エッケンハルトさん達に思わぬ事を仕掛けられました
「知っているとは思うが、領主で公爵家の当主のエッケンハルトだ。皆、我が娘のクレアとタクミ殿の下に集った事、感謝する。また、無理をする必要はないがそれぞれできる限り力になってやってくれ」
など、公爵様であるエッケンハルトさんからの挨拶。
注意はともかく、クレアの締めで緩みかけた大広間の空気がピリッと引き締まった。
さすが公爵様だけあって、こういう時はちゃんと迫力を込めて堂々とした言葉を紡いでいる。
日頃、俺やクレアが苦笑する事の多い人と同じとは思えない……なんて考えるのは失礼かな?
……いや、こちらに一瞬だけ顔を向けて口角を上げたので、何かを仕掛けてくるつもりのようだ。
やはりエッケンハルトさんはエッケンハルトさんか、と考えながら何を言われてもいいように気を引き締めた。
「いや……後々は、私の義理の息子になるタクミ殿に協力を、という方がいいのかな?」
「ち、ちょっとお父様!?」
「ヒューヒュごふっ!」
楽しそうに笑いながら、こちらを見るエッケンハルトさん。
ここにいる大体の人は知っているはずだけど、それでもどよめきが起きた。
急に言われて驚き戸惑っているクレアを含む、一部の人を除いてだけど。
あと部屋の隅の方で、フィリップさんが茶化そうとする声を上げている途中に、横からヨハンナさんがよく見る肘鉄が決まって黙らされていたりもする。
ある意味仲がいいなぁ、あの二人は。
「私も、タクミ殿なら何も文句はないし、私が認めている男でもある。レオ様の事もあるが、それを除いてもだ」
「うむ、ハルトも言っておるが……ここに来てから、クレアとタクミ殿の事をよくよく見させてもらった。まぁ、直接話して既に認めているし、今更だがな」
「そうよね。タクミさんは雰囲気もそうだけど、レオ様やリーザちゃん、クレアや私達。それにフェンリル。それだけでなく使用人やここにいる者達にも、穏やかに優しく接している姿を何度も見たわ。真面目なようだし、私達の前でもはっきりと隠さずクレアとの事を認めて……まぁ、様子を窺っていればいい逃れようとしてもできないくらい、二人の仲がいいのはよくわかるのだけれどね」
エッケンハルトさんだけでなく、エルケリッヒさん、マリエッタさんまでもが追従し、それぞれが認めているという姿勢を言葉で示した。
それは嬉しい事ではあるんだけど……急にこの場で言うなんて。
エッケンハルトさんだけなら、備えていたので少し驚くくらいで済んだけど、さすがにこれは照れてしまうというか恥ずかしい。
「エルケリッヒさん、マリエッタさんも……」
「お爺様にお婆様ったら……もう、皆の前で恥ずかしいです……」
恥ずかしさで顔が熱いから、きっと俺は赤くなっているんだろう。
隣で、首まで赤くなっているクレアとどっちが赤いかは、鏡がないからわからないが。
「姉様と義兄様はいつでもどこでも仲がいいんですよー!」
「まぁ、そうなのね。ふふふ……」
果てには、ティルラちゃんまで嬉しそうにそう言って、マリエッタさんが微笑みながらこちらに視線を向けた。
近くでセバスチャンさんがしたり顔で頷いている様子を見るに、また義兄と呼ぶように言ったんだろう。
兄も欲しいって言っていたし、ティルラちゃんなら喜んで言うだろうし、今も以前も楽しそうに言ったんだが。
「さ、さすがにこの場でそれはちょっと……恥ずかしいですから。そ、そんなんじゃないですから! いえ、クレアとというのは本当ですけど……」
「そ、そうです! お父様、お爺様とお婆様、それにティルラも!」
そこかしこで、どよめきから俺達を祝福してくれているような声が聞こえ始める。
いや、認めてくれるとか、祝福してくれるのは嬉しいけど、色々とまだ早いから!
そう思い、クレアも同様なのか二人で止めようと声を出す……クレアは恥ずかしさが強いからかもしれないが。
そんな中、すぐ近くにいるレオの背中に乗っているリーザが首を傾げた。
「んー? パパとクレアお姉ちゃんの仲がいいのは、本当だよね? 二人共、顔が真っ赤になってるけど……どうしたんだろう、ママ?」
「ワフゥ……」
リーザは誰から言わされた、なんて事もなく、俺とクレアが否定しようとしている雰囲気を感じ取って、疑問に思ったんだろう。
乗っているレオにリーザが問いかけるが、レオの方は深いため息を吐いて首を振るだけだった。
くそう……レオだって、随分前に俺に対して番をとか言っていたのに……いやまぁ、本当に番というか、この先に関してはこれからなんだけど。
なんて、自分で自分の考えに照れたり恥ずかしくなったりしながら、挨拶会は混乱のままに終わった。
……エッケンハルトさんだけでなく、エルケリッヒさんやマリエッタさん、それにティルラちゃんと、リーベルト家の血筋なんだなぁと思う一幕だったなぁ。
からかわれているというか、標的は俺だけでなくそのリーベルト家の一人であるクレアもなんだけど――。
「私はこの屋敷に来てからですが、他の使用人だけでなく旦那様や大旦那様、大奥様も、タクミ様とクレアお嬢様の仲の良さを見せられていたのです。その鬱憤……とまでは言いませんが、色々溜まっていたのでしょう」
「私達使用人はともかく、ランジ村の者達も含めて従業員の一部は、触れていいのかどうかと考えている者もいたようですからね。いい機会でした。もっとも、大半の者は扇動されて盛り上がっているようでしたが」
「ははは、そうなんですね……」
あれからしばらく、エッケンハルトさん達リーベルト家、クレア抜きの人達に誘導……アルフレットさんの言い方を真似すれば、扇動された人達が盛り上がりに盛り上がって、何故かクレアと並んで一人一人と握手をして祝福されるまでに発展した。
その後、使用人さんを除いたほぼ全員と握手をして、落ち着いた頃合いにクレアの執事長のヴァレットさんとアルフレットさんが話しているのを聞いて、苦笑する。
俺やクレアが、ちょっとした時に自分たちの世界に入ってしまうのは、散々見られていたのはわかっていたけど……。
ヴァレットさんの話を聞くと、さっきみたいに茶化すとは言わないまでも、何かイベントのようにしたいくらいだと思われていたのかもしれないな――。
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