ヴォルターさんから話があるようでした
「キュゥ、キャウキャウ!」
「フェンリル達が、少し落ち着かない様子らしいですね。やはり、先程から話していた薬の影響でしょうか……?」
「もしかしたら、前よりもはっきり嗅いでしまったからかもしれないね」
落ち着かない、と言っているから興奮して暴れようととかではないようだ。
そこは安心だけど、落ち着かないのは薬の影響が何かしら出てしまっているのかもしれない。
「かもしれません。セバスチャン達は、レオ様やリーザちゃんと一緒にフェンリル達の対処をしているみたいです。それで、シェリーが来たと」
「シェリーも一緒にいた方が、落ち着く気がするけど……まぁいいか。とりあえずすぐに向かおう。エッケンハルトさん」
「うむ、私も行こう。場合によっては、父上や母上にも話しておく必要があるからな。ユート閣下にもだが」
エッケンハルトさんに声をかけると、すぐに立ち上がって部屋を出るよう動いてくれる。
ライラさんやルグリアさん、パプティストさんも同じくだ……三人とも、元々立ってはいたけれど。
事が事だし、悠長に構えていられないと思っての事だろう。
レオが呼んでいる、というのも大きいかもしれないが。
「申し訳ありません、タクミ様。少々お待ち下さい」
「ヴォルターさん?」
「ヴォルター、どうしたの?」
「キャウ?」
俺とクレアも、と思って動き出そうとした時、俺達を呼び止めるヴォルターさんの声。
それに俺だけでなくクレアやシェリーも、首を傾げながら声を上げた。
エッケンハルトさんや、他の人達も同じく注目している。
「先程途中でシェリーに遮られましたが、薬の対処法に関してです」
「薬の……方法があるんですか?」
これから薬の影響を受けていると思われる、フェンリル達の所に行こうというのだから、この話は大事だ。
エッケンハルトさんは知らなかったみたいだが、何か方法があるのなら知っておきたい。
そう思い、レオの所へ急ごうとした体を聞く態勢にする……立ったままではあるけど。
「植物の調合によって作り出された物は、植物によって対処される……全てではありませんが、そういう事も考えられるようです。得た知識の元になっている本の受け売りですが」
「植物によって……」
まぁ、植物由来の成分だから、また別の植物の成分で対処というのはわからなくもない、かな?
ヴォルターさんも言っているように、必ずしもではなくそういう事もある、くらいに考えた方が良さそうだ。
「ともかく、カナンビスの影響を取り除く植物……薬草というのも存在するようです。ただ、ほとんどの書物には載っていませんし、あるというだけでどのような物なのかははっきりとした記述を見た事がありません」
「詳細まではわかりませんか……探そうにも、今すぐはどうにもなりませんね……」
「いや、そうでもないぞタクミ殿?――ヴォルター、そなたが言いたいのはタクミ殿の『雑草栽培』であれば、作り出す事も可能なのでは、という事だな?」
「はい。タクミ様がギフトで作り出す薬草。それだけに関わらず、植物は見た目などを思い浮かべてと聞いています」
「そう、ですね……」
チラリ、とルグリアさん達の方を見る。
一応、薬草畑の従業員さん達だけでなく、近衛護衛の皆さんにも俺のギフトの事は伝えてあるので、ここから変に広まる事はないだろう。
ルグリアさんも兜を被ったままで表情が見えないパプティストさんも、二人共頷いているし。
近衛騎士という役職上、国に関わる重要な話を聞く機会もあるんだろうし、口が堅い事は間違いないはずだから安心だ。
まぁ、俺に関する事と国に関わる重要な事柄では、比べるべくもないだろうけど。
「俺が作る植物のほとんどは、実物を見た事があってそれを思い浮かべるか、本に描かれている形を見て、ですね」
「はい。ですが、一部の薬草は効果を思い浮かべるだけで作れたと。例えば、瀕死のシェリーを救った時の薬草などです」
「あー、確かにあの時は、こういった薬草があれば……と考えていました」
「キャウー!」
クレアの足元でお座りしたシェリーが、誇らしげに胸を張って鳴く。
誇らしげにする理由はわからないが、とりあえず自分が助けてもらった時の事だとわかっているみたいだ……あの時はシェリーに意識はほぼなかったと思うけど、なんとなく覚えているんだろう。
ともあれ、あのシェリーの瀕死の怪我を直した薬草は、ロエを改良するような感覚だった。
今考えると、完全に植物創造のような気がするけど……実際にあるかどうかという部分は考えず、こういった効果の、ロエのように患部に触れさせるだけで瀕死の重傷すら治せる物があればと考えていたっけ。
実際は、怪我を完治したように見せかけつつ、薬草の効果でシェリーの自己治癒能力と合わせて時間をかけて治していく、といったものだったけど。
薬草自体が、俺のギフトを使う力を使い続けていたため、シェリーを別邸に連れ帰ってから倒れてしまった。
あの時はセバスチャンさんと持続時間、という予想を立てたけど……まぁ当たらずとも遠からずかな。
シェリーの体と一体化した薬草が俺と繋がっていて、力を限界まで吸い取り続けたってところだろう。
「実際にそのような薬草があるかどうか、というのは私も書物ですら見た事がありませんが……ともかく、実際にある植物ですのでタクミ様になら作れるのではないかと」
「成る程。そうですね、実際にやってみないとわかりませんがヴォルターさんに言われるとできそうな気がします」
「まぁ、今必要かどうかはわかりませんが……差し出がましいかと思いましたが、タクミ様がお忘れになっているようでしたので」
「ありがとうございます。こういう時、大事な事を忘れているのが多くて……思い出させてくれるだけでもありがたいですよ」
そうだった、俺の『雑草栽培』は人の手が入っていない植物……まぁおそらく樹木は無理でも、「雑草」というように草本に限られるだろうけど、多くの植物が作れるギフトだ。
シェリーを助けた薬草のような、作り出す時に光ったりする事は他になかったけど、実際にある植物なら作り出せる可能性が高い。
それも、存在はほぼ確定しているらしく、あまり知られていないのなら人の手が入っている可能性もかなり低いわけで――。
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