香りの効果を使う事もあるみたいでした
「これらは人への効果に関してですが、一部は魔物にも効果的なようです。ただ、効果のある魔物とない魔物がいるようですね」
「みたいですね。まぁ、魔物によって姿形が違いますし、習性というか臭いに対しての影響の受け方も違うんでしょう。嗅覚が鋭いかどうかにもよるのかもしれません」
見せてもらった本には、主に人に対する香りの作用について書かれているけど、魔物にも同様の効果が見られるといった内容もあった。
どの魔物に対してとか、人と全く同じ効果なのかまではあまり書かれていなかったけど。
「それと確か……あぁ、ありました。ここから先に、魔物に対して香りを使った作用などが書かれていますね」
百ページ程の「香りの作用」という本の、残り十ページ程度といったあたりからは魔物に対しての作用について書かれてあった。
ページ数も少なく、記述も人に対するものより詳細が書かれていないようだけど、それは魔物に対する研究が人の物よりもさらに進んでいないからだろう。
研究を積極的にしているのかも微妙なところだし。
「えぇっと……魔物避け、魔物を引き寄せる。まぁここまではなんとなくありそうなのはわかりますけど……魔物に幻覚を見せて混乱させる、かぁ。これはちょっと危険そうですね」
「これには書かれていませんが、人に対しての効果次第で扱いに注意が必要だと考えられますね。まぁ、今回問題になっている、興奮させる効果とはまた違うようですが」
幻覚作用のある香り……まぁ考えるだけで色々と危険な気しかしないが、その香りを作るための方法が、俺の知っている複数の植物を調合した物を、手順に従って使うという内容だった。
何度か、ラクトスなどに卸す薬草として作った事があるな。
まぁ調合して使う物ではなく、薬草その物を煎じて飲む物としてだから、人に対しても同じく幻覚作用をもたらす事はないんだろうけど。
……この方法は、危険なので試すのも考えないようにしておこう。
「魔物避けは、一部では使われているな。そこまで強い効果ではないが、旅をする商人などには重宝される。まぁ……少々どころではなく高価なので、使用する者は限られているし、香りが作用しているのは今初めて聞いたがな。お守りなのだが……そうか、香りによってだったのか」
魔物を引き寄せる方はまぁ、髪油とかそれに近い物として、エッケンハルトさんが言っている魔物避けの香り。
こちらは香りが魔物を近寄らせない理由になっている、というのはあまり知られていないお守りのような物らしいが……香りとお守りといえば、匂い袋みたいなものかな? 振り撒くのではなく持ち歩く物らしいし。
本には作り方などは書かれていないけど、エッケンハルトさんが高価と言うくらいだから、作るための材料に高い物があるんだろう。
それか、手間がかかるとかかもしれないな。
……エッケンハルトさんの言う高価、という基準がどこにあるのかにもよるけど。
公爵様だからなぁ……多少高価な物というニュアンスに聞こえたけど、実際は目が飛び出るほどの値段が付いているとかもありそうだ。
まぁ、それに関しては今は関係ないから置いておこう。
「実は他にも香りによって……というのは多いようですね。香り、と言うには憚られますが、魔物を寄せ付ける手段として血の臭いなどもありますから」
「まぁ、血の匂いはよく言われるし、魔物を集める手段としても使えるな。魔物を一部の地域から排除する時などに有効だ」
「集めて一網打尽にって事ですか……」
魔物のいない安全地帯を作るために、集めて排除するためにってところかな。
血の臭いなどは、肉食系の魔物を集める手段として使われるらしく、適当な魔物を狩って誘き寄せる事もあるとか……もちろん、いけにえ的に人の血を使ったりはしないだろう。
それもあって、魔物の多い森の中などでは怪我をして血を出した場合や、魔物と戦った跡などは処置して血の匂いを広めないようにするみたいだ。
怪我の治療や、倒した魔物は埋めるなり運び出すなりするって事だな。
「これらのように、香り、臭いというのは魔物に対しても有効なわけですね。タクミ様がおっしゃられていたように、フェンリル達を興奮させる香りというのも存在しておかしくありません」
アロマとかとは随分話の方向性がズレたけど、ともあれ香りや臭いというのは人ならず魔物にも作用するという事で間違いない。
クレアも、俺の隣で深く頷いている。
「そうですね。それヴォルターさん、そういったものに心当たり……というか、本に書かれていたりしませんか?」
「ふむ……確かこちらに……」
改めて、興奮作用をもたらす香りながないかヴォルターさんに尋ねると、今度は「香りの全て」という題名の本を開いた。
本当に題名通り全ての事が書かれている、というわけではないんだろうけど、他の本よりかは詳しく多岐にわたる記述があるってところだろうな。
ヴォルターさんがめくるページを覗き見ても、びっしりと文字が書かれているようで、内容の密度が濃いようだ。
「……ありました。人や魔物、種族などによって違うようではありますが」
ある程度ページをめくったところで、ヴォルターさんの手が止まり、本の向きを俺に見やすいように示してくれる。
そこを見ると、興奮作用を及ぼす香りについての記述があった。
人間や獣人だけでなく、魔物も種類によって作用される香りが違うようではある。
「えっと……鳥型、獣型、人型……オークとかトロルドのような、二足歩行の魔物は人型に分類されるんですね」
「はい。鳥型は翼を持ち空を飛ぶ。獣型は四足で地を駆ける。人型は二足で手を使い器用さがある。といったところでしょうか。例外はありますが」
どの魔物がどの分類か……まで詳しくかかれていないが、人型の魔物の例としてオークやトロルドと書かれていた。
他に、水棲型、地海棲型などがあるのは多分、魚類と両性類ってところだろう。
もちろん、人間は人型に分類されるようだけど、獣人は人型と獣型の特性があるのでヴォルターさんの言う例外みたいだな。
基本的に二足歩行で、人間と同じく手を使って器用ではあるけど、デリアさんが走っていた時みたいに四足のような恰好になったりもするみたいだし、獣らしい感覚も持っているから――。
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