鍛錬は程々でも継続が大事みたいでした
「気にするな、と言っても気になるのは同じ男としてわかるがな。だが、悪巧みは私も好きな部類だから問題ない」
「悪巧みじゃありませんよ、お父様」
誰にも止められないように、というだけであってクレアの言う通り決して悪巧みではない。
「なんにせよ、あれだけクレアが自身の力を見せたのだ。それにタクミ殿は魔法だけでなく、剣の鍛錬も弛まずこなしているようだからな。そこにレオ様がいれば、危険などかけらもあるとは思えん。ましてや街の中だ。まぁ、不届き者がいるとしても、問題にはならんだろう」
初めてラクトスの街に行った時のように、絡んでくる人がいたとしても対処できるだろうし、レオがいてくれればどうとでもなるだろうからなぁ。
さすがにレオを街中で暴れさせるわけにはいかないが。
「最近は、他の事にかまけて別邸にいた頃程鍛錬はできていませんが……」
「なに、それこそ続ける事が大事なのだ。量が減ったのは大して問題にならん。もちろん、できる限り多くの量をこなす方が良いのは確かだがな」
継続こそ力なりって事だな。
こちらに来て新たにやり始めた仕事や、薬草畑とかフェンリル厩舎の手伝いなどをしていて、鍛錬の量は別邸より減っている。
けど、ティルラちゃんと一緒に最低限はやっているつもりだから、なまってしまう事はないだろう。
エッケンハルトさんのお墨付きも出たのは、心強くもある。
……これが、フィリップさん達のように護衛兵になるための訓練とかだったら、厳しく言われていたかもしれないが。
「だがまぁ、鍛錬ばかりでもな。タクミ殿は薬草で蓄積される疲労をなんとでもできるが、休息する事も大事だ」
「それは確かにそうですね」
疲労回復、筋肉疲労の回復など、『雑草栽培』で作った薬草があれば、体に蓄積される疲労はない。
言ってみれば、一日中ずっと鍛錬をする事だってできるわけだ。
とはいえ、精神的な疲労はさすがに回復できないので、休むのも必要だろう。
まぁ精神的に疲れたなぁと感じる事があれば、睡眠誘導の薬草で翌日スッキリではあるんだけどな。
この屋敷に来てからは、クレアにトラウマを見抜かれたあの日……集まった皆の前で、薬草畑の事や薬の発表みたいな事をした日に食べたくらいだけども。
使わないに越した事はないからな。
あと、レオとリーザ、それにクレアが癒しになってくれているので、よっぽどの事がない限り必要になる事はないが。
「でもお父様、これがフィリップ達護衛の者達だったら?」
なんて考えていると、クレアがちょっとした疑問のようにエッケンハルトさんへ質問。
俺がさっき考えていた、護衛兵のための訓練だったらという内容みたいだ。
「無論、何を甘えているのかと叱責したうえで、本邸近くにある森の奥地へと連れて行って放り出すな」
「……それはやり過ぎのような?」
予想通りというかなんというか、エッケンハルトさんからは厳し過ぎる言葉が返って来た。
いくら厳しく訓練をさせるためとはいえ、森の奥地で放り出されるのはさすがになぁ。
フィリップさんが、訓練時の事を思い出して思わず涙が出てしまうのもわかるというものだ。
「まぁ、あの森ならば危険は少ないですけれど……ちょっとやりすぎです、お父様」
「そうそう危険な目には合わないだろうから、問題はないだろう」
「問題ないのかなぁ?」
「いやなタクミ殿、おそらくタクミ殿は、あちらの森やフェンリルの森を想像しているのだろうが、本邸近くの森……訓練に使っているうちに、リーベルト森林と呼ばれるようになったが、そこでは魔物はほとんどいないのだ」
リーベルト森林って、エッケンハルトさん達の家名を付けて呼ばれているのか。
それだけ、エッケンハルトさんが訓練に利用しているって事なんだろうけど。
「魔物がほとんどいない……そうなんですか?」
「うむ。公爵家の当主が住む場所の近くであり、大きな街もあるのだが……」
「あの森はですね、タクミさん……」
エッケンハルトさんとクレアから、本邸近くの森やその周辺の事を教えてもらう。
遠くの方で、エルケリッヒさん達と何やら話している様子のセバスチャンさんが、こちらを凝視している気がするが……今回は諦めて下さい。
と、そういうわけでエッケンハルトさん達からの話だが、本邸がある場所近く、というかほぼ同じ場所にラクトス以上の大きな街があり、そこが公爵領で一番の都市になるらしい。
要は、日本でいう県庁所在地みたいなものだろう……県庁所在地イコール、県で最も栄えているとは限らないが、とりあえずとしてはそんな感じで考えておけば良さそうだ。
「ちょっと行ってみたいかなぁ」
ラクトス以上に大きな街と聞いて、興味が湧く。
というか俺、こちらの世界に来てからはラクトス以外の街に行った事がないんだよなぁ。
別に、他の場所に行きたくないわけではなく、単に行かなきゃいけない用がこれまでなかったからなんだけど。
今いるランジ村はともかく、ブレイユ村はちょっと無理してというか、興味があって行ったけど……ランジ村は今いるしなぁ。
「む、タクミ殿も興味があるか? なら一度、森に……」
「いえ、そっちではなくて街の方です。ラクトス以外に、大きな街って行った事ないので」
「そうだったな。なら、いずれ本邸に来る時にでも街を見て回るのもいいかもしれん。それまでには、レオ様の事も広めて一緒に歩けるようにしておこう」
「やっぱり、レオがいると不味いですか?」
俺にとっては可愛いと思えるレオだけど、人によっては恐ろしい魔物みたいだからなぁ。
ラクトスの人達はある程度慣れてくれたみたいだし、フェンリルも街に入っているから問題にはならないけど、それでもまだ怖がって離れて行く人もいるから。
「まぁ、そうですね。レオ様はできるだけご自由に過ごしてもらいたいのですが、おそらく大きな騒ぎになるかと。ラクトスにタクミさんとレオ様が初めて行った時よりも、という予想ができます」
目立つし、レオを隠して街に入るなんてできないから、場合によっては混乱が巻き起こる様子が想定できる。
ラクトスに初めて行った時は、勇気を振り絞って声をかけてくれたエメラダさんのおかげもあって、人が集まってレオに触れたがるくらいで済んだけど……。
もし同じ事が起きるとしても、大きな街であればもっと人が集まってしまって、収拾がつかなくなる可能性もあるからな――。
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