何故か食費が安く済んでいるようでした
「手っ取り早いのは、タクミさんの名前を使った……『タクミの薬草園』とか、場所から『ランジ村の薬草園』でもいいんですけど……」
「俺の名前が前面に出るのはちょっとなぁ。ランジ村の方は、ハンネスさんに言えば許可してくれるだろうけど」
目立ちたいわけでもないので、自分の名前を屋号に使うのは憚られるな。
ランジ村の名前ならまぁ、村長のハンネスさんも村の人達も許可してくれそうではあるけど、それはそれで味気ない気がしないでもない。
だからって、良さそうな名前をすぐに思いつくわけじゃないんだけどな。
「それに、クレアもいるわけだし俺の名前だけってのもおかしいからね」
「タクミさんの『雑草栽培』が元になっているので、私の事は気にしなくてもいいんですが……」
「ははは、まぁ自分の名前を付けないことへの言い訳みたいなものだよ。でもなぁ、どうするか……」
いっその事、レオやリーザの名前を……と思ったりもする。
とりあえずそれは最終手段として、新しくアルフレットさんから渡されていた予算関係の書類を確認しながら、屋号の候補を考えていたんだけど、ふと気付いた。
「……ごめんクレア、ちょっと話が変わるけど……これ、ちょっとおかしくない?」
「仕入れる食材に関する費用の書類、ですか? んー、見る限りではそこまでおかしなようには思えませんけど……」
書類の一つにあった、食材費に関する内容の数字が大体考えていたのと違うのに気付き、クレアにも見せてみる。
なぜか、というか俺が厨房によく出入りして、ヘレーナさんと料理に関する話をしているからだろうけど、とにかく食べ物関係の書類はクレアより先に俺へと回されるようになっていた。
ヘレーナさんを雇っているのはクレアというか公爵家なんだけど、よく関わっている俺から先に見た方がいいだろうという事らしい。
まぁ、クレアは気にしていないし、どちらが先でも俺が見るのは変わりないんだから、別にいいんだけども。
「そう、なのかな? 考えていたより、全体の数字が少ないと思うんだけど……」
細かい部分はまだ勉強中、というかこの世界でどの食材が仕入れにどれくらいかかるかとか、まだよくわかっていない部分があるので、書類を見つつ覚えていっているんだけど……。
ただその書類の最後、全仕入れの合計金額が参考資料として見せてもらった、別邸での金額より少なくなっているのが気になった。
どこかで間違ったのかと見直しても、計算が間違っているわけでもないし、大まかには何処かで過小の費用計算になっている仕入れ品目があるわけではなさそうだ。
「まぁ、安く済む分にはいい事だとは思うけど、ちょっと気になって」
屋敷にいる人数が百人以上で、レオやシェリーだけでなくフェンリルも数十体いる。
参考に見せてもらった別邸の方も、フェンリル達が来た後の物で、こちらの屋敷は従業員さんが、別邸の方は使用人さんと護衛さんが多かったから、人数もフェンリル達の数もほぼ同じくらい。
……さすがに細かい数は違うが。
それでも明らかにこちらの屋敷の方が、食材の仕入れにかかる金額が少ないのはどういう事なんだろう? しかもそれに伴って、料理長であるヘレーナさんから提案されている予算も低い。
ちなみに、一日にかかる食費としては金貨十枚前後で、平均的な一人の給金の半年分くらいだったりする。
レオもそうだけど、フェンリル達もよく食べるからなぁ……大体三、四人分ってとこか。
まぁ、食材費は今の所公爵家から出ているし、これより高くても安くても、キースさん達の試算では問題ないらしいんだけども。
「安いのならそれでいいと思ってしまいますけど……確かに気になりますね」
俺が持っている書類、食材費やそれに対する予算などが書かれた物を覗き込みながら、クレアが呟く。
そんな俺達に、アルフレットさんが立ち上がって近付いてきた。
「……最近、特にこちらの屋敷に移ってからですが。使用人や従業員達の間で、甘い物を避ける傾向にあります。こちらを」
「甘い物を? えーっと……」
言いながら、俺達に二枚の書類を差し出すアルフレットさん。
そこには、白砂糖などを含む甘い食べ物……甘味などの仕入れ額をまとめた物みたいだ。
白砂糖はこの世界では高級品で、普段の食事などでもあまり使われないけど、少量ながら仕入れて少しだけ料理に使ったりもする。
アルフレットさんから受け取った書類を見ると、その白砂糖や甘味料などを仕入れる量が、それぞれ別邸とこの屋敷とで見比べられた。
「仕入れの量が減っていますね。だから、全体の食材費が安かったんですか? しかし、どうして急に甘い物を避けるように……」
白砂糖は、それこそ日本にあったようなふんだんに使ったお菓子などを作ったりしたら、全体の食材費が一気に数倍……いや、数十倍に膨れ上がるくらいの高級品だ。
だから白砂糖を仕入れる量は少なめなんだけど……それがさらに減った理由、アルフレットさんが言っていた皆が甘い物を避けるようになった、というのが気になる。
「一部の者達は、旦那様とクレア様のお二人の甘い雰囲気を見ていて、それで満足しているから……と言っていますね」
「え、俺達!?」
「私とタクミさんが!? そんな、甘い雰囲気なんて……」
アルフレットさんの予想外の言葉に驚いたけど、クレアはちょっと嬉しそう。
確かにところかまわず甘い雰囲気というか、イチャイチャしていたのは間違いないけど、そこは喜ぶところじゃないと思うよ、クレア。
「さ、さすがにそれで本当に甘い物を食べなくなったりは、しないんじゃないですか?」
「はい、もちろんです。まぁ、一部の者たちがそう揶揄しているだけですね。気持ちはわかりますが……」
……やっぱり、もう少しクレアと自分たちの世界に入るのを自重した方がいいのだろうか?
「本当の所は、多くの物がダイエットに興味を持ったからです。旦那様から、カロリーという考えが伝わった事が原因かと」
「俺から……そういえば前に、カロリーについて話しましたけど」
いつだったか、ダイエットの話のついでに言ったような気がする。
白砂糖、というか甘味料なんてほとんどカロリーの塊のようなものだから、それで甘い物を避けていたのか。
スクラロースとかのような人工甘味料なんてないからなぁ……あれはあれで、人体への影響が懸念されるとか言われているけど――。
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