フェンリル達の様子を見に行きました
「駄目ですね……一つ大きな事を考えていると、自分の事すら見えなくなってしまいます。もう少し、他の事にも気が回ればいいんですけど」
フェンリルの森で、シルバーフェンリルを探している時なんて前日まで研究していたはずの、ギフトの事を忘れていたくらいだからな。
それで作った薬草を皆に分けたりしていたのに……あの時はレオが思い出させてくれたけども。
今回も、カナンビスという最悪な植物が関わっているのもあり、その事ばかりで頭がいっぱいだった。
少し省くが、さっきヴォルターさんが言った「植物に対処するには同じ植物」という言葉が身に沁みた気がする。
俺には『雑草栽培』という頼もしいギフトがあるんだから、それで対処できる可能性というのは常に考えないとな……。
カナンビスへの対処法はないか、という事までは考えられていたのに。
「ふ、そこもまたタクミ殿の良い所ではあるがな。多くの事を同時に進められなくとも、一つ一つ問題を確実に解決していく能力、と言おうか」
「お父様、そこは私に言わせて欲しかったです……」
苦笑する俺に、エッケンハルトさんが長所のように言ってクレアが少しだけ頬を膨らませる。
二人共、反省するような俺を褒めて認めたいってところだろう……ほんと、いい人たちに囲まれているな、俺は。
多分、俺が内心であれこれ考えて自省していたのを見抜いたのかもしれない。
……セバスチャンさんにもよく見抜かれるし、俺って結構顔に出るタイプらしいから。
「ま、まぁとにかく、ありがとうございましたヴォルターさん。色々と相談に乗って下さって」
「いえ。レオ様の所へ向かう足を止めてしまい、申し訳ありません。私の方は、カナンビスとそれを使った薬について調べを進めておきますので……」
「はい、よろしくお願いします」
改めてヴォルターさんにお礼を言い、クレアやエッケンハルトさん、ライラさんやルグリアさん達と共にレオの待つ場所へと向かうため、執務室を出る。
その際、部屋を出る俺達に礼をしているヴォルターさんから、妙に嬉しそうな雰囲気を感じたのはきっと気のせいじゃないと思う。
勝手な想像だけど、自分の知識が頼りにされて役に立ったことが嬉しかった、とかかもしれないな……セバスチャンさんがよく知識を披露してくれるけど、ヴォルターさんはこれまでそういった機会に恵まれていなかったみたいだし。
蓄えた知識を有効に、何かに誰かのために使えるというのは、ヴォルターさんをさらに本の虫にしてしまう可能性もあるけど……なんて考えつつ、先導するようにテコテコ歩くシェリーの後ろを付いて行った――。
「レオ!」
「ワフ!」
「パパ!」
シェリーに先導されて来たのは、屋敷の庭……ではなくそこからさらに外壁の外へ出た場所だった。
どうやら、フェンリル達が落ち着かないので庭の外に出たって事らしい。
庭にある勝手口のような扉をくぐって外に出て、数体のフェンリルが固まっている場所、そのすぐ近くにいる一際大きいレオへと声をかける。
すぐにこちらを振り向いたレオと、一緒にいたリーザが反応した。
「グル、グルルゥ」
「ガフ、ガハッ……」
「ハッハッハッハ……」
「グッ……ハッハッハッハ……グェ……」
すぐにレオへと駆け寄ると、同じく近くにいたフェリーが心配そうな鳴き声を上げているのに気付く。
その声、視線の先には数体のフェンリル達が、元気のない様子でお座りや伏せの体勢……息が荒く、時折胃の中の物を戻してもいるようだ。
くるくるとその場で回っているフェンリルもいるようだ……体調というか気持ちが落ち着かないのかもしれない。
「これは……」
「苦しんでいる、のでしょうか?」
「キューン、クゥーン……」
その様子を見て絶句する俺と、心配そうな面持ちのクレア。
レオも心配そうにしながら、こちらを窺っている。
「父上、母上……少々お話が」
「フェンリルの様子と関係があるようだな。聞こう」
「こちらも、フェンリル達の様子に関して、話しておきましょう」
エッケンハルトさんはこちらを窺いつつも、フェンリル達から少し離れた場所にいたエルケリッヒさん、マリエッタさんの所へ。
数人の使用人さん、護衛さんと一緒にいてフェンリルに対してどうしたらいいのか、と困っていたみたいだ。
とにかく、あちらは任せよう。
カナンビスの話もエッケンハルトさんがしてくれるはずだ。
「レオ、これはいったい何があったんだ? フェンリル達は、急にこんな状態に?」
とりあえず、事情を知っている……詳細はともかく、俺よりは詳しいだろうとレオに聞いてみる。
セバスチャンさんは、数人の護衛さんと一緒にフェンリル達を撫でているようで、なんとかして落ち着いてもらおうとしているみたいだ。
……使用人さんよりも、護衛さんの数が多い気がするのはもしかすると、もしフェンリルに何かあったら……危険な事があれば、と考えてなんだろう。
それを予想するなら、エルケリッヒさん達がいるのはまずい気もするけど、そこはレオもいるからと考える事にした。
「ワフ、ワウワフワウ……ワッフガウワフ」
「えっとね、ママと一緒にフェンリル達と話していたんだけどね?」
「うーん……」
レオとリーザによる事情説明。
どうやら、苦しみ始めたり息が荒くなったりして、さらに戻すようになったのはシェリーが俺を呼びに来る寸前くらいの事らしい。
フェンリル達に事情を聞くため、レオとリーザが来た時にはそういった事はなく、多少落ち着かない感じはあっても元気そうだったと。
それが急に、気持ち悪くなって吐き気がすると訴えてきたので、まず外壁の外へとできるだけ刺激しないように移動して、少しすると今のような状態になったらしい。
移動した時には、まだ外壁を飛び越えるくらいの元気があったらしいんだが、それも戻し始めるまでの話。
落ち着かせようとするレオやリーザ、さらにセバスチャンさん達が護衛さんの手配と一緒に加わり、シェリーに俺達を呼びに行かせて今に至る、という事みたいだ。
「吐き気……大体理由は予想で来ているけど、まずは症状を見ないとな。こういうの、レオでも何度か経験した事があるが……あの時はほとんど大した事なかったし、病院に連れて行って獣医さんに診てもらったけど、俺にわかるのか少し不安だな」
「ワウゥ……」
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