男女どちらがどちらを守っても気にされないようでした
火の属性と相性がいいクレアだが、通常の霧を発生させる魔法に関しては、使えなくはないが苦手との事だ。
相性が良すぎて、火力調整が難しいとかなんとか。
火の属性との相性が強く出てしまうため、クレアとしては熱くない霧のつもりでも熱くなったり、霧にならず水を蒸発させた後に火が発生するとか、そもそも発動しないとからしい。
相性っていうのも結構大事なんだなぁ。
俺は調整が難しいという程、偏った相性はないみたいだけど……強いて言うなら、風の属性が関わる魔法だと、発動しやすかったくらいか。
クレアに見せてもらった魔法の数々は、俺が日本にいた時物語の中で憧れた魔法使いそのもので、羨ましくも感じた。
ちょっとだけ、今回教わった魔法に慣れたらもっと実戦的な魔法を考えてみるべきかな、と考えるくらいに。
まぁ、俺がクレアに今見せてもらった魔法を、全部一度ずつでも発動させると魔力がなくなりそうだけどな。
クレアが尋常じゃない魔力を持っているからこそでもある。
「クレアの魔法は凄かったし、十分に身を守れるものだと思うけど……これじゃ、俺がクレアを守るなんて言えないなぁ。ははは……」
もちろん、半無詠唱まで昇華させない限り長い呪文が必要で、それを発する時間がいるんだけど、基本的には護衛さんなりがなんとかしてくれるだろう。
あと、呪文そのものは声高に唱えなければいけない、というものでもないので走って逃げながら、隙を突いてとかでもいいわけだし。
ちなみにクレアから聞こえる呪文の言語だけど、英語やドイツ語やフランス語と思われるもの以外に、知らない言語もあった。
同じ呪文でも別の言語になったりして、ちょっとしたイントネーションの違いで翻訳される言語が違うようだ。
まぁ、言葉はわからなくても耳に聞こえて頭の中に入った時点で、意味はわかってしまうんだけど。
この不思議な自動翻訳、便利なのか不便なのか……。
とにかく意味だけはわかるので、便利なのは間違いないか。
「ふふふ、タクミさんに守られるというのも素敵ですけどね。もしもの時は、私がタクミさんを守ります」
「それだと、俺の立つ瀬がないなぁ。まぁ、適材適所じゃないけど、その時はお願いするよ」
少し照れ混じりに笑うクレアに、苦笑いで返す俺。
情けないけど、クレアと二人でいる時に人にしろ魔物にしろ、襲われて危険ならクレアに任せてしまった方が良さそうだ。
そういった状況にならない事が一番だけど、もしもの時はもちろん、俺が前に出てクレアが魔法を使うまでの時間を稼ぐくらいはするつもりだけど。
差し当たって、ランジ村にけしかけられたオーク達と対峙した時みたいに、クレアを背に庇って半無詠唱に昇華させた光の魔法で目くらまししたりとかだな。
当然ながら、剣があればそれも使うけど……剣の鍛錬も大事だけど、魔法の練習も頑張らないとな。
必要にならないように努力するのがまず先か……。
「はい、任せて下さい! 絶対にタクミさんは傷つけさせません!」
ふんす! というように胸の前で両手を握るクレア。
これじゃ、立場が逆転だな……まぁ、価値観的には俺が日本的でも少し古い考えだからだろうけど。
ちなみにこの世界、少なくともこの国では男女平等というべきなのか、男性が女性を守るものという考えはないみたいだ。
女性でも職業が限定されるという事はほとんどないらしい。
とはいえ、当然ながら身体的な違いはあるわけで、衛兵さんや護衛さんなどは男性の方が少し多いみたいだが。
まぁ公爵家初代当主のジョセフィーヌさんのように、貴族の当主にも女性がなれるみたいだし、ユートさんから聞いたけど、女王様というのもこの国の歴史上存在していたとか。
女性が男性を守るからって、何か言われたり変な目で見られる事はないんだろう。
……クレアに守られてよしとまではいかなくとも、こういうところにも慣れていかないとな。
「まるで、何かと戦うのが決まっているような意気込みだけど、できるだけ危険な事はしないようにするからね?」
「それは……もちろんですよ?」
「なぜこっちを見ないのか……」
これから先、何か危険と対峙するわけではないのに……と思ったら、目を逸らすクレアを見て少し不安になる。
まさか、何かあるとか、何かするとか考えているわけじゃないよね? と思って、問い詰めたかったけどなんだかんだとはぐらかされた。
危険な事じゃないといいけど、クレアなりに何か考えている事があるみたいだ――。
「ふむ……クレアも一人での行動はともかく、安心して行動させられるな。ふーっ、ふーっ……」
頑張って練習した魔法を見た後、というか話をはぐらかされた後、クレア、俺、エッケンハルトさんの三人で、椅子に座って休憩中。
エッケンハルトさんは、熱の霧に触れてしまって小さく火傷したらしい指先に息を吹きかけて冷ましながら、そう言った。
火傷なら、ミリナちゃんの傷薬やロエで治療すればと思ったけど……不用意に触った事からマリエッタさんに反省するためと、しばらくそのままでとの事だった。
「ふふふ……お父様に認められましたから、これで誰にも止められる事はありませんね。注意くらいは……あるでしょうけど」
「クレア?」
「い、いいえ、なんでもありません」
何やら俯いて、微笑む……を通り越してほくそ笑んでいる様子のクレア。
微笑む時も今のように「ふふふ」と口に出す事が多いクレアだけど、同じ「ふふふ」でも今のは企んでいる雰囲気だったなぁ。
ぼそぼそと呟いていた言葉は、断片的にしか聞こえなかったので呼びかけると、首を振ってごまかされた。
むぅ、また何か考えている風だったのに……。
「……クレア、タクミ殿を不審がらせるものではないぞ? 今の笑み……何か考えているんだろう? まぁ大体予想できるが」
不穏な笑みを、表情と声から見抜いたらしいエッケンハルトさんから注意されるクレア。
どうして私が何かを考えていると? とクレアから聞くと、いつも私がそう言った笑みを浮かべるからだ! と、あまり自慢にならないような言葉が返って来ていた。
確かに、エッケンハルトさんは面白そうな事を考えているとき、不穏な笑みを浮かべる事があったな。
ともあれ余計な事は言わず、この流れに乗っていたらクレアが考えていた事がわかりそうなので、黙って二人の会話を聞くだけにしておく。
……あぁ、ライラさんが淹れ直してくれたお茶が美味しい――。
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