本邸周辺の事を聞きました
「人の数も多いから、騒ぎになればそれだけ大きくなるという事でもある。まぁ、ラクトスは好奇心の強い者の多い街だから、問題なかったというのもあるだろうが」
「そうですよね……」
人の出入りが激しい街でもあるため、ラクトスは好奇心が強い人が多いらしく、大きな問題にならなかったのかもしれない。
街から街、村から村へと旅をする人達が集まっている場所だからこそ、かな。
「でも、いずれはタクミさんと一緒に、見て回ってみたいですね。私は本邸からしばらく離れていたので、少しは変わっているかもしれませんし。それに、お父様も昔は本邸を抜け出して遊びに行っていたみたいですし」
「む、まぁそうだな……タクミ殿が興味を持つのであれば、いずれ本邸と街に招待しよう。公爵家としては、レオ様を招いておきたいというのもあるがな」
「そうですね、その時は是非よろしくお願いします」
ラクトス以上の大きな街かぁ……人が単純に多いのか、街の規模が大きいだけなのか、はたまたその両方か。
とにかく、いつか行くのが楽しみだ。
それこそさっきはラクトスでという話だったけど、そちらの街でクレアとデートというのも良さそうだ。
まぁまずは、ラクトスでだけど。
「それで、その街と本邸の近くに森があるのだが……」
興味は湧いたけど、実際に行くのはいつか又の機会があった時にという事で、リーベルト森林と呼ばれている森の話に戻る。
リーベルト森林と呼ばれてはいても、別邸とフェンリルの森や、ランジ村とその北の森とは違って、馬で半日程の距離くらい離れているらしい。
馬で、という部分が重要で、馬車ではない。
ちなみに、別邸からはラクトスへ馬車で約一時間、フェンリルの森へは二時間から三時間だから、かなり離れているのがわかる。
馬車って急ぎでもない限りは、自転車くらいの速度だからなぁ。
馬だとその倍くらいの速度が出るわけで……ちなみに、別邸からランジ村は馬車で約三日で、馬だと二日もあれば到着できる。
速度や時間などを考えれば、さらに半日足らずでラクトスとの往復ができるレオが、いかに速く走れるうえに、体力があるかがわかるな。
まぁ、そんな速度で走ったら乗っている人が振り落とされてしまう危険があるため、基本的には馬より少し速いくらいで走るけど。
馬の事はともかくとして、そのリーベルト森林というのはそれくらい本邸と離れているけど、最寄……と言っていいかはわからないが、公爵家の本邸に近いため、定期的に魔物を追い払ったり討伐したりして、魔物自体がかなり少ないとか。
大きな街もあるため、森から魔物が出て来て被害をもたらさないようにという事でもあるみたいだ。
だから、俺がフェンリルの森やこの村の近くにある森を想像して、一人で置いて行かれるのは危険過ぎると思っていたのは間違いだとか。
とはいえ全く危険がないわけではないようだけど。
ただ森の規模としては、フェンリルの森やランジ村北の森程広くはないらしい。
ランジ村の北の森はラクトス北の山から続くのもあるのと、フェンリルの森の方は元々この国の中でもかなり大きな森なんだとか。
想像していたよりは、危険な森ではないみたいだ。
「でも、危険が少ないとしても、一人だとかなり厳しいんじゃ……それに、放り出すって事は食べ物とか……」
「その心配はないぞ。あの森には食べられる物が多くあるからな。主に木の実だが」
木の実か……一概に木の実と言っても色んな物があるけど、とりあえず食べる物に困るとかはないみたいだ。
ならまぁ一人でもなんとかなる、のかな?
「魔物と戦えない者でも、魔物と遭遇しさえしなければ何も持たずに入っても生きていける、と言われていますね。実際にそうした人は……」
「私が、叩き込んだ者くらいだな」
言葉を切ってエッケンハルトさんを見るクレアに対し、何故かニヤリと笑いながら言った。
できるからと言って、わざわざそれを自分から試そうとする人はいないんだろうけど、叩き込んではいるんだな。
という事はマルク君とか、ラクトスのスラムからの子供達とかは……。
「もしかして、マルク君とかももう?」
「そういえば、あの者の他にも幾人か子供が来ていたな。もちろん、まずは森での洗礼を受けさせる方針で、叩き込んである。全員ではないが……中々に見込みがある者ばかりだったからな。スラムで育ったからか、根性がある」
「そ、そうですか……」
リーザに石を投げたマルク君は、まぁ捕まったうえに別邸まで謝罪に連れて来られたし、その事はもういいんだけど……関わらなければそんな困難な事にならなかったのに、と思わずにいられない。
あらゆる事が自由過ぎるくらいに自由だけど、食べる物に困る生活。
食べ物には困らないし頑張れば将来も安泰だけど、厳しすぎるし後々思い出して涙するくらいの訓練をさせられる生活。
どちらがいいかは、俺にはわからないが。
ただ、もちろんの事ながらまだ成人していない子供なので、森の中にも保護者というか見守るための人も配置しているらしく、安全は確保しているとの事だ。
……成人していたら、見守る事もされないのは過酷だ。
あと、兵士などの素質がなさそうだったり、嫌がった子供に対しては、ちゃんと保護して孤児院なりで育てるようにしているらしく、さすがにそちらは手厚い。
ラクトスの孤児院と違って、本邸近くの街や他の公爵領内の街の孤児院は余裕があるみたいだし。
ちなみに、それならラクトスの孤児院に入れない子供達もそちらに連れて行くのは? と聞いてみたら、少数に分けて少しずつ連れて行くのはいいらしいけど、いきなり全員をというのは難しいとか。
移送費も問題らしいけどそれだけでなく、公爵家がいきなりそんな事をすれば子供たちを攫っているとかあらぬ噂を立てられかねないと。
他にも、子供達ばかり贔屓している、みたいな事を言われたりする可能性があるとか。
……領地を治めるというのも、色々難しい問題や考える事が多いんだなぁ。
「まぁ、ラクトスの孤児院は建て替える……増築だったか? そうする事に決まっているからな。無理に子供たちを別の場所に移さなくてもいいだろう。父上や母上が、ティルラと共に問題に取り組むのなら、さらに問題もないと言える」
エッケンハルトさんの言う通り、ティルラちゃん達が取り組む事で孤児院に入れない子供達が、笑って過ごせるようになればいいなと思った――。
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