デートをするための計画を思い付きました
「大方、これでタクミ殿と二人でどこにでも行ける、とでも考えていたんだろう。もしもに備えて、自分の身を守るためというのも、薬草や薬の販売網のためここを離れる以外にも理由があったという事だ」
「……うぅ、お父様はごまかせませんでした」
いつもならやり込められるというか、圧されるのはエッケンハルトさんの方なのに、今回はクレアが俯いて押されている様子。
要は、エッケンハルトさんが言った事が当たっているというわけだ。
「えっと、俺と二人でっていうのは……?」
「つまりだな、タクミ殿。クレアは護衛を付けず、タクミ殿と二人で……場合によってはレオ様やシェリーもいるのだろうが、少なくとも人間はタクミ殿とクレアの二人で、ラクトスなり他の街や村なりに行こうと、そう考えていたんだろう」
「タクミさんとデート、したかったんです……」
頬をほんのり赤くしながら、企みが父親によって暴かれたクレア。
そういう事だったのか……別に隠さなくてもいいとは思うけど、おおっぴらに話したら恥ずかしいとか照れるとか、そういう事もあったのかもしれない。
あと、エッケンハルトさんに認められるかどうかは関係なく、セバスチャンさんを始めとした使用人さんや護衛さんに注意されるくらいはあるだろうし。
ちなみに、エッケンハルトさんがわかったのは魔法の練習をクレアが始めた時の事があったかららしい。
なんでもリーザを連れて帰った時、レオはいたけどエッケンハルトさんが別邸を抜け出して、俺と共にラクトスへ行った事をズルイ、と言いながら魔法の練習をしていたとか。
根に持っていたのかぁ……あの時、別邸に戻ったらエッケンハルトさんが色々と言われていたけど。
ともかく、あの時の事があって俺がクレアに魔法を教えてもらってから、もし自分がもっと魔法で危険への対処ができるようになれば、と考えて練習に打ち込むようになったらしい。
「す、すみませんタクミさん……」
企み、と言えるかはともかく、考えていた事の全貌や魔法の練習に打ち込む動機を暴かれて、申し訳なそうに俯き謝るクレア。
あの頃は、まだ俺の気持ちも固まってなかったのに、クレアの方はずっとそういう事を考えてくれていたんだと思えば、むしろ悪い気持にはならない。
「ま、まぁ俺と一緒に、というのが原動力になっていたんだったら嬉しいくらいだよ。それに、俺もレオがいれば大丈夫だろうとか、似たような事は考えていたんだけどね」
「タクミさんもですか!?」
「考えたのは、クレアに気持ちを伝えてからだから、俺の方が遅かったけどね……」
「それでも、タクミさんと同じ考えだったとわかって嬉しいです」
俯いて落ち込み気味だったのはどこへやら、前のめりになるクレア。
こういうところで全力なのは、クレアらしくて微笑ましいな。
「……ある意味、似たもの同士なのかもしれんな……ふむ、つまりタクミ殿は私にも似ていると。我が義息子よ!」
「いや、どさくさに紛れて何を言っているんですか。エッケンハルトさんには、あまり似たくないですよ」
「お父様に似たタクミ様はちょっと」
「娘と義息子が、父に厳しい……」
したり顔のエッケンハルトさんに、クレアと一緒に突っ込む。
今のは間違いなく突っ込み待ちだったろうし、いじけて見せているのもわざとらしい。
まぁ、尊敬している部分があるのは間違いないけど、色々と真似できない、真似しない方がいいなぁと思う部分のあるエッケンハルトさんだから、あまり似たくないというのは本心だったりする。
……公爵家の当主様にこんなことを考えていいのかは微妙だが。
あと、義息子と言われたのは……まぁクレアとの事を受け入れてくれている証左でもあるので、そこは否定したりしない。
この先クレアとずっと一緒にいられたのなら、そうなるわけだし。
もちろん、全く考えていないわけじゃないからな。
「あ、そうだ。それじゃ近いうちに……」
いじけた振りをして、かまってちゃんになっているエッケンハルトさんは放っておいて、思いついた事をクレアに話す。
内容としては、ティルラちゃんがエルケリッヒさんやマリエッタさんと共に、そろそろ別邸へと戻る日が近い事から、一緒に俺とクレアもラクトスまで行く。
場合によっては別邸で泊まる事も視野に入れつつ、ラクトスを二人で見て回るという計画だ。
「まぁレオもいるとは思うけど。でも、これならセバスチャンさんとかも、納得してくれると思うんだ」
「ふむ、中々考えたなタクミ殿。それなら、こっそり抜け出す必要もなく、一番うるさそうなセバスチャンを黙らせられるか」
放っておかれて諦めたエッケンハルトさんも話に加わって来た。
それはともかく、この案ならずっとクレアとだけ一緒に……という事にはならないけど、他から注意されたり止められたりしなさそうだ。
まぁ、レオはいるものとして、リーザはティルラちゃんといてもらう事だってできるわけだからな。
「要は、ラクトスの街をクレアと二人で見て回れたら、と思ってね。まぁ、移動中は二人だけじゃないけど……」
「名案です、タクミさん!」
満面の笑みになるクレア。
どうやら俺の案を気に入ったらしい。
ランジ村なら、周囲にフェンリルがいるし村の人達も全員見知った人なので、二人っきりで見て回るくらいはできるけど、やっぱりなんとなく違う。
デートというなら、できればラクトスだろうな。
あと、ランジ村だと村の人達の目が気になるし、使用人さんや護衛さん達も紛れ込んでいる……いや、村の中を歩いていたりすると思うし。
……絶対、皆生暖かい目で見て来るだろうからなぁ。
ラクトスなら、行きかう人が多くてそういう視線は多分少ないだろうし、まだ見た事のない店や場所もあるから、そういう所へ行けば新鮮な気持ちでクレアとデートできるわけだ。
完全に、今話しながら考えた事だけども。
ちなみに、デートと言えば待ち合わせ! と日本にいた時とある親族の女性から強く言われた事があるが、それは難しいので断念しておく。
クレアを完全に一人にするわけにもいかないし、待ち合わせに適した場所とか知らないからな。
「まぁ、こんな話をエッケンハルトさんの前でするのはどうかと思いますけど」
父親の前で娘とのデート計画を、なんて今更ながらに微妙な気分になる。
エッケンハルトさんの前でも、控えようとしていてもクレアとイチャついてしまう事もあるので、本当に今更だが――。
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