時間を忘れて本を読んでいたようでした
コッカー達が連れて来られた時には、三歩歩いたら忘れる鳥頭、みたいにラーレも言っていたし、俺も想像してしまったけど……本当にそういうわけではなく、ただ血縁みたいな部分の考えが薄いからって事みたいだな。
これなら、無精卵くらいは貰えるよう交渉する余地はあるかもしれない。
それ以外にも、コカトリスの能力としてあまり強くない石化能力など詳しく書かれている事を、メモを取りながら読み進めていった。
ヴォルターさんと見つけた時に、少しだけ気になった記述、屍肉を好むというのは森の掃除屋としての一面みたいだな。
特別屍肉に対して執着を見せるとかではなく、単純に魔物同士が争ったりした後、放置されたやられた魔物も食べるって事らしい。
魔物の肉を食べるのも必要なため、不足している時には群がる時もあるとか……早い話が、動物性たんぱく質が不足がちな時は、屍肉に突撃するとかそんな感じだろう。
臆病で自分から魔物や人を襲う事はかなり珍しい事らしいので、そういった手段で植物以外から栄養を得ていると考えればよくわかるかな。
「ふぅ……とりあえず書かれているのはこれくらいか。次は従魔に関する本を……」
「ワフ、キューン……?」
「お、レオか。どした……?」
コカトリスの項目を読み終わり、魔物図鑑を閉じて別の本……まずは「従魔とは何か」という題名の本を手に取って読み始めようとしたら、レオがいつの間にか俺の横に来ていて、服を口で軽く引っ張りながら鳴いた。
さっきまでリーザと楽しそうにじゃれ合っていたはずなのに、どうしたんだろう?
「ワウ」
「あ、寝ちゃってたのか。そういえばよくよく思い起こしたら、静かになっていた気がするな」
レオが視線で示した先では、リーザがベッドに上半身だけを乗せて寝息を立てていた。
俺が魔物図鑑を読んでいる間に、寝てしまっていたらしい。
今日は夜の鍛錬にリーザも参加したし、昼はレオ達の魔法を見てはしゃいでいたから、疲れもあったんだろう……勉強も頑張っていたからな。
「って、もうこんな時間だったのか。疲れてなくても、リーザは眠気に負けるのも当然か」
机の時計、ユートさんからこの屋敷に来る前にもらったものを確認すると、いつも寝ている時間よりさらに遅い時間……一時を短針が指していた。
長針がないので、分単位では時間がわからないけどかなり深い時間だ。
地球だと、大体二時過ぎとかだろう。
魔物図鑑を読み込むのに夢中になって、いつの間にか時間が過ぎていたみたいだな。
「ワフ。ワフゥ?」
そろそろ寝ないのか? というレオの少し心配するような鳴き声。
まぁ、借りた本は貸し出し期限があるわけでもないし、今すぐ全ての本を読みつくさないといけないわけではない。
無理をしてまで読み続ける理由もないので、今日はもう寝た方が良さそうだな。
「もう少し……と言いたいところだけど、明日は明日でやる事があるからな。そろそろ寝ようか」
「ワッフ」
レオにそう言って撫でつつ、座っていた椅子から立ち上がり、リーザの所へ。
「うにー」
「よしよし、ゆっくり寝るんだぞ? よっと。リーザも成長してるんだなぁ」
「ワウ?」
「いや、なんでもないよ」
上半身だけベッドに乗せて寝ているリーザを抱えて、むずがるのをなだめながらちゃんとベッドに寝かせる。
毛布をかけつつ呟いた俺の言葉にレオが反応するが、なんとなく口に出すとレオに叱られそうなので、首を振って誤魔化しておく。
単純に、似たような事があってリーザを抱えたこれまでよりも、少し重く感じたってだけの事なんだけどな。
太ったとかそういう意味ではなく、成長して少し体が大きくなったというか、身長が伸びたとかそういう事だろう。
年齢的にはまだまだ育ち盛りだから、気付いたら大きくなっているとかもあるからなぁ。
ちなみにレオに叱られそうだと思ったのは、女の子だからでもあるし、意外とそういう事に対してレオは厳しかったりする。
マルチーズだった以前、拾った時の子犬だった頃と比べて重くなったなぁ……なんて言ったら、しばらく拗ねていた事もあった。
そう考えると、シルバーフェンリルになる前から不思議な部分はあったんだなと思う。
「それじゃレオ、おやすみ」
「ワゥフ」
「むにー」
ベッドの傍で丸くなるレオを撫で、俺もベッドに横になりつつ起こさないように寝ているリーザも撫でる。
寝言なのか、撫でられた反応なのかはわからないが、リーザのよくわからない声に顔を綻ばせながら、目を閉じて夢の世界へと旅立った――。
「おはようございます。――えーと……全員集まりましたかね?」
「お父様とお爺様以外は、集まっていますよ、タクミさん」
大広間にいる人達に挨拶をしつつ、中へと入る。
大勢が集まっているのを見まわしながら、こちらを見ていたクレアに近づいて聞いてみると、エッケンハルトさんとエルケリッヒさん以外は既にいるようだ。
今日は、朝食後に薬草畑の運営関係者と公爵家関係者、それからランジ村の一部の人達が集まった挨拶会になっている。
とはいっても、とりあえず皆へのあいさつに関しては屋敷に来てすぐやったし、薬草を使って新たに目玉として売り出す薬……ミリナちゃんが作ったものに関しては既に発表してあるので、本当にお互いがそれぞれ自己紹介をする、というだけの場だ。
昨日ようやく、薬草畑の関係者最後の一人が屋敷に到着して、全員が揃ったから一応こういう場を作ったというわけだ。
まぁ、昨日の夕食や今朝の朝食では、ほとんどの人が集まって食事をしているため、本当に念のためという意味合いが強い。
屋敷で働く使用人さんの一部や、護衛さんも全員いるわけじゃないのは、以前の発表会の時と一緒だからな。
それに、顔を合わせていても人数が多いから、名前と一致していない人もいるみたいだからな……主に俺だが。
「エッケンハルトさんはともかく、エルケリッヒさんも朝が弱いんですね」
「血筋でしょうか……私は、そうでもないのですが……」
「ははは、ティルラちゃんも朝から元気な事が多いから、もしかしたら男だけなのかもしれないね」
大広間に集まっている人達による、ざわざわとした喧騒を聞きながら、クレアと話す。
始まる前のちょっとした雑談のネタは、朝の弱いエッケンハルトさん達だな――。
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