香りについて話しました
「ありがとうございます、助かります。似たような記述とわかっているって事は、ヴォルターさんは読んでいるみたいですね」
「もちろんです。全て、とは言えないのが少々残念ではありますが、あの図書室にある物はほとんどに一度は目を通しておりますから。私を呼んだのは、これらの本に関してでしょうか?」
自負するように言うヴォルターさん……セバスチャンさんは、知識を蓄えるだけでなく実践も交える事で実になる、というような事を言っているみたいだけど、こういう時は知識だけでも助かる。
内容を読んでいてくれるというだけでも、今から皆で本の中を探す手間が省けるんだから。
「あぁすみません。その本の事もあるんですけど………」
とりあえず、ヴォルターさんに執務室に呼んだ理由と、ルグリアさん達の報告に関してを伝えていく。
特に、香りというか臭いによって、フェンリル達の様子が変わったと思われる事などを重点的に。
ちなみに、ルグリアさんがヴォルターさんを探しに庭へ出た時、レオ達はフェンリル達からの聞き取りの途中だったらしい。
セバスチャンさんはエルケリッヒさんとかとも一緒に、そちらにいるとか。
「成る程……つまりタクミ様は、フェンリル達の様子。それから以前見た魔物の様子が、香り……臭いによってもたらされていると?」
「全てが、とまでは断言できませんけど、もしかしたらと考えています。香りというのは、人だけでなく生き物の五感のうち、嗅覚を刺激して色んな作用をもたらす事があるみたいですから」
人より嗅覚が鋭い魔物、フェンリル達やレオにしかわからない香りというのもある可能性がある。
香りはそれこそ、目には見えないけどリラックス効果をもたらすアロマ、とかも地球ではあったからな。
こちらの世界では馴染みがないかもしれないけど。
「それと、以前クレアやライラさん、それとルグレッタさんから聞いたんですけど……今よく使われている髪油は、魔物を引き寄せるとか?」
「妹からですか?」
「そう言えば、タクミさんに話しましたね……」
「一部の魔物ではありますが、好む匂いらしく魔物が寄って来るのは確かなようです」
俺の言葉に、ルグリアさん、クレア、ライラさんがそれぞれ答える。
この屋敷に来る前、移動中の馬車の中で女性としてのアピールポイントというか……男性が目を引く一つとして髪の話をする中で、髪油の事を聞いた。
まぁそこから、椿油の事を思い出して作ってみようとなったんだけど。
フェンリル達が好む匂いだったみたいではあるけど、あちらは魔物が寄せ付けられないといいなぁ、と今更ながらに思う。
「ふむ、髪油……か。確かにそれもタクミ殿の領分といえばそうかもしれんな。私は必要がないので詳しくはないが、分類としては薬品として扱われている」
「俺も男なので、エッケンハルトさんと同じく必要がなく、馴染みはないんですけど……植物性と動物性があって、植物性なら言う通りかもしれませんね。まぁ、全ての植物が作れるわけではないですし、詳細は長くなるので省きますけど」
日本ではどうだったか……薬品、という扱いじゃなかったとは思うが、厳密にはわからない。
シャンプーなどの洗髪剤を洗髪薬と呼んだりするので、近いと言えば近くて薬品扱いというのもわからなくはないかな?
まぁ、エッケンハルトさんの言うような俺の領分というのは、植物性の物に限られるけど。
『雑草栽培』で作れる植物は限られているため、全てが俺の領分になるかはともかくとしてな。
……もしかしたら、今使われている髪油は動物性の物だったりするのかもしれない。
日本ではそれなりに臭いを抑えた物ができているだろうけど、こちらではそれができていないとかかな……確か、動物性の油といえば馬油らしいけど、独特な臭いがするのもあるらしいし。
そう考えると、肉食系の魔物が好む臭いだから引き寄せてしまうのかも? まぁ、これはそのうち調べてみればいいか。
「ともかく、魔物が好む臭いがあって引き寄せてしまうなら、興奮させるような香りというのもあるんじゃないかと。クレア達と話していた事と、図書室に行った時に見かけた本が、今回の事と繋がったように思えたんです」
「それで、私にこの本を持ってこさせたのですね」
「はい」
人間だって、アロマで様々な効果を得る事ができるらしいし、場合によっては興奮作用があったりするものもある……と聞いた事がある。
まぁそれの用途はともかくとして、コカトリスの事を調べるために図書室へ行って本を探している時に、ふと本棚にある背表紙に香りに関する題名が書かれているのを、チラッとだけ見て覚えていた。
その時は目的とは全然違うし、関係ないから特に意識はしていなかったんだけども。
もしかしたらそれが役に立つ可能性が出て来るなんて、世の中わからないものだなぁ……本当に役に立つかどうかは、これからわかる事だけど。
「ヴォルター、どうなのかしら? タクミさんの言う通り、香り……臭いで意図的に魔物へと影響を与えるなんてできるの?」
「まぁ、当然ながら私は試した事がありませんが、書物に書かれている通りであれば可能です。影響という意味では、今タクミ様方が話していた髪油の香りなどもそうですね。一部であれ魔物を引き寄せるのであれば、それは影響を与えているという事になります」
「ふむ、どのように作用しているかはともかく、臭いによってなんらかの効果が表れるのなら、影響しているわけか」
クレアの問いかけに、ヴォルターさんが机に置かれた本を開きつつ答え、エッケンハルトさんが納得したよう頷く。
魔物がどのように考えて、髪油の臭いに寄って来るかはわからないけど……ともあれ「寄って来る」という行動を起こしている以上、それは影響されているのは間違いないってわけだな。
「そうですね……ふむ。ここからしばらく、香りによる作用などが書かれています」
「えっと……?」
ペラペラと「香りの作用」という題名の本をめくったヴォルターさんが、手を止めて俺に見せて来る。
そこには、俺がアロマと考えていたようなのと近い内容が書かれていた。
さわやかな香りで気分をすっきりとか、睡眠を深くする効果など……多少曖昧な表現が多い内容が書かれていたりするけど、それはこの世界で香りの研究がまだ途上だからかもしれない――。
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