背後にルグレッタさんが忍び寄りました
「僕がレオちゃんをラスボスじゃなくて、裏ボスって言っている理由がわかったかな?」
「まぁ、なんとなく……?」
それなりにしかゲームをしてこなかった俺には、わかるようなわからないような……?
あ、そういえば、伯父さんの息子……つまり俺にとっては従兄弟にあたるあの人なら、付いていけるかな? ゲームに詳しかったし、俺がやったことのあるゲームの多くは、あの人の影響だし。
まぁこちらの世界にはいないので、話が合うとしてもそれは叶わない想像になるけど。
「とりあえず納得してくれたならそれでいいかな。それに、ラスボスは他にいたからなぁ……」
いたんだ、ラスボス……というか、納得している程じゃないんだけどまぁいいか。
その言い方だと、過去形だから既に倒した後か何かなんだろうけど……聞きたいような聞きたくないような?
あ、でもこれ以上熱く語られたら、ユートさんの後ろにいるお方を待たせてしまうから、止めておこうかな。
「さて、お話は終わりましたか……ユート閣下?」
底冷えするような声音で、ユートさんの後ろから頃合いを見計らって声をかけてくるルグレッタさん。
熱く語っていたので、邪魔しないよう静かに背後に立っていたんだけど、気づかないユートさんはそれだけ熱心に語っていたという事なんだろう。
「ぼ、僕の後ろを取って、そんな声を出すのは……もしかしなくても、ルグレッタ?」
体を硬直させ、こめかみ辺りから汗を流しつつぎこちない声を出すユートさん。
「はい、ルグレッタです。おとなしく仕事をしているふりをして、私を部屋に閉じ込め、さらに外からドアの取っ手を動かないように固定されたルグレッタですよ」
そのユートさんの後ろから、さらにルグレッタさんがニッコリと笑みを浮かべて言った。
ユートさんは俺の方を見ていて、その後ろにいるルグレッタさんの表情は見えていないけど、正直怖い。
「ユートさん、そんな事をしたんだ……」
そりゃ怒るよなぁ。
ルグレッタさんの言う通り本当に振りだったかはともかく、仕事をほっぽり出してしかも部屋に閉じ込めたとは。
俺に伝え忘れたらしい、呪文の言語に関してを思い出したからなのか、それともただ逃げ出す機会を窺っていたのかはわからないけど、ドアを固定までするのはやりすぎだ。
というか、ルグレッタさんはどうやって閉じ込められた部屋から抜け出して来たんだろう?
「い、いいや! あの部屋から抜け出すなんてルグレッタにはできないはず! さては偽も…ひぃ!?」
背後から感じる恐怖を振り切るように、決めつけながらババッと俺の横へと飛んだユートさん。
さては……の辺りで振り返って、最後まで言い切る事ができず、顔を恐怖でひきつらせた。
「ほう? 閣下は私が偽物だと思うのですか? どうですか、本当に偽物ですか?」
「い、いえ……本物のルグレッタ様です……」
「私に様など、付けなくてもいいのですよ? 私はしがないお目付け役。ですがそのお目付け役でも、やらなければいけない事があるのですよ」
「ルグレッタは、一応僕の護衛じゃなかったかな~なんて?」
一応って、まぁ実際に必要かはともかく名目上、ルグレッタさんは護衛だったはず。
ルグレッタさん本人も言っているように、護衛というよりもあちこち行ったり来たりしているユートさんの正確な居場所を王家が知っておくための、お目付け役というのも本当みたいだけど。
「レオ様やフェンリルが守るこの場所、この周辺で護衛など必要ないでしょう? そもそも、ユート閣下は護衛など必要ないと言っていたはず。だから、お目付け役なのですよ?」
「そ、そんな事も言ったかなぁ? ちょっと覚えがないなぁ……」
「全く……あの部屋から抜け出すのにどれだけ苦労したか。時間にしてはそこまでかかりませんでしたが……」
「えーっと、どうやって抜け出したのかなぁ?」
ユートさんが恐る恐る、閉じ込めた部屋からの脱出方法を聞くが、実は俺もちょっとだけ興味がある。
まぁ、今ここで聞かなくてもいいんだけど、聞けるなら聞いておきたい。
……さすがに屋敷の一部をというか、壁を破壊してとかではないと思いたいけど。
「簡単な事です。あの屋敷には常時、誰かがいるのですから。大きな声を出せば誰かが駆けつけてくれます。まぁ、もし誰もいないようでしたら、ドアもしくは薄くなっている壁。それか窓を割って外に出るつもりでしたが……いえ、タクミ様方に迷惑が掛かってしまうので、本当にはやりませんよ?」
なんの事はない、大きな声で誰かを呼んで外からドアを開けてもらったって事らしい。
屋敷の中には使用人さんや、一部の護衛さん、従業員さんなど、それなりに人がいるわけで、ドアが閉まっていても大きな声を出せば聞こえるか。
ある程度というか、結構防音性に優れていたりはするんだけど……まぁ、よく考えればユートさんが使っている部屋にも、伝声菅があるからな。
それを使って誰かを呼ぶくらいはできるか。
ただ、もし誰も来なかったらまだ新築の屋敷の一部が破壊された可能性があるのか。
ルグレッタさんは、実際にそんな事はしないと言っているけど、雰囲気からもしもの時には辞さないとも言っているように聞こえたりするため、良かったと安心しておくべきだろう。
あと、壁などはまだしも、窓からなら内側から開けるので何も壊れないと思うけど、ユートさんが使っている部屋は三階だから、ルグレッタさんが怪我をする可能性も高いので、そちらも止めて欲しい。
とりあえずユートさんには、屋敷が破壊される可能性があるようなイタズラはしないよう、後で注意しておこうと思う。
今は、ルグレッタさんの邪魔にならないように、黙っておくのが一番だろうけど……怖いからな。
「はぁ……とにかく、閣下とのらりくらりと問答をしている場合ではないのですよ。先程は、熱く語っておられたので、邪魔はしませんでしたが……もう十分でしょう?」
ユートさんが思い出した事を俺に伝えるまで待ってくれていたんだろう。
熱っぽくゲームとかラスボスとか裏ボスとかについて、話していたのに巻き込まれたりしたくなかったのかもしれないが。
ユートさんに問いかけるルグレッタさんは、若干だけど静かな怒気のようなものが、半分くらい……三割、いや二割くらいは薄れた気がした――。
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