケンハルトさんが伝えて、深刻そうな表情で何か話しつつ、こちらの様子を見ているけど。
とりあえず、ユートさんののほほんとした笑顔を見て、緊迫していた内心が少しだけ落ち着いたかもしれない。
もしかして、これを狙ってユートさんは冗談っぽい事を言ったのか?
……いや、素の可能性が高いな。
「んで、一体何があったの? 魔力が滅茶苦茶になるなんて、相当な事だと思うんだけど」
「あぁ、それは……って、魔力が滅茶苦茶にって一体? ま、まぁ、あくまで推測だけどカナンビスって危険な物の薬が使われた……香りを嗅いだ? からあぁなっているんだと思う」
気になる事は言っているけど、とりあえず簡単に事情を説明。
国を挙げて禁止されている植物らしいから、カナンビスと言っただけである程度はユートさんにも通じるはずだ。
「カナンビス!? って、あのカナンビス!?」
「他にどんなのがあるのか知らないけど、エッケンハルトさん達は禁止されているはずの植物って言ってたカナンビスだ」
「それ、間違いないの?」
「断言はまだできない。さっきも言ったけど状況からの推測なんだ。魔物を興奮状態にさせる香り、それを発生させる薬として……」
どうやら、飄々としている事の多いユートさんが驚いて大きな声を出すくらいには、カナンビスの事を知っているようだ。
とりあえず、森の中で臭いを嗅いだ事なども含めて、カナンビスの使われている薬の影響かもしれない、と伝えた。
「成る程……だからフェンリル達はあんなに。フェヤリネッテちゃんが驚くのも無理はないくらいな状況ってわけだね」
納得した様子のユートさん。
状況を全部わかっていてここに来たわけじゃないみたいだし、さっきの冗談交じりの言葉も、俺を落ち着かせる意図はなかったみたいだ。
やっぱり素であれだったのか。
「その、魔力が滅茶苦茶っていうのはどういう事なんだ?」
「えっとね、カナンビスって体内にある魔力を乱すんだ。タクミ君も、少しくらいは心当たりがあるんじゃない? 魔力が整うと体の調子が良くなったり、逆に悪くなったりって事」
「……そういえば?」
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