レオ達に頼み事をしました
ルグリアさんから聞いた興奮状態になりかけていたフェンリルは、一部が鼻を鳴らして首を振ったり、唸ったりしていたため、奥もしくは周囲に何かがあるのは間違いないとルグリアさん達は考えたらしい。
あと以前レオが嫌な臭いを感じた時も、ルグリアさん達は同行していてよく知っているので、鼻を鳴らしていたフェンリルを見てもしかしたらとも思ったとか。
人間には感じられない、もしくは特に嫌だと感じないような臭いが、周囲に広がっている可能性があったみたいだ。
そこで、とりあえずルグリアさんと数名の調査隊は、フェンリル達を森の外へ向かわせるのと、興奮しかけていたのもいたみたいなので、落ち着かせるためにその場に残り、パプティストさん達に奥を調べるよう向かわせたらしい。
「正直、興奮状態になりかけていたフェンリルには、生きた心地がしませんでした。こちらに敵意を向けていなかったため、なんとか落ち着かせるよう動けました」
「二体のフェンリルだけでしたが……調査に協力してもらって、仲良くなっていたおかげでもあります。フェンリル達って、そのやわらかい毛で撫でる手などを包んでくれるように、私の事も色々と聞いてくれるんですよ……」
「パプティスト、それは今関係ない」
「おっと、失礼しました。申し訳ございません、タクミ様、公爵閣下」
「いえ……」
パプティストさんは、兜を被っていたらおどおどした様子はなくなって、他の人と同じように話してくれるんだけど……もしかしたらフェンリル達は、いい相談相手になってくれているのかもしれないな。
フェンリル達にとっては、人間の見た目の美醜なんて関係ないだろうし、のんびり屋なフェンリルなら黙って話を聞いてくれそうだし。
それはともかく、フェンリル達が興奮状態か……やっぱり、レオが以前嗅ぎ取った嫌な臭いと関係している可能性が高そうだ。
あの時レオは嫌がる以外に何もなかったが、一部のフェンリルはちょっとだけ興奮していたように思えるから。
……狩りで魔物と戦った後だから、興奮していたのもあるんだろうけど。
あとリーザも、何か気分が悪いとか自分じゃない何かが……みたいな事を言っていたな。
リーザもフェンリル達も、あの臭いが広がっていた場所を離れてから落ち着いたようだが。
「興奮したフェンリル達が怖いのは、俺もちょっと経験があるのでわかりますが……そのフェンリル達は、すぐに落ち着いてくれたんですか?」
「いえ……その場を離れるまでは、ずっと牙を剥き出し、唸るばかりで……目も鋭く、冷や汗が止まりませんでした。ですが、少し離れれば何も感じなくなったのか、おとなしくなってくれました。他のフェンリル達も手伝って下さいましたから、なんとか離れる事ができましたが」
って事はやっぱり、あの時の臭いが関係している可能性がさらに上がった……というか、ほぼそれしかないように思えてしまうな。
まだはっきりした事が少ないので、断定してしまうのは思考を狭めてしまうので、決めつけるのは良くないとは思いつつ、内心ではそれだろうと考えてしまっている。
「そうですか……もう一つ、フェンリル達からその時の状況を聞いたりは?」
「まだです。まずはこちらに報告をと。フェンリルから詳しい話を聞くならば、私達よりもタクミ様方の方が適切だと考えました」
「成る程」
まぁ、どういう事をフェンリルが言うかは話をしてからだが、ちょっとした感情や要求などは、仕草や鳴き声で多くの人と通じるようにはなっている。
それでもさすがに、何が起こったのかとか細かい事は意思の疎通ができる人がいないとな。
「レオ、すまないけどリーザと一緒にフェンリルから話を聞いてもらえるか?」
「ワッフ!」
「うん、わかった!」
俺はまだルグリアさんから話を聞いている途中なので、とりあえず聴取役をレオとリーザにお願いする。
レオ達なら、正しくフェンリル達から状況を聞き出してくれるだろうからな。
うとうとしていたのに、俺のお願いに元気よく答えてレオの背中によじ登るリーザ。
それを待って、すっくと立ちあがったレオが執務室の扉にのそのそと歩き出す……ゆっくり動いているのは、ルグリアさんとパプティストさんが扉の近くにいたからだろう。
二人共、レオを見てすぐに扉を開けて横に移動してくれた。
レオ達はこれでいいとして、他にも……。
「ハイディさん……に頼み事をするのは」
「いえ、構いません。私にできる事であれば、なんでもお申し付け下さいませ」
なんでも、というのに変な反応をしたくなってしまうが、今は冗談を言っている場合じゃないな。
「すみません。それじゃあアルフレットさん達、セバスチャンさんにもここまでの話をして、誰かをレオとリーザに付けて下さい」
「フェンリル達から聞き取った話を、記録、こちらに伝えるためですね。畏まりました」
「お願いします」
記録を取る、とまでは考えていなかったんだけど……そういうのも大事だったか。
ともあれ、レオ達がフェンリル達から聞き取った事を、俺達に伝える役目や、他にも考えてくれる人を増やそう、というのを考えてハイディさんにお願いしたわけだ。
全ての人とまではいわないけど、信頼できる人とは情報の共有もしておくべきだしな。
俺やクレア、それにエッケンハルトさんに一礼したハイディさんが、レオ達の後を追うように執務室を出て静かに扉を閉めてくれた。
真面目な報告を聞く場面だから、エッケンハルトさんのお目付け役はいなくて大丈夫だろう……さすがにこういう時に、ふざけたりする人じゃないし。
「すみません、話の途中で」
「いえ……」
まだ報告の途中だったので、ルグリアさんに謝って続きを聞く事にする。
フェンリル達の様子が変わってからは、ルグリアさんはフェンリル達を落ち着かせたりその場を離れるために残り、何かがあるとの確信からパプティストさんが周辺と森の奥の調査を担当したらしい。
「フェンリル達にはわかっても、我々では気付かない何かがあるのかも、と思いましたが……調査隊である以上、わからないという事も調べないとなりませんからね」
そう言って、ルグリアさんから話を継いで調査の話をしてくれるパプティストさん――。
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